カボチャ仮装祭(ハロウィン)の日  〜柊→忍人〜







「いやですね、忍人。

 今日一日は、私のことを『 伯爵 』と呼んでください」





ああ…、またきっとニノ姫や風早たちがおかしな行事を

はじめたのだな…と、忍人は頭が痛くなった。





天鳥船の忍人の室。



本来なら秋晴れのつづく、気持ちいい季節のはずなのに、

今日はあいにく朝からの大雨。天候がおもわしくない。



そこで、今日一日はからだをゆっくり休めるための

休息日にしようと、朝の集まりで決まったのである。



忍人もめずらしく今日ぐらいは自室でのんびりすごそうと

くつろいでいたところ、その安息をやぶる忌まわしい声が

戸口からきこえてきた。





「忍人、わが君からキミへの贈り物を預かって参りました。

 あけてくれませんか?」





聞きおぼえがある嫌な声だ。



せっかくの休日を邪魔されたくはなかったが、

次代の王となる「ニノ姫」の名をだされては

居留守もつかえず、忍人はしぶしぶ戸口をあけてやった。



案の定、訪問者は柊である。



だが――――――



なぜかいつもの濃紫の胡服ではなく、

何やらみなれない装束をまとっている。



足首まである長さの黒い外套で、裏地は真紅。

頭には円柱のしたにツバがついたような黒色の

かわった冠をのせている。



外套のしたにきこんでいる内衣も細袴も黒色で

全身「黒」が基調といういでたち。



唯一、手袋だけがいつもと異なる白色をしていて、

その手には細身の杖と大きなズタ袋をたずさえていた。





「それで? その奇天烈な伯爵が俺になんの用だ?」



「失礼な。

 これは異世界の尊い貴人『 ドラキュラ伯爵 』

 という方の装束を模した衣装なのですよ」



「貴様が尊貴だの伯爵だのいうような柄か?

 いつもよりうさんくささが倍増しているだけにみえるが……」





これはあくまで忍人の感想である。

はたからみれば長身の柊によく似あっているのだが

「柊憎し…」の忍人の偏見脳を通してしまうと

どうみても変人にしかみえなかった。





「わが君から私への贈り物だというのに、

 ヒドイいわれようですが…、まぁ、いいでしょう。

 とにかく忍人の分もお預かりしています。

 これを身につけて私についてきてください」





そういって柊は手にしていたズタ袋をさしだしてきたが、

忍人は手をださなかった。





「どうして俺がそのようなものを着なければいけない?」



「今日は異世界では「万聖節前夜祭」という行事が

 行われるのだとのこと。



 仮装をしてみなで菓子をたべる楽しい祭りだと

 わが君がそれは楽しみにまっておられるのです。



 さぁ、忍人も早くこれを着てください!」



「断る」



「言い切りましたね……」



「貴様とそろいの装束など、いくらニノ姫の命令でも願いさげだ!」





忍人がきっぱりはっきり拒否すると、柊はあたまをややうつむかせ

苦しげにまぶたをふせた。





「いえ……。たいへん残念なことに

 私と君の衣装は『 おそろい 』ではないのです……。

 これを見てください!」





柊がさしだしたズタ袋のなかをのぞきこんでみると、

毛皮のようにモフモフとした温かそうな見ためのものが

つまっていた。



むずとつかんでとりだしたあと、驚愕する!





「これは…? 狗奴の耳ではないか?

 それにこちらは狗奴の……尾?



 どうしたのだこれは?!

 まさか狗奴の兵から、切り落としたのかっ!!」



「落ちついてください、忍人!

 それは術をつかい、本物そっくりに作りあげただけの

 まやかしの品ですから。だから安心してつけて……」



「断る」



「なぜ? わが君のご命令なのですよ」



「断固として拒否だ!」



「どうして?

 なにが君をそんなに頑(かたく)なにしているのですか?」





忍人は腕をくみ、目のまえの人間より低い身長なのに、

気持ちだけはエラらそげな態度でフンっと見おろした。





「貴様の術でつくられた品など、

 なにか裏があるに決まっている。



 どうせあやしげな呪(まじな)いか何かが、

 その装束にかけてあるにちがいない」



「……どういう意味ですか……」





今度は柊が本当に高い位置から、忍人をじっとりと

見おろす番だった。



険悪な雰囲気。



だが柊のほうが『 多少 』大人ということなのだろうか?

はなはだ疑問なのだが……、とにかく

クスとした微笑を顔にうかべた後、機嫌をいっぺんさせた。





「まぁいいでしょう。

 君のご期待にそいかねてしまい申し訳ないのですが、

 それは那岐の鬼道がなせる術(わざ)。

 …といえば、いかがですか?」



「那岐か……。

 彼の腕は俺も買っている。信用しよう」



「……私に対してと、扱いが違いすぎませんか?」



「日ごろのおこないの差だ。



 それにおまえのような奇妙な格好なら断るところだが、

 狗奴の耳と尾など普段から見慣れているからな。



 これぐらいのことなら、しかたない。

 ニノ姫の楽しみに今日くらいつきあってやる」



「つける気になってくれたなら、とりあえずは重畳。

 では早速……」





忍人は袋からとりだした耳と尾を、頭と腰の下のほうに

くっつけてみると、まるでもとから忍人の身体の一部

だったかのようにぺたりと吸いつき、くっついた。





「おい。身体に同化しているようだが、

 ……大丈夫なのか?」



「ええ。那岐によれば、明日の朝日とともに

 消えてしまうそうですよ」





那岐のいうことなら…と安心し、

忍人は自分の頭と腰に手をやってみる。



ピンとたった耳

ふさふさのしっぽ。



多少、頭や腰にもっさり感があるが、特に重かったり

不快だったりもしない。





(まぁ、気にすることはないな……)





と安心して忍人が正面をむきなおると、

むかいの柊が、両手の指を顔の上でからみあわせて

瞳をウルウルとさせている。



うっすらとあかく顔も上気しているようだ。





「……ああ、やはり愛らしい。

 忍人にわんこ耳とモフモフしっぽだなんて……。

 私はきみのためになら死でもいいっ!」





理解不能の感動にうちふるえているらしい

柊の様子にあきれかえり、忍人は目を半眼にした。





「貴様……。頭がおかしい……。

 そうととしか思えん」



「羽張彦……、一ノ姫……。

 私は、いま、今日ほど『生きていてよかった』と

 思うことはありませんっっ!!!」



「くだらんことで羽張彦の名前をつかうな!



 今さっき、君のためなら死ねると言っていた口で、

 生きててよかった…などと矛盾も甚だしい……。



 だから貴様は信用できないんだ!」





やはり二ノ姫の行事ににつきあうのではなかった…

と、忍人は激しく後悔したが、今更あとの祭である。





「俺の頭に狗奴の耳と尾がついたぐらいでなんなのだ?

 足往など、人の顔に狗奴の耳と尾をもつものなど

 めずらしくもないだろう?」



「全然ちがいますっ!」





今度は柊がきっぱりはっきり言い切った。





「足往と一緒にされては困ります。



 ぬばたまの黒髪に青い星のような瞳。

 その誠実であたたかそうな声で発せられる

 冷たい物言いが対照的で、また絶妙なのです。



 剣士とはおもえないほど、しなやかで細身の身体。

 すらりと長い手足に、ほっそりとした首に肩、

 そして腰!



 そんな『葛城忍人』にもふもふのケモノ耳と

 シッポがついているのがよいのです!」





忍人が目を半眼にしてあきれ顔でみまもるなか、

柊はまたわけがわからない陶酔状態におちいっていく。





「あぁ…。これであと……。

 手のひらにぷにぷにの肉球さえついていたら、

 完璧なのに……! 」





顔をすこし斜めに決めてから、くやしそうにに唇をかみ、

長いまつげをこきざみにふるわせたりもしている。





(なにが完璧なのか……。

 こいつの頭の中身は理解できん……)





柊のことが理解できないのは今にはじまったことではない。

とりあえずこのまま捨てておけばいい、と忍人はきめて

二ノ姫に貰った袋に目をやると、まだ何か入っていそうな

ふくらみがある。





「ん、袋の中にまだなにかあるな?

 なんだこれは?」





袋のなかにはいった最後の何かへと

忍人は手を伸ばしてみた。





そのすこし後のこと――――――





      *





中つ国の第二王女。

二ノ姫の部屋では那岐が困惑しながら

さらさら直毛の金の髪をかきむしっていた。





「風早! ちょっとこれなんなんだよ

 作成リストつくったのはアンタなんだろ」



「なにか問題がありましたか?」





那岐が神経質そうにこめかみをピクピクさせていても

まったく風早は動じていない。

いつもどおり能天気さで対応するものだから、

余計に那岐のイライラがつのっていく。





「あるから聞いてるんだよっ!



 千尋がどうしてもハロウィンをするって

 うるさいから、僕は協力したんだ。



 アンタがつくったリスト通りに、

 コスプレ衣装やアクセをつくりまくって……。



 今やっと終わったからさ、誰のとこに何をもってたのか

 リスト確認してたんだけど、……なに、これ?」



「どうしたの、那岐?

 だれがどの衣装か決めたのは私だよ。

 

 風早は那岐がつくりやすいように、

 具体的に必要なものを考えて、

 リストを作ってくれただけなんだけど…」





那岐の声がだんだん荒くなっていくのが気になったのか

途中から部屋の主・二ノ姫も会話にくわわってきた。

彼女のかおをみて、那岐のあたまも少しだけ平静を

とりもどしたようだった。





「これ、僕がもらったリスト……」





那岐のさしだした作成リストには、



長いマント(黒)、シルクハット(黒)・手袋(白)・

ステッキ・ケモノ耳(犬)・しっぽ ……等々。



必要な衣装と小物のなまえがたんたんと書かれていた

だけで、だれが何の役なのかまではわからなかった。





「さっき配達係の布都彦がもってたリストをみたら

 『 犬 』のコスは、葛城将軍なんだろ?

 ケモノ耳やしっぽっていうのはわかるけど、

 『 首輪(革製・鎖あり) 』ってなんなんだよ!?」

  



      *



一方、すこし前にもどって、

忍人の室(へや)では――――――







「これは…どうやって使うものだ?

 革の帯のようだが……?」





中つ国では、牛や馬にヒモをかけたりはするが、

犬は基本的に放し飼い。

狗奴の一族でも首輪などはめたりしない。



そのせいで二ノ姫の名で贈られた『それ』は

柊と忍人にはなじみのないものだった。





「こちら側には鎖もついているな……」





忍人が見慣れぬ物について考え込んでいると

ようやく正常な状態にもどった柊がクチをはさんできた。





「ああ、その革帯は『首輪』といって、

 首に巻くものだと風早がいっていました」



「首に……。異世界の首飾りか?

 かわっているな…。まぁいい……」





そういって忍人は帯状に長くなっているうすい革を

首に巻きつけてみた。





「……こう…で、いいのだろうか?」



「手伝いましょう。



 ここをここに通して、こっちをここへはめて……。

 おそらくこれをこの穴にいれて……



 ……どうでしょうか?」



「なんとなく、首にはまったような気はするな」



「この首輪とやらについている長い鎖。

 なにやら重くてとても邪魔そうにみえますね」



「たしかに少し重いな……。

 柊、その鎖の先、ひっぱるなよ」





引っ張るな…といわれると、逆に引いてみたくなるのが人情。

柊は、手にしていた鎖をなにげなくクイっとひっぱってみた。





「………クゥッ……!」



「………!?………」





ひっぱられたはずみで、首が圧迫され、

忍人が一瞬、眉根をよせて苦しげな表情をした。



その表情をみたとたん、柊の身体のうちがわの

なにかが『めらっ』と燃えあがったかのようだった。





「これは……」





柊はアゴにかるく指をあてて、

なに事かを深刻に考えこむ。





「これには…。

 この鎖には、あきらかに……なにかが。

 私のなかの『何か』を刺激するなにかがあります!」



「……また、わけのわからないことを……」



「この鎖をもっているのは私…。

 そしてこの鎖の向こうには忍人がつながれている。

 私と忍人……運命の絆…、…いや鎖か……」





柊がブツブツと何かをとなえながら、

鎖をじゃらじゃらと動かす様子を

忍人は半ばあきれて、半ばあきらめきって

氷のように冷たくながめていた。



すると――――――





「忍人……。願いがあります。

 一度だけでかまいません。

 『 ご主人様 』と呼んでくれませんか?!」



「全力で断る……」






「あいかわらず、君はつれないことだ……。

 でも君がその耳としっぽと首輪をつけた姿で

 そう呼んでくれたら……!

 なにかあたらしい境地がひらけそうなのです……!」





忍人は青い青い瞳でスルドく柊をにらみつけたあと、

貴様にはつきあっていられない……といって

ツカツカと戸口にむかって歩きだした。





「あぁ、忍人。逃げないで下さい!」





忍人はすでに忘れてしまっているが、

鎖の端は柊がもったままだ。



柊は逃げようとする忍人をひきとめるため、

ぐいと後からその鎖をひっぱった。





「……ぐぅっ……」





首輪で首がしまり、忍人がうめき声をあげる。

そしてさらに後ろへと引っぱられて、

柊の胸のなかへと抱きこまれてしまった。





「こんな昼間から私の胸にとびこんでくるなんて……。

 忍人もだいたんになりましたね」



「なにを勘違いしている!

 貴様がうしろから引っぱったのだろうがっ!!」





忍人は全力で逃げようとするのだが、後ろから柊に

はがい絞めにされてしまって動きがとれない。





「腕のなかで暴れないで下さい、忍人。

 ああ……、でも……」





忍人を力ずくで抱きかかえながら、

いやがる黒髪に無理やり頬ずりをくりかえす柊は

至福の表情をしていた。





「この『 一本の鎖 』で君と私がつながっている。

 こういう関係に、どことなく憧れを感じてしまいます。

 君は私だけのもの。その証しのような……」



「おかしな御託はいい。

 オレは帰る。はなせっ!!!!」





なんとかこの場から逃れようと、忍人はもがいて

みるが、首輪と鎖にいましめられて逆らえない。





「暴れてもムダですよ、忍人。

 この首輪と鎖がある限り、

 君は私から逃れられないのですよ……ふふふ」





柊の顔が普段以上にうさんくさく、

下心ありすぎる表情で忍人に迫ってくる。



忍人が嫌がるのをものともせず、強引な頬ずりを

繰り返していたが、なぜかそれがピタリと止まった。





「わかりましたよ……、忍人」



「なにを…突然っ!! いいから、離せっ!!」



「この首輪は、君は『 私の犬 』だという証しです。

 つまり君は私のものだと、わが君がお認めくださった

 証しでもあるのです! なるほど。……フフフ」



「なにが『 なるほど 』だっ!? そんなわけがあるかっ!!

 妄想もいいかげんにしろっ!」





そういって、逃げようとするが、やはり





「ぐっ………」





やはり首輪と鎖が邪魔をして柊の魔の手からは逃げられない。





「この鎖のおかげで、私の君にたいする

 『 所有欲 』と『 独占欲 』が満たされていきます……。

 めくるめく甘美な世界にクラクラしそうです!」



「貴様っ、いいかげんにしろっ!!!!」





おなじことが何度もくりかえされ、

忍人の怒りが頂点へ達しようとしていたところ、





「……そんなに解放して欲しいのなら、

 ひとつだけ方法があります」





と、ふって沸いたような答えが急にかえってきた。





「わが君が今日はそういう日だと仰っていたのだから、

 ……しかたないことなのですが……」



「なんだ、早くいえ!」



「君、お菓子を持っていますか?」







      *





一方、二ノ姫の部屋では――――――





「この『 首輪(革製・鎖あり) 』ってなんなんだよ!?

 僕はてっきり、小道具に本物の動物をつかうつもりで

 ウサギやアヒルでもつなぐんだろうって、思ってたのに…」





芦原家のなかではいちばんの常識家・那岐が

忍人用のコスプレ小物について風早を問いつめていた。





「人間に首輪って、趣味うたがっちゃうよ。

 それともアンタ、そっち方面の趣味があるわけ?」



「でもおむかいの八地さんがいってましたよ。

 犬には首輪をつけておかないと

 市役所の環境課がきて怒られちゃいますよって。

 だから、必要なものだと思ったんですが…」



「それはむこうの世界のはなしだろ?」



「ねぇなぇ風早、首輪がダメっていうなら、

 ハーネスでもよかったんじゃない?」



「ハーネス…って、胴輪のことですね。

 なるほど……。

 忍人にはそちらのほうが似あったでしょうか?」



「似あうとか、似あわないじゃないよ!

 千尋もなにいってるのさ?!

 たかがハロウィンの犬のコスプレに

 首輪や胴輪までは必要ないだろ……」





わりと律儀で生真面目で神経質な要素がある那岐。

かれがそんな一面を披露していると、

二ノ姫は風早ゆずりの能天気さを披露しはじめた。





「やっぱり忍人さんだったら、絶対ハーネスより

 首輪を押すよ!

 チワワとかポメラニアンみたいなかわいい犬に

 かわいい首輪をつけてあげたら、

 もうかわいすぎてキュっとしたくなるし……」



「……僕にはどうしても、葛城将軍が

 そんなカワイイ超小型犬にはみえないんだけど………」



「そうかなぁ、似あうとおもうんだ。

 首輪のかわりに赤いリボンでもいいかな。

 流行のスカーフ型のお飾りでもいいしw 」





忍人のことまでキュっとしかねない二ノ姫のようすに

那岐の頭痛がひどくなり、

となりの風早にうらめしそうなまなざしを送った。





「アンタさ、僕のことは放任主義だったのに

 千尋は逆にかまいすぎたんじゃない?

 なに、あの純粋無菌培養っぷり。

 だれかにソックリなんだけど……?」



「オレのお育てした姫にまちがいはありません!」



「あの将軍が小型犬にみえる時点でマチガイだろ?」



「首輪って、そんなにマズかったですか?」



「ふつう首輪つけて歩いている人間をみたら

 ドン引きしない? 」



「そうですか?」



「ハロウィンなんだし、

 首輪くらいみんな気にしないよ」



「ふたりとも……。

 いっておくけど、ここは豊葦原で異世界じゃない。

 それにみんながみんな千尋みたいじゃないんだよ。



 あれは特定の趣味のヒトたちにとっては

 異常に執着するアイテムだし……って?!」





那岐が特定のだれかを想定した

悪意のある忠告をもちだしかけたときだった。





「風早っ、二ノ姫! 金輪際っ、二度とっ、

 柊に異世界のおかしな行事をふきこむなっ!!」





バンッと大きく戸口が開いて

話題の主だった忍人が部屋の中にとびこんできた。





「キャーーー、忍人さんのヘンタイっ。

 あっちいって〜〜〜っ!!!」



「千尋大丈夫ですよ。貴女はオレが守ります。

 うしろに隠れて………」



「なんだ……。

 いったい俺が……、どうかしたのか?」





千尋と風早の過剰すぎる反応に、

怒りくるってとびこんできたはずの忍人のほうが

毒気をぬかれてしまっていた。





「……僕としては、これくらい

 どうってことないと思うんだけどさ……」





那岐がチラっと目をおくると、両手で目をおおった

二ノ姫が顔を真っ赤にして風早の背中に隠れている。





「千尋はどこかの誰かが純粋培養したから、

 刺激がつよすぎるんだよ。

 いきなり、その…、半裸なんてさ……」





那岐にそういわれ、忍人は自分の姿をみた。



頭には、狗奴のようなピンとした耳。

腰の下方には、フサフサのしっぽ。

ここまでは、ありふれた「犬」の仮装である。



ただし、首には鎖のついた首輪とさらに

上半身は露出し、素肌がさらされている。





「それにそのズボン……。

 ヘソまででちゃってるし、

 今はギリギリだけど、それ以上前があいちゃったら

 アブナイなんじゃない?」





下半身にはいつもの白い細袴こそはいているが

腰のあわせがいくつか外されていて

あいまからちらりとヘソがのぞいている。





そのときの忍人は、いつもよりもかなり

露出度たかめだったといえるだろう!





「忍人、うら若き乙女のまえで、

 素肌をさらすものではありませんよ」



「ひっ…らぎっ、きさまあぁぁぁぁぁ……!?」



「『 飼い主 』を置いていくなんて

 イケナい『 犬 』ですね、君は。

 お仕置きが必要でしょうか……ふふふ」





忍人は今にも破魂刀を抜きそうな勢いだったのだが、

たのみの双剣は、どこかへおいてきたのだろう、

腰からハズされてしまっていた。





「だれがだれの『 飼い主 』だ?!

 おれは貴様の犬などではないっ!!」



「……あ〜ぁ、遅かったか……」





那岐は頭に手をあてて、うつむいてしまった。

那岐としては、アブナイ勘違いやイケナイ妄想がひろがる前に

はやめに回収しておきたかったのだが、もう遅いようだ。



『 アブナイ人にいけないアイテムを持たせた

  結果がこれだよ…… 』



というタグが、おもいきりつけられそうな末路だった。





「その鎖をとっとと放せっ!」





忍人は歯がみしながら、柊をにらみつけている。

柊は柊でその端正な顔に黒い微笑をうかべて、

忍人をふんと鼻でせせら笑った。





「どうかお許しください、わが君。

 忍人は幼き頃からガサツな男ばかりに

 囲まれて育ったせいか、いささか配慮がたりぬのです。



 龍の神子であらせられる清き乙女の御前で

 このような姿をさらすとは……。

 あとできちんと『 飼い主 』である私が

 躾けなおして参りますゆえ…」



「躾だと?! どうして俺が貴様に

 躾けられねばならないのだっ!!!」





柊に対する忍人の怒りが一方的につのっていく。

その姿を風早はじっと食い入るようにながめていた。





「う〜ん、こうきたか……」



「どうしたのさ……?」



「いや…オレはきっと忍人なら柴犬・秋田犬みたいな

 気性はちょっときついけど、コロコロっとして

 かわいい感じの犬になるって想像していたんです。



 ですが――――――――――」



「アンタまで……。

 あの人がそんなにかわいらしく見えてるの?

 ひょっとして僕の目がおかしいのか……??!」





那岐にはどうしても、葛城将軍がチワワやポメラニアン

柴犬や秋田犬のような、かわいらしい生き物には

見えなかった。





「まさか忍人が、こんな……

 ドーベルマンやアフガンハウンドみたいな

 スマートで色気たっぷりな犬に変身するなんて……。



 オレの想像力はまだまだでしたよ……」



「まだまだ…って、なにいってるの……?!

 上半身は半裸のうえにヘソまでだして、

 なにもグラビア撮るわけじゃなんだよ!



 ハロウィンの仮装にしては、

 ちょっとやりすぎなんじゃない…?」 



「だまれっ!! 俺だって…!」





柊との不毛な会話のやりとりをぬって、

忍人が自分の名誉のために絶叫した!!





「俺だって、好き好んでこんな格好をしているわけじゃない!

 これは……柊のやつがっ?!」



「……柊が、どうかしたの?」





忍人の絶叫につられて、風早の背中から

二ノ姫が半分だけ顔をちらりとのぞかせた。



風早自慢の純粋無菌培養のニノ姫のひとこと。

忍人は「しまった」とばかりに、顔をひきつらせた。







「あ、忍人さん……。

 首すじのところムシにくわれてますよ」





さらにその一言で、姫と柊以外の周辺が凍りつく。





「よく見るとここにも、そこにも、あそこにも。

 いっぱい食われてますね。

 もう寒いのにまだムシってでるんだ。



 困りましたね…。忍人さんの室、

 別の場所へかえてもらいましょうか?」



「わが君。そのムシというのは、私のことなのです」



「もう、柊のコスプレはムシじゃなくて、

 吸血鬼っていう魔物なんだよ」



「いや……千尋。

 そういう意味じゃないよ…多分」



「え? 那岐どういう意味?

 もしかして柊が忍人さんの血を吸ったって設定なの?

 それにしては、胸やお腹のあたり……もごもごもご」



「はい。良い子はもうそこまでにしておきましょうね」





風早がくるりと後ろをふりむいて、両手で

ニノ姫の口を無理やりにふさいだ。



そして半身だけそらして、にこにこ笑顔を

忍人のほうへとむけてきた。その笑顔をよく見ると

すこし引きつっているかもしれない。





「ね…ねぇ、忍人。ひょっとして君、柊に……」



「聞くな……風早」



「じゃあ、柊……。あまり聞きたくないけど、

 念のために聞かせてもらっていいかな?」



「なんなりと、どうぞ」



「聞きたくないなら、聞くな、風早っ!!!!

 柊はもうそれ以上しゃべるな!!!!」



「君さ……。忍人に、なにを――――――」



「それ以上聞くなっ!!!」



「ああ、忍人が菓子をくれなかったので、――――――」



「それ以上はなすなーーーーっ!!!!!」









『本日正午すぎ、天鳥船在住の自称・軍師 柊27歳が、

 同船在住の将軍21歳男性にたいして暴行におよんだため

 強制わいせつ目的のいたづら容疑で逮捕されました』





天鳥船内にもしニュースがあった場合、

こんな内容の原稿がながれたかもしれない。





『 お菓子をくれないと、イタズラしちゃうゾ♪ 』





忍人の絶叫がニノ姫の室内に木霊しているハロウィンの今日。



天鳥船のなかは、今日もグダグダ。

なんとなくのん気でけっこう平和な一日だった。








ときのあはひ 様からちょうだいした
ハロウィン小説でした!
(間に挟んであるのは私がときのあはひ様に献上した挿絵です)

うちのハロウィンイラストを見て
イメージをふくらませて書いて下さったそうです!

鎖やけも耳の感じや柊のドラキュラ服をかなり気に入って頂けたようで…
こんなにも忍人萌え―――!!な作品に仕上げて下さいました。

柊忍にハマってからずっと見ていたサイト様と合作っぽいことができるなんて
嬉しいことこの上ナシっ!!

しかも私が、小説の挿絵も描きたいと言ったら快く承諾して下さって
超目立つ所に絵を置いてくれてました… いい人っ…(>_<)ウルウル


重ね重ね、お礼申し上げます。
こちらの小説、大切にします!!

そしてこれからも宜しくお願いします〜(*^_^*)





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