愛液のかわりに溢れるものは血液でも、甘い喘ぎのかわりに零れるのは苦痛の呻きでも、黒裂はただの一言も拒否の言葉をもらさなかった。
大丈夫かと言葉をかけてやる。我ながら滑稽だ、この状況でまだそんな優しげな面の皮を癒着させている。黒裂はただ苦しげに
――来るときが来ただけです
とだけ言った。
丁寧な愛撫もない。微笑んで口付けをかわすこともない。彼女の未発達な体から流れる血はさながら生け贄のようだと思った。シーツを握りしめたその手が俺の背に回されることは多分ない。
ぺニスを奥へ進めるたび、彼女は息をつめて痛みに耐えている。処女を引き裂かれる恐怖を、少女から女へうつりゆく不安を、俺は知らない。
律動を早める。己の快楽のために彼女の狭すぎるほどの膣をかき回した。彼女の息づかいはもはや過呼吸さながらに苦しく、それだけに沈黙の流れる空間には熱帯夜のような水音だけが耳をつんざいた。

これが、フィフスの人形か。俗に言う愛玩人形と、何が違うというのか。

黒裂は子宮深くに俺の精液を受け入れた。それが何を意味するか、分からぬ歳でもあるまい。
だらりと開いた彼女の脚の付け根に、乾いて擦れ、茶色くなった血液が付着していた。長い髪を額に張り付かせ下腹部に手をやる黒裂を見た。
俺は今一度彼女に問うた。大丈夫かと。
黒裂は天井を見つめながら、それでも口元だけには痛々しいほどの微笑を浮かべた。
「光栄です、聖帝」
途切れとぎれの息の下、芝居がかったような台詞で俺に気遣いを見せた彼女は、紛れもなく人形ではなかった。
はじめて彼女の手を握る。冷えていて、それでいて、手首から脈を感じた。
内腿の血を拭ってやりながら、
「サッカーが、好きか」
と訊いた。
汗と涙で汚れた黒裂の目が、はじめてしかと俺を見た。彼女は俺にすがりついて泣いた。涙が枯れても彼女は泣くのだろう。そして涙が枯れた頃、彼女は「黒裂真命」としてピッチに立つことを許されるのだろう。

せめて俺を見たあの目が、人形の硝子の目のようにならぬよう祈ることしか、今の俺にはできない。

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