戸籍すらなく、捨て子だった自分を、とある施設から引き取って育てたのは総帥とその下についている人間たちだった。

総帥はオレにサッカーを教えた。世宇子の中の誰よりも早く、サッカーだけをずっとずっと教えた。
だから自らにとって総帥こそが神の中の神、そしてその神が誰よりも先んじてに傍に置いた人物、それが自分だということがこの平良貞という人間の、最上級のプライドだった。

初めて神のアクアを飲んだのも自分。凄まじいまでの副作用に耐えながら、その効果を初めて証明したのも自分。与えられた名前はヘラで、それがどうしようもなく嬉しかった。
ヘラ。気高く美しく丈高い、雷振るうゼウスの高貴なる妻。ギリシャで生まれた神話はどこまでも、この自分の高い高いプライドを満たしてくれた。

総帥、オレはあなたのためなら命だろうが体だろうが何だって差し上げる。いつも強く美しくあなたの傍にいたい。そうして生きてきたこの14年間は、全てあなたのためであり、あなたの恩寵であるのだから。
愛しています。敬愛しています。この自分の存在をかけて、あなたを愛しているのです。

そして僕は15になりました。
総帥、ひとつお訊きしてもよろしいでしょうか。
彼は誰なのでしょうか。この、亜風炉照美という、この金髪の、この、彼は。


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