今日も空は青く突き抜けていた。

走って走って息を切らした平良は、そうしてようやくあの白茶けたビルを見上げた。
あの日から彼はずっと、片時も離れず自分の傍にいる。
その背中ばかりを今日までずっと見つめていた。いつかまた振り向いて、自分の目を見て、誉めて、照れて、笑ってくれると信じて、そしてほんの数時間前に地下鉄に乗って、そして走り続けたのだった。

嘘をついた外泊許可は三度目で、今日は寮にも帰らない。エレベーターに乗り込んだ。
もうすぐ会える、きっと今日こそ彼のあの笑顔に会える。ドアをあける。まっすぐ進む。待ち合わせをしたのだから、律儀で真面目な愛しい彼は、きっと待っていてくれる。

エレベーターが軽く音を鳴らして最上階へ到着したことを告げた。平良にはその音が、エレベーターの停止する軽い振動までもが愛おしかった。
屋上への階段を、少しだけ整った息でかけ上がる。鍵が開け放されたままのドアを開ければ、はたしてそこは、平良がただただ長い間祈り続けた願望をようやく叶えてくれた。

彼がいる。やっとここまで来た。やっと顔を見てくれた。やっと顔が見られた。やっと笑ってくれた。頬を軽く染めて照れて、先輩、俺、さっきからずっと待っていたんですよと少しだけ膨れっ面になった。風がさらと吹いた。遠く見える海は、水平線に靄がかかっていた。
ああ、なぜこんなに愛しいのだろう。分からない、分からないけれど平良はこの彼を、出右手豊を、愛していた。

息を切らせたまま平良は笑った。笑って言った。
「会いたかった、豊」
そして思わずいつもより勢いをつけて彼に抱きついた。暖かい、懐かしいその暖かさをこの世界の何よりも幸福だと思った。

そしてそのままアスファルトに叩きつけられた。
屋上のフェンスは錆びていた。


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