水、水が飲みたい。
皆暑くないのか、喉がかわかないのかボクにはわからないけど、水、水が飲みたい。水が欲しい。ボクは人一倍喉がかわく。

サスケがちらりと横目で、水分補給をするボクを呆れたみたいに見てくる。
「またか」
「またさ」
ふうと息を吐いて眉根をひそめ、背を向けたサスケに後ろから近づく。大蛇丸の実験施設で、水槽の外で初めて対面した時のように。手の形はピストル。
「何の真似だ、水月」
「バーン!」
言うが早く、ボクは水化して彼から離れる。離れて、ソファに腰かけて、サスケにたずねる。
「深海生物、知ってる?まあ、ボクも詳しくないけど」
奴は何にも答えない。
「ヒトガタ、っていうのがいるの。写真を見たら、水槽にいる時のボクにそっくりでさ」
…笑っちゃうね。
「何が言いたい」
「深海じゃ、水圧でぺしゃんこかもね、ボク」
「下らない事を言うな。お前に限って水圧も何もあるか」

動かないで怪訝な顔のサスケの前で、首斬り包丁をどかっと床に立てる。床に刺さった大剣を、サスケが見る。ボクも見る。
「ぺしゃんこ、なってみたいかもね」
「下らない。なんなら今すぐそいつで潰してやるか?」
「そりゃいいや。水化しなかったら、さぞ面白い様になるだろうさ!」
さて。我ながら面白そうだと思いつつも、それを床から引き抜いて彼に渡す。
「はい、どーぞ」
――バカかお前?
とりあえず大剣を持ってはいる、ような状態のサスケは本格的にイラっときたようだ。苛つかせたのがボクだと思うと少し嬉しい、だからって顔には出さない。
次の瞬間、ボクは肩から袈裟懸けに斬られていた。傷は浅いけれど、服が破れてだらしなくヒラヒラしている。
「言っただろう。オレ達は戦力不足だ。お前の下らない戯れ言に付き合っている暇はない」
ああ、首斬り包丁じゃないや。サスケの刀で斬られたのか。

「ヘッ、残念」
「さっさと着替えてこい」
「何、自分でやっといてその言い方?…まあいいや。それよりねえ、サスケ」
サスケの手から離れて、ほったらかしの首斬り包丁。ああ、こいつも水分がないと駄目な奴だったな――まあ、こいつの場合は血液だけど。
「水がもっと飲みたいんだけど。全部飲んじゃったんだ」
サスケはもう何も答えない。ああそうだ、良いこと思い付いた!
「じゃあさ、サスケ。ボクが水化したら、コップに二杯、その水をくんでおいてよ」
「…とんだ悪趣味だな。自分で自分を飲むのか」
「まあね」
コップをふたつサスケに手渡すが早く、水化。ちゃんとコップに収まるように位置まで考えてね。

水化したまま、コップに溜まったボクを見る。喉がかわく。かわくけど、サスケは最大の誤算をしてる。何でわざわざ『溜める』容器をコップにしたのか、気付いてないね。

体をもとに戻したら、サスケと乾杯するためさ。
ほらサスケも、喉がかわかない?
水だ、水を飲もうよ。


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