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「そうか、一緒に行くことにしたのか」

朝陽が大地を照らす早朝。
活動し始めるひとの波に乗りながら訪れたメルダシオ協会の救護施設。簡易的とはいえ随分と上質な寝台の上でブレアはnameを見上げて微笑んだ。

ブレアの傷はノクティスの魔法により完治している。
よって包帯やその傷跡すら身体に残っていないのだが昨日の今日ということもあり、一晩救護施設で夜を明かすことになったのだ。
そんなブレアのもとを訪れたname。
ブレアの容態を伺い、それから自分のこれからのことを伝えた。

ノクティスの旅に同行すること。よってメルダシオ協会を後にするということ。

否定的な言葉を受ける覚悟はしていたのだが、それとは正反対の爽やかな笑みを向けられたnameは一瞬呆気にとられる。
自分で決めたことだけれど、やはり隠せない申し訳なさが胸の中で燻るっているのだ。

「たくさんお世話になったのに恩のひとつも返せなくてごめんなさい」
「恩返しを期待してアンタにいろいろ教えたわけじゃないさ。それに、自分で決めたことなんだろう?」
「はい」

この時代に放り出され、右も左もわからないnameに一番最初に声をかけてくれた。
それから生きていくための場所も知恵も方法も教えてくれたブレア。
その恩に報いるためのことは何一つとしてできていない。最初に貸し与えてくれた資金だって未だに。
それら全てを綺麗さっぱり水に流す、なんてことは絶対にしないのだが、このメルダシオを離れてノクティスについて行くという選択は少なからず彼にとって不快な気持ちを抱かせることになるだろうと危惧していた。
けれどこんなにもすんなりとnameの答えを聞き入れ、それから背を押してくれる。
そんなブレアの優しさがとても嬉しくて、nameはありがとうございます、と呟いた。

「お借りしているお金は必ず返します。それから今までのお礼も」
「律儀だねぇ。ま、気にするなって言っても気にするんだろ」
「勿論です」
「ははっ、わかった、気長に待ってるよ」

ノクティスの旅に同行するなかできっと新しい素材が手に入る。
四人の邪魔にならないように調合の腕も磨いて前よりもずっと質のいい品を作れるようになったのなら、きっと稼ぎはよくなるはずだ。
それに各地で買い取りの相場も違うかもしれない。メルダシオでは低価格だったものが地方では高価になる可能性だってある。
まだ見ぬ世界への期待が素材集めだということがなんとも言い難いところなのだが。

「ブレアさんはすぐにハンター業に復帰できそうなのですか?」
「ああ、お陰様で怪我も痛みもないしな。今日中にでも復帰できるんだが」
「無理は駄目ですよ。せめて数日様子を見てからでも……」
「此処の救護員にも同じことを言われたよ。しばらくクエストはお預けだな」

いくらノクティスの魔法によって完治しているとはいえ無理は禁物だ。
nameと同じように施設の救護員もブレアを止めたようで、彼ははあ、とため息をつきながらもしばしの休息を受け入れているようだった。

「あーでも、武器がなぁ」
「武器?」
「ああ。キュウキとの戦闘で銃が使い物にならなくなっちまったんだ」
「ごめんなさい……」
「nameが謝ることじゃないって。俺の実力不足だ」

ひらひらと手を振り、nameを励ますように明るく振る舞うブレア。
彼はこう言ってくれるが、実際、nameという足手纏いがいなければブレアはもっと善戦できた筈だ。
負い目を感じて俯くnameにブレアは明るく声を掛けるが、それでも気落ちはするものだ。

「その武器の修理費も、いつになるかわかりませんが私が」
「いいっていいって、そこまでしなさんな。それにあの銃は自分で組み立てたものなんだ」
「じ、自分で?」

ブレアが手にしていた筒の長い猟銃を思い出す。
純日本人であるnameは銃を目にしたことがなかった。それこそこの世界で、この時代でブレアの武器を見るまで。
銃に触れる機会も構造を知る機会もなかったため銃に関する知識にほとほと乏しい。
だが自分で銃を組み立てるという技術や時間は相当なものだということは理解できる。
益々何か弁償しなければなるまいと顔を青くするnameはブレアに申し出るが、それも秒で断られてしまった。

「あれは縁があって手に入った特別なパーツで作っていてな。そう簡単に……そうだ」
「うう、ごめんなさい」
「骨組みは残ってるし、いけるか……?おう、そうだ、なあname」
「あ、は、はい?」

特別な銃だということを初めて知り、居たたまれなくなってnameは塞ぎ込むように謝罪を口にする。
しかしブレアは何か考え事をしているようで、一言、二言独り言を漏らす。
それから妙案を思いついたような面持ちでこちらを向くものだから、nameの背は自然と伸びた。

「これからルシス国内を回るんだよな?」
「はい、そうなるかと」
「だったら気が向いた時でもいい。銃のパーツを探してみてくれないか」

ノクティスがいつオルティシエに渡るか、その予定を訊いていないがおそらくすぐにではない。
ルシス国内に蔓延る帝国の魔の手を駆逐しつつ、ルシス国民の安全を確保し、かつ歴代王の力を賜る。
それは短期間にできるものではないだろう。おそらく、しばらくはルシス国内を転々とするはずだ。
だからブレアの問いかけにすんなりと頷くのだが、次に提示されたのは何とも快諾し難い内容だった。
銃にてんで疎いnameがブレアのいうパーツとやらを探す。それはなかなか難易度が高い。

だが、銃について詳しくないから無理。そんな断り方はしたくない。
ブレアの銃はnameという足手纏いがいるせいで破壊されたようなものだ。
ブレア本人は自分の力量不足だと言っていたが、それでも罪悪感はつのるばかり。特別な銃だと言われたら尚更だ。
命を賭けてまで守ってくれたブレアの恩に報いるためならば、知識のない銃のパーツでもなんでも探し出してやりたい。それがnameにできる罪滅ぼしなのだから。

「わかりました、探してみます。どのようなものですか?」
「M.E.740年製のマズルとバレルなんだが年数はこの際仕方が無いとして型番が合っていれば問題ない。出来れば」
「え、えっと、紙に書いて貰ってもいいですか」

ぺらぺらと饒舌に話すブレアに理解が追いつかないだろうと瞬時に察知したnameは慌てて口を挟む。
マズルとバレルという単語からわからない。
名称は追々調べるとして、今はブレアが望むパーツをドがつくほどの素人でもわかるように書き記して貰うのが先だった。
口頭で伝えられても確実に忘れてしまうだろうから。

ベッドの傍らに置いてあるチェストからメモ用紙を取り出したブレアがペンを走らせる。
そして一枚破られたメモを受け取るが、そこに書いてあるのは暗号にしか見えず、またnameは頭を悩ませた。

「気負わんでいい。思い出した時にでも頼む」

朗らかな笑顔のブレアを見て、nameはなんとなく察する。
これはこちらを気遣っての提案なのだと。
壊れた銃の弁償はしようもない。だがnameはその罪の意識を持ち続ける。
そんなnameの心を少しでも軽くさせようと、こうしてブレアは頼み事と題して持ちかけたのではないのだろうか。
特別な銃のパーツだ。見つかるかどうかすら怪しい。
でも目的を持たせることによってnameを奮い立たせようとしてくれている。
本当にこちらをよく気遣ってくれるひとだ。

「そうだ、アンタの部屋はそのままにしておくよ」
「いいんですか?」
「ああ。王子に振り回されるのが嫌になったらいつでも戻ってきな」

茶化すようなブレアの笑い方につられ、nameも笑い出す。
自分で決めて同行する旅だ。振り回されたくらいでそう簡単に根を上げるはしない。
それでも帰る場所を作っておいてくれるのはとても有り難いことだ。

何度目かの礼を受け取ったブレアは優しく、nameの今後を見守るように微笑んだ。




◇◆◇




服装は動きやすいものを。クエストに同行した際に外を歩くための身なりは学べたはずだ。
半袖のシャツの上に長袖の上着を着て、動きやすいジーンズを身に纏う。
それから長時間歩くのに適した丈夫なブーツ。顔見知りのハンターから譲り受けたこれらは外の世界でnameの行動を大いに助けてくれた。
換えの衣服は必要最低限。身の回りの生活用品も必要なものだけ。
それらをリュックに詰め込めばまだ随分と余裕があった。長旅になるだろうに、こんなに持ち物が少ないとなんだか不安になるものだ。

リュックとは別に、常用しているポーチも手に取る。
ブレアから貰った調合本にいくつかの素材が詰まっているそれも、まだまだ容量に余裕がある。
キュウキに襲われたあの日。ポーチには山ほど素材が詰まっていたのだがその後の出来事で中身をほとんどぶちまけてしまったからだ。
勿体のないことをした。けれどあの時は素材のことなど気に掛けてもいられなかった。

生活用品の入ったリュックを背負い、ポーチを肩に掛ける。
装いは軽いものだが、外の世界に赴く見た目をしていることだろう。


一歩踏み出した足を止め、室内を振り返る。
旅に必要のない生活用品はそのまま置かれており、畳んではいるがベッドの布団もいつも通りだ。
ブレアはこの部屋をそのまま置いておいてくれると言っていた。
ここがnameの帰る場所。ノクティスの旅を見届けた後、戻ってくる場所だ。
自分の居場所があるというのは心の支えになる。
どれくらい長い旅になるかはわからないが、しっかりと世界を見て回ろうとnameは決意を固めた。


コンコン。


自室をノックする音が聞こえてきて、nameは扉を振り返った。
そしてそのまま扉を開けようとするのだが、昨晩のイグニスの言葉がふと過ぎる。
部屋を訪ねて来た人物を確認せずに扉を開けるな。なんだか保護者のような注意を受けたのだ。
この訪問者がイグニスであれば彼の注意を何一つとして聞いていないことになる。イグニスに呆れられるのは目に見えている。

はい、と声を掛ければ返ってきたのはノクティスの声。
イグニスではなかったが、それでもイグニスの指摘をこうして思い出せたことは今後nameの注意力の向上になることだろう。

「お迎えありがとう、ノクティス君」
「nameを迎えるのは当然だし。荷物それだけでいいの?」

扉を開けて出迎えると朝方会ったばかりのノクティスが顔を覗かせた。
それからnameの頭の上から爪先まで舐め回すように視線を滑らせ、nameが背負ったリュックとポーチの膨らみが貧相なことに目をつけた様子だった。

「うん、必要ないものは部屋でお留守番」
「nameが出て行ったら他の誰かが此処を使うかも知れないんだろ?」
「ううん、この部屋は私の名義のまま残してくれるってブレアさんが言ってくれたの。私の帰る場所になるようにって」

ノクティスに振り回されるのが嫌になったらいつでも帰ってこいと言っていたことは伏せた方がいいだろう。
含み笑いを堪えノクティスににっこりと微笑みながら説明したのだが、ノクティスの表情は先程までとは違いなんだか不機嫌そうに見えた。
面白くなさそうな、何かを迷惑がるかのような表情に見え、ノクティスの心境を探れないnameは小首を傾げてノクティスを見上げる。

「nameの帰る場所はここじゃないだろ」

小さく呟かれたノクティスの言葉。聞きとれはしたものの、それに対する言葉が反射的に出てこない。
二千年前も十二年前も王族の保護下にあったnameはこの身をインソムニア城に置くことを許されていたが、この時代は違う。
インソムニアは現在帝国の支配下にあるし、奪還できたとしても図々しく城に置いてくれだなんて言うつもりもなかった。
name自身、この時代での自分の家のような場所は此処だと思っている。だから此処が自分の居場所だと信じて疑わない。
それをどう言葉にしようかと考えていたところ、ノクティスに手を取られる。
手を握って歩くことが当然、だとでも言うかのように自然な流れで、nameはされるがままノクティスの後に続く。

屋内を歩くノクティスは無言だ。
その背からなんだか言いようのない圧を感じて、自分は何か彼の機嫌を損ねるような態度をとってしまったのかと胸中不安に苛まれる。
が、建物を出た途端、その足並みはnameと並ぶ。
ノクティスよりも歩幅の狭いnameに合わせるかのようにゆっくりと隣を歩くノクティスを見上げれば、彼はいつも通りの調子で世間話を振ってくるのだ。
多分、気のせいだろう。そう納得して、知ったメルダシオの出口へ並んで歩く。



視線の先。黒い高級車の傍には男性が三人立っており、こちらの姿を見留めるなりプロンプトが大きく手を振ってくる。
彼と親しい間柄ではないnameは手を振り返すことを渋るが、ノクティスも振り返すことはせず、やれやれといった様子で彼らに近づくだけだった。

「おはよう、nameさん」
「おはようイグニス君」
「ノクト、出発前に少しいいか」
「なに」
「王都警護隊と連携をとりたい。あちらも俺達の耳に入れておきたい報告事があるそうだ」

意外にも足早にこちらに歩み寄ってきたのはイグニスだった。
真っ先にnameと朝の挨拶を交わしたイグニスは続いてノクティスに話しかける。
イグニスが視線を滑らせればノクティスも追うようにそちらを向く。nameもつられるようにして振り向いた先には黒いコートに身を包んだ人物が数人、数歩離れた先で小さく会釈していた。
あれは確かモニカが着ていた隊服のようなものだ。遠目でもわかる上質なコートには見覚えがあった。

頷いたノクティスは名残惜しそうにnameの手を離し、数秒nameを見つめてから先を行くイグニスを追って行った。
さて、此処で突っ立っているのも可笑しな話である。
これから世話になるであろうノクティスとイグニス以外のふたりにも改めて挨拶をすべく、nameはグラディオラスとプロンプトの傍へと歩み寄った。

「おはようございます、グラディオラスさん、プロンプトさん」
「お、おはようございます!」
「おう」

こちらから挨拶を切り出すと、プロンプトはなんだか緊張した面持ちで返してきて、グラディオラスに至っては素っ気ない印象だった。
ああ、これはきっと旅に同行するのを迷惑がられている。nameはふたりの様子から瞬時に察した。
自分で旅について行きたいとは言ったものの、直接このふたりに許可を求めたわけではない。
ノクティスとイグニスが快諾してくれて、かつ、今朝ノクティスがふたりにも確認をとると言ってくれていたため今の今までこのふたりから同行に対する意見を聞いていなかったのだ。

どうしよう。
nameの同行はノクティスの大切な仲間である彼らの意見を突っぱねてまで押し通すべきものではない。
けれど、nameも生半可な決意をもって足を踏み出したわけではないのだ。
退くに退けない。
最後までとは言わない。せめて彼らには少しの間だけでも我慢してもらえないだろうか。

「あの、突然こんなことになって本当にごめんなさい。たくさん迷惑かけるし、邪魔になります。けど自分のことは自分でなんとかしますから少しの間だけでも同行を許して頂けませんか」
「は、え?えっと?」

nameが背負う貧相なリュックが後頭部に当たるほどに深く頭を下げながら懇願する。
するとプロンプトがあわあわと取り乱すように蹈鞴を踏み、彼のブーツが視界を行ったり来たりする。
深いため息を吐いたのはグラディオラスで、それが自分に対してであると悟ったnameは頭を下げたまま身を強張らせた。

「顔を上げてくれ」
「は、はい」
「アンタ、何か変な勘違いしてるだろ。許すも何も、ノクトが全面的にアンタを連れていくって言ってるんだから、俺達はそれに従うだけだ」
「そう、なんですか」

言葉にされると別に同行を拒否されているようには思えないのだが、捉えようによってはノクティスが言うから仕方なく、に聞こえなくもない。
それからふたりが余所余所しい態度なのも拍車を掛け、nameは半信半疑でふたりを交互に見つめるだけだった。
しばしの沈黙。気まずそうなプロンプトが視線を彷徨わせる。

が、グラディオラスは何かを振り払うようにその濃茶色の髪をガシガシと掻き乱す。
肩を跳ねさせたプロンプトが何事かとグラディオラスを注視するが、そのグラディオラスは真っ直ぐにnameを視界に捉えていた。

「こういうのは性に合わねぇ。なあ、敬語やめにしねぇか」
「あ、け、敬語?」
「ああ。あとグラディオラスさん、じゃなくてグラディオでいい。他の奴もそう呼んでる」

出会ってそう時が経っていない相手に対して敬語を使うのはnameの気質上仕方のないことだ。
けれどそれを相手に気にさせていたのだろうか。グラディオラスからの申し出は随分と友好的に感じるものだった。
なんだか彼の少しばかり強引な部分は二千年前の友人を思い出す。
同い年でnameよりもずっと優れた人格と実力の持ち主であった彼。
ふたりは全くの別人だが、グラディオラスに彼との共通点を仄かに感じたnameは少しだけ親近感を持った。

「わかった。グラディオ、でいいんだね?」
「それでいい。それからアンタのこともnameって呼んでいいだろ」

満足げに深く頷いたグラディオラスが小さく笑う。
あ、笑ってくれた。
そんな安堵がnameの胸の微かな緊張感を解きほぐす。
グラディオラスからの申し出を断る理由なんてひとつもない。
愛称で呼ぶことを許されたのだから、こちらも一歩歩み寄りたかった。

勿論、いいよ。
そう言おうとして口を開く。
しかし、今までnameを見ていたグラディオラスの視線がnameの背後へと逸らされた。

「なあノクト?」

やや大きな声音でグラディオラスが言う。
ぱちぱち、と瞬きをしたnameが背後を振り向けば、視線の先には王都警護隊の者と話し込むノクティスとイグニスの背が。
どういうことだ。名を呼ぶことに許可を求められたのは自分自身の筈なのに、何故ノクティスに話が向かうのだろう。
心底不思議でならず、nameはただただ首を傾げる。

「いやいやグラディオ。向こうは話し込んでるから流石に無理っしょ」
「どうせ聞こえてんだろ、ほれ」

プロンプトが横槍を入れるが、グラディオラスが指さすのはノクティスの後ろ姿。
しかし、ノクティスはゆっくりと顔だけこちらを振り返った。
それから手をひらひらと払うように振り、また背を向ける。

「うっそでしょ」
「nameの事に関しちゃ地獄耳ってやつだな。ま、そんなわけでよろしくな、name」

あんぐり、と口を開けるプロンプトを放置したまま、グラディオラスはnameに右手を差し出してきた。
なんだか話についていけないのだが、差し出された右手に自分の右手を重ねて握手を交わす。
たったそれだけで仲間の一員になれたような気がして、nameはほっと息をついた。

「えー!俺も俺も!仲良くなりたい!ね、nameさんって呼んでいい?」
「あ、勿論……」

目をきらきらさせながらプロンプトが一歩詰め寄ってきた。
が、その視線は先程のグラディオラスと同じようにnameの背後に逸らされ。

「いいでしょノクトー?」

ノクティスに許可を願い出るのだ。
何故だ。名の呼び方でいちいちノクティスに許可を求めるのは何故なのだ。
今度はノクティスは振り返ることはせず、後ろ手で手を振るだけ。
それが許可の合図なのだろう。プロンプトは喜びを露わにして、それからnameの手を取り握手を交わした。

ああ、きっとこのメンバーのリーダーはノクティスなのだ。
何をするにでもノクティスの許可がいるほどに統率のとれたチームなのだろう。

その考えに行き着いたnameはひとりで勝手に納得し、プロンプトの手を離した。

「私はなんて呼んだらいいかな」
「んー、愛称みたいなので呼ばれたことないし、プロンプトでいいよ」
「じゃあ、プロンプト君って呼んでもいいかな?」
「えっ!?あっ!?」

途端、プロンプトは取り乱す。
成人男性に君付けはいけなかっただろうか。
nameが日本で勤めていた職場では新人の男性社員が入社する度に周囲は「君」付けで呼んでいた。
nameもそれに倣い、同じように呼んでいたが迷惑そうにされることはなかったことを思い出す。
彼はなんだか子犬のような可愛らしさもあるし、ノクティスと同い年だと聞いている。
だから親しみを込めてそう呼びたかったのだが、彼の取り乱しようを見ると拒否されている気がしてならなかった。

「ごめんね、迷惑だったかな」
「どどどどどうしようグラディオめちゃくちゃ嬉しいけど後で絞められる気しかしない!」
「大丈夫だろ。駄目だったら今頃ファントムソードがこっちにぶっ飛んでる」

nameの謝罪が聞こえているのかいないのか、いや確実に後者で、ひそひそとふたりが会話をし出す。
断片的にしか聞こえないのだが、なんだか物騒なことを言っている気がしてならない。
不安げにふたりの様子を見守っていると、意を決したようなプロンプトが背を伸ばしてnameを向いた。

「プロンプト君で!お願いします!」
「うん?いいの?こちらこそよろしくお願いします」

ばっ、と効果音でもつきそうな程に勢いよく頭を下げるプロンプトにつられてnameも頭を下げる。
端から見たら大層可笑しな光景だろう。
くつくつと笑うグラディオラスの声が聞こえた時、nameは急に背後から腕を取られた。

「仲良しになってんじゃん」
「ノクティス君」

ノクティスの胸にとん、とリュックが当たる。
そのままするすると指を絡められ、手を握られる。この間ものの数秒だった。

「お話はもういいの?」
「じゅーぶん」

ぎゅむぎゅむ、と身体を引っ付けてくるノクティスの重さに耐えつつ振り返る。
そこにはイグニスがいて、なんだか嬉しそうにノクティスとnameを見ていた。

「待たせた。さあ、行こう」

イグニスの合図と同時に黒い高級車へと歩み出す。
王子一行は黒塗りの高級車を乗り回している、と聞いてはいたが、間近でみるとリムジンのような高貴さを感じる造りだ。
本当に自分が乗ってもよいものなのか。nameがじぃ、と車を見つめているとノクティスが手を引いた。


「行こう、name」


導くように手を引かれる。

ああ、ここから始まるのだ。
ノクティスを見守る旅が。過去の真実を求める旅が。

力強く頷いたnameは一歩を踏み出す。

新しい世界へ向けて。


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