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メルダシオ協会には備品倉庫、武器、防具、アイテムショップ、それから寮のある居住区等で構成されている。
敷地の中心部は主にハンターが多く利用するショップで固められているが、その一画には集会所と称される木造建築の建物がある。
大の大人が三十人ほど収まる広さに、その人数を想定した椅子が置かれ、長机は四角を描いて設置されている。
メインとなる場所はそこだが他にも数室小部屋があり、多目的に利用されている。
ハンターでもなければクエストの作戦会議に参加できるような身分でもないnameはそこに足を踏み入れたことがなかった。
これまでの経緯を話すには男数人と張本人である自分がいなければ始まらない。
しかし自室は大人数が入れるほど広くは無い。
そのため集会所の一室を借りているのだが、nameが思っていたのと少しばかり異なる状況に些か苦笑いが浮かぶ。

「では、nameさんはずっと此処にいたというわけか」
「そうなるね」

ふむ、と長い指を組み顎に当てる眼鏡を掛けた青年。
ソファとローテーブルを挟みnameと対面する足元は彼の長い脚がとても窮屈そうではあるが、それでも彼は真剣にnameの話を聴いてくれていた。
nameが目覚めた状況。年代。十二年の月日。
いろいろ尋ねたいことも話したいこともあるのだが、まずは言葉少なく済みそうな自分の境遇から話すことにしたのだ。
けれど。

「此処でお世話になるようになって、ノクティス君がルシス国内を回っているって聞いてそれで、……んぐ」
「……ノクト、nameさんを困らせるな」
「ええっと、大丈夫だよイグニス君」

腹に圧迫感。度々締め付けられるような力強い抱擁はnameの言葉を詰まらせていた。



◇◆◇



あれから緊急でメルダシオの応援を呼んだ王子御一行。
キュウキは既に片付けているが、意識の無いブレアをメルダシオ協会まで運ぶ車両が必要だった。
ブレア所有の車両はレストストップに置いてある。けれどそれを取りに戻るよりも一端メルダシオ協会まで戻り、彼の安全を確保したほうがよいと判断したのだ。
しかし王子御一行の持つ車は四人乗りだそうなのだ。
詰めれば五人乗れそうではあるが、王子御一行四人とブレアとnameとでは定員オーバーだった。
そのためメルダシオからの応援を待ち、キュウキが蔓延っていた雑木林を後にしたのだ。

そこからの道程が少しばかり問題だった。
ブレアは応援にきてくれたハンター達車両で運ばれることになったのは当然のことで、勿論nameもそちらの車両でメルダシオ協会に戻ろうと思っていた。
けれど背後から回された腕。
ノクティスの腕に絡め取られたnameの身体はずるずると王子御一行の車へと運ばれてしまったのである。
向かう場所は同じだ。けれど些か状況に問題があった。

前方を走るハンターの車両に追従するように車両を運転するのは眼鏡を掛けた青年、イグニス。
助手席には金髪の人懐っこそうな笑顔を浮かべる男性、プロンプト。
そして後部座席に座り居心地が悪そうに外の景色を眺めるのはグラディオラス。
プロンプトとグラディオラスとはまだ挨拶程度にしか言葉を交わしていないため、nameの中で彼らに関する情報が少なかった。
そしてノクティス。後部座席に座りグラディオラスと自身とで挟んだnameの身体に横から縋り付くように抱きしめているルシスの王子様。
なんだこれ。視界に入る夜色の髪が風に靡く様子をただひたすら眺めながらnameは温かい体温を感じていた。

とりあえずお互いのことを話そうというイグニスの提案に賛成し、メルダシオ協会の集会所の一室を借りることにした。
そこに行くまでの間もノクティスはnameの傍を離れることもせず、腰に抱きついたまま動こうともしなかった。
なんとかノクティスの脚を動かさせ入室した集会所。やっとソファに座れる、と息をついたのも束の間、ノクティスの脚の間に座らされたnameは非常に不便な体勢を強いられることとなったのである。
グラディオラスもプロンプトもこちらから少しだけ離れた場所に腰を落ち着けており、珍しいものを見るかのような視線を送ってくる。
刺さるのは勿論ノクティスと自分。
自分自身この体勢に疑問を抱きはすれどノクティスは動くことも言葉を発することもしないのだからどうしようもないのである。
イグニスはと言えばこちらの状況を不思議とも思っていない様子で冷静だ。
いやむしろ当然だともいえるような視線を投げかけてくるものだから、nameはなんだか自分が間違っているような錯覚に陥るのだ。

「えっと、まずは久しぶりだね」

再会した場所で軽く挨拶はしたのだが、腰を据えて話せる状況ではなかったため深い話はできなかった。
話すことは山ほどにあるけれどまずは再会を素直に喜びたかったのだ。

「ああ、本当に」

眼鏡のレンズの奥で翡翠が柔らかい色をする。
目尻を下げて優しく微笑むその表情は十二年前と変わっていなかった。

イグニス・スキエンティア。ノクティスの従者であり友でもあり兄のような存在。
幼い頃から聡明で賢い子供だった。幾分か年齢を上に思わせるような彼の振るまいや言葉遣いのなか、時に見せる歳相応の表情はたいへん愛らしく、nameを笑顔にしてくれたものだ。
けれど今の彼は立派な成人男性。過去の面影はあれど、多くの女性を魅了するような凜々しい美丈夫に成長していた。
長い手足に整った顔立ち。薄い唇から紡がれる声のなんと心地のよいことか。
言葉遣いは幼い頃よりも大人のそれとなっていたが、nameに向けてくれる言葉も表情も昔を思わせるほどに懐かしいものだった。

「あのときは突然消えてごめんなさい」

本当は深く腰を折って頭を下げたかったけれど、背後から腰を抱くノクティスがそうはさせない。
nameの肩口に額を乗せるノクティスの反応が無いのが気になって仕方なかったが、腹に回される腕の力が強まったことだけは感じられた。

「nameさん自身もわからない現象だったのだろう?」
「うん。そうなんだけど……」
「仕方がないことだってある。それより、またこうして会えたことが俺は何よりも嬉しい」

微笑むイグニスの言葉のなんと嬉しいことか。
心から再会を喜んでくれている言葉や声色に胸が満たされ、nameもつられるように微笑んだ。

「そのことについては追々訊いていくとして、nameさんが今までどうしていたのか尋ねてもいいだろうか」
「うん、もちろん。私が消えたのは今から十二年前だけど、この時代にきたのは一ヶ月くらい前なの」
「時代を超えたということか」
「二千年超えた後だったし、十二年前よりも状況把握は早かったかな」

はは、と苦笑いをするがイグニスから笑みは見られない。
それどころか少しだけ難しい表情をして長い指を組んで顎に当てるのだ。

「では、nameさんはずっと此処にいたというわけか」
「そうなるね。此処でお世話になるようになって、ノクティス君がルシス国内を回っているって聞いてそれで、……んぐ」
「……ノクト、nameさんを困らせるな」
「ええっと、大丈夫だよイグニス君」

腹に圧迫感。締め付けるかのような力強い抱擁はnameの言葉を詰まらせる。
加えて両脇に投げ出されているノクティスの長い脚がnameの脚に絡みついてくるものだから反応に困るというもの。
離れて、と暗に伝えたが離しもしない。やめろ、という強い言葉を使うには決め手に欠ける。
こちらを気遣ってくれるイグニスに言葉をかければ彼は小さなため息を吐きながら眼鏡の位置を直した。
その様子を苦笑いしながら眺めていると視界に入るのは離れた所に腰掛けるふたりの男性の姿。
グラディオラスとプロンプトだ。
こちらの会話に入りはしないものの内容はしっかりと聞いているのだろう。それからちらちらと視線を向けられているのも感じる。
グラディオラスは監視でもするかのような視線を向けているが、プロンプトは見てはいけないものを見るかのように顔を覆う手の指の隙間からこちらをちらちらと盗み見ていた。

初対面のふたりがいる空間で異世界のことを話してもよいのだろうかとも思ったのだが、きっと彼らはノクティスやイグニスと深い仲だ。
言いふらしたりはしないだろうし、何より信じてもらえる前提ではないので気に掛けることもなかったのだが向けられる視線は少しばかり気にはなっている。

「なんだったっけ。そうだ、大人になったノクティス君の姿を見たくてオルティシエに行くための資金を貯めていたの」
「……俺に会うために?」
「ひぅ、う、うん」

肩口に埋めていたノクティスの額がもぞもぞと動く。
唐突に首筋に息を吹きかけるように問いかけるものだから、驚いて小さく肩が跳ねてしまった。

「最初は会って話せたらな、と思っていたけど、きっと忘れられてるだろうから遠目から一目見られるだけでじゅうぶんだって思ったの」
「忘れるわけねーし」

またnameの肩口に額を埋め、擦り付けるように顔を寄せるノクティス。
拗ねたような声色が気に掛かったが、ノクティスはそれ以上言葉を発することはしなかった。

「ひとから聞いたんだけど、ノクティス君達がオルティシエに向かってるって知って、そこに行ったほうが確実かなって」
「ひとから?いったい誰から」
「王都警護隊のモニカさん」
「メルダシオで?」
「うん」

確か役職も名もそうだったはず。
告げればイグニスはなるほど、と小さく頷いた。
本当はこのことを話してもよいのかと不安だった。
王都警護隊の者がメルダシオにいるのは王都が陥落したため。
祖国を奪われ、ニフルハイム帝国に抗うための力を求めるノクティスのサポートをするために各地を転々としているのだ。
間接的とはいえインソムニア陥落、それからレギスの死について触れてしまうことになるためnameは内心イグニスの顔色を伺っていた。
本当に気に掛けるべきなのはノクティスなのだが、彼は生憎nameの背後にいるためその顔色を伺うことはできるはずもない。

「先程資金を貯めていると言っていたな。ハンター業ではないだろうが、どうやって?」
「ポーションとか簡単な携帯武器を調合っていう技術で作って店に買い取ってもらっていたの」
「調合……、また難しいことをする」
「確かに難しいんだけどね、ここでできることと言ったらそれくらいしかなくて」

飯屋のようなものがあればそこで働きたかったが、生憎とそのような施設はない。
恩人であるブレアから勧められたということもあり、早々に手をつけ始めたことを告げればイグニスはまた難しい表情をした。

「ポーションは薬草類でもなんとかなるが、それ以上のものに手をつけるとなるとモンスターの素材が必要だったはずだ」
「うん、最初はハンターのひとから分けて貰っていたんだけど、自分でできることは自分でしたかったからクエストに同行させてもらったりしていたんだ」
「それで今回のように危ない目にあっていては命がいくつあっても足りない」
「は、はい、ごめんなさい」

急に鋭い目つきで射貫かれて反射的に謝ってしまう。
今回の事の成り行きは車内で説明してもらった。クエストの管理怠慢、責任能力の欠如なのだとも。
起こってしまったことは仕方がないのだが、実際ブレアは必要のない怪我を負ってしまった。
処置室で身体を休めているブレアのこと考えていると、ふと腕に触れる温かい手。
ノクティスの拘束がひとつ外れていることに気がつき、これはノクティスの手なのだと察する。
顔を向ければ怪我を負った腕をとり、じっと見つめているノクティスがいた。
髪で隠れているため横顔から表情を伺うことはできないがやけに静かだった。

「ノクティス君?」

名を呼んだ直後、ノクティスはその頬を腕に寄せた。
怪我をした部位はイグニスが丁寧に包帯で覆ってくれたのだが、その包帯の上をノクティスの頬が滑る。
頬ずりでもするかのような挙動。痛みは無いが、なんだか不思議な行動だった。

「ごめんな、ほんと、ごめん」

痛かったろ、ごめん。
何度も小さく謝られる。
決してノクティスのせいではないのにまるで自分が傷つけたかのように謝るものだから、謝られているこちらの胸が痛む。

「大丈夫。心配してくれてありがとう」

ふと、ノクティスの視線が上げられる。
至近距離で見つめるノクティスの瑠璃色の瞳が大きく揺れた。

「それと、助けてくれてありがとう。ノクティス君、強くなったんだね」

あの一瞬でキュウキの群れを倒せるほどの実力。
顔を伏せていたため実際は仲間の援護もあったのかもしれないが、ノクティスが力を奮ってname達を窮地から救ってくれた。
ひとりの男として強く、逞しく成長してくれた。
武器を振るう暴力的なことをノクティスがすることに少々暗いものを感じるが、それがこの世界で生きていくための力なのだとしたらnameはその力を身につけてくれたノクティスに感謝をしたかった。

にこり、と笑いかけるとノクティスは泣いてしまうのではないかというくらいに顔を歪め、それからまたnameを後ろから抱き締めた。
きりきりと締め付けられる。隙間という隙間を許さないとでもいうかのような締め付けにnameは苦笑いを零した。

「nameさんの状況は把握した。現に俺たちはオルティシエに向かう予定だ。けれど此処で俺たちに会ったとなるとnameさんの目的が達成されたわけだが、これからどうするつもりなんだ」

イグニスからの問いかけにはっ、とする。
nameがメルダシオを拠点として資金を稼いでいるのは生活費のためでもあるが、一番の目的はノクティスの姿を見るため。
その目的が思わぬ形で達成された今、nameの次なる目的は無いに等しい。
この世界で生きていく。地球に帰る方法を探す。
次の目的を列挙する脳内で、絶対に忘れてはいけない事を思い出す。

「……歴史」
「歴史?」
「うん、私は過去に起こったことを知りたい、っ」

途端、腹に奔る僅かな違和感。
腰に回されたノクティスの腕の締め付けでは無い。身体に爪を立てられたかのような小さな衝撃。
痛みはないが腰の肉を摘ままれているかのような感覚に、いったいノクティスはどういうつもりなんだと焦る気持ちは募れど自分の目的をイグニスに伝える。

「私の知る二千年前と書物に書かれた二千年前の情報は違う。私はその真実を確かめたい」
「もしかして十二年前、nameさんが消える前に書庫に篭もりだしたのは」
「それが原因。あの時はごめんなさい」

十二年前、終ぞ伝えなかったことをここで言うことになるとは思ってもいなかった。
過去のことに対して謝罪してばかりだ、と思うがそれでも悪いのは自分自身なのだから素直な謝罪はすんなりと口から出るのだ。

「どうやって調べるつもりなんだ」
「どう、しようかな。考えてなかった。多分いろんな所を回ることになると思う」

本当はインソムニアで情報の洗い直しをしたかった。けれどインソムニアは敵の手に落ちている。
そのことを思い出したnameは咄嗟に口を噤み、予定の立てられない未来を口にした。
nameはインソムニアとメルダシオ協会しか世界を知らない。
ルシスは、世界はもっと広く大きい。それこそルシスの聖遺物が奉られている場所があるかもしれない。
その場所に目星をつけることから始めなければならないが、それでも最終的に各地を転々とすることに変わりはないだろう。

「なら」
「俺達と来て」

イグニスの言葉に重ねるようにノクティスが言う。
え、と思ったときにはnameの身体は横に投げ出されており、ノクティスと向き合うように座らされていた。
久方ぶりに向き合うノクティス。やはりその顔立ちはソムヌスに似ていてnameは食い入るようにじっと見つめてしまう。
けれど脳内はしっかりとノクティスの言葉を理解していた。

俺達と来て。それはノクティス達のオルティシエまでの旅に同行するということ。
それだけではない。ノクティス達はニフルハイム帝国に反抗するために王の墓所を巡って力を授かり、かつ奪われた基地も奪還しなければならない。
確実に戦闘が発生する案件だ。メルダシオ協会から一歩出た外の世界はモンスターも、その他の危険に溢れていることをnameは学んだ。
ノクティス達は強い。戦闘に長けた集団と行動を共にするのは大きなメリットだ。
けれどそれに利点を見出し彼らについて行くことは絶対にしないしできないことだった。

ノクティスを一目見たいがために外の世界に繰り出し資金を貯めるnameと彼らは違う。
奪われた祖国を奪還するために外の世界にいるのだ。そしてゆくゆくはオルティシエに行き、ノクティスの婚約者である女性を迎え入れる。
そんな大切な旅に戦う力も無いただの女がついて行けるはずも無い。
その目的だって自分のためだけのもの。
ルシスの人々の希望を背負う彼らの大切な旅にのこのことついて行くなんて、どうしたってできるはずがなかった。

「できないよ」
「どうして」

ノクティスに両手を握りしめられる。
大きい手の平。八歳の頃よりも大きく逞しくなった手の平の体温は温かい。
縋るようなノクティスの視線を受けながら、nameは自分の考えをひとつひとつ紐解いてゆく。

「私は戦えない、力がない。絶対に足手まといになる」
「俺が守るよ。今回みたいなことに巻き込ませない、怪我だってさせない危ない目に合わせない」
「ありがとう、でもそれだけじゃないの。私は君たちの旅の重さを知っている」

なんとか触れないようにしてきたインソムニアのことも、話さなければわかってもらえないだろう。

「ノクティス君の旅は、ルシスに生きる人々の希望なんだよ」
「でも」
「みんな、ノクティス君がニフルハイム帝国を追い払ってくれることを願ってる。インソムニアでまた笑い合いながら生活できることを望んでいる」
「そんなの」
「ノクティス君にしかできないことだよ。ノクティス君の戦いはみんなの期待を背負ってる。そんなノクティス君の力になりたくて王都警護隊や王の剣の人達も頑張ってくれてるの」

今回の件に出くわす前、王の剣の人達の様子を見ていたが彼ら彼女らは昼夜関わらず動いていた。
寝る間を惜しんで、とまではいかないものの皆ノクティスのためにと行動していた。
メルダシオの人々だって祖国奪還のためにと一致団結して日々生きている。

「だから私のやりたいことを君の目的と重ねちゃいけない。ついででも駄目。ノクティス君はノクティス君のやるべきことだけを見ていてほしい」
「わかってる!でも俺は!」

途端、ノクティスが声を張り上げた。
心の全てを吐き出すかのような悲痛な叫び。真正面から浴びたnameは一瞬怯む。
けれどノクティスの瞳を見てその緊張が解けた。
叱られた子供のような、ひとりぼっちで寂しがるかのような瞳。
欲しいものをとりあげられたかのような色をする瑠璃色は揺れ、nameを在り在りと映し出す。

「俺は……」

絞り出すかのように呟きながらノクティスが俯く。
下がるノクティスの頭に視線を向けていれば、nameの手を握るノクティスの指先が震えていることに気がついた。
ノクティス君。
そう声を掛けようとした矢先、強い力で手首を捕まれた。

「っ」

唐突なことで息が詰まる。
何事かと困惑しているとノクティスの面が上げられた。



「俺は、nameといたい」



子供のような瑠璃色はそこになかった。
あるのはぎらぎらと鈍く輝く瑠璃色だけで、nameの知らない色をしていた。



「離すもんかもう絶対に離さないからな。ずっと俺の傍にいるって言っただろ?いらないっていうまで傍にいてくれるんだよな?なあ?」
「ノ、クティス、く」
「知らないうちに元の世界に帰られちゃたまんねぇよ。nameは最後までずっと一緒なんだ、ずっと、ずっと」

ノクティスの手の平が這い上がり腕を掴む。
片方は丁度怪我をしていて処置を施された場所。
加減など知らないとでもいうかのようにノクティスの手の平はnameの両腕を締め上げる。
狭いソファの上。じりじりと迫られてはnameに逃げ場などあるはずもない。
背もたれに背を限界までつけたnameは身体の上にのし掛かるように跨がるノクティスを見上げるしかなかった。

どうしたのだろう。自分の言葉の何がノクティスをここまで怒らせてしまっているのだろう。
自分の素直な気持ちを言葉にしただけだ。けれどノクティスはそれが気にくわなかったのか。
こちらの言葉をわかってる、と言っていた。彼なりに飲み込める内容だったはずなのに。
腕の痛みに涙目になりながら見上げるノクティスの悲痛な表情に、痛い思いをしているのはどちらだ、と考えているとノクティスの背後に手が伸ばされた。
その手はノクティスの腕を掴み上げ、軽々とソファから立ち上がらせる。
同時にnameの拘束も解け、痛みの残る腕を擦りながらその正体を見上げた。

「いい加減にしろよノクト」

眉間に深い皺を寄せたグラディオラスがノクティスの腕を掴み上げ牽制していた。
奥ではプロンプトも腰を浮かせており、いつでもこちらに向かえる体勢をとっていた。
唯一この場で動かずにいるのはイグニスだけだった。言葉無く、静かにこちらを見据えている。

「離せよ」
「瞳孔開かせるようじゃ無理だな。おいアンタ」
「あ、は、はい」
「部屋戻れ。俺達はしばらくメルダシオを拠点にする。こいつには頭冷やす時間が必要だ、待っちゃくれねぇか」

どう返答するのが正しいだろうか。
ここで納得のいくまでノクティスと言葉を交わすか、それともグラディオラスの言うとおり一度部屋に戻るべきか。
誰かを頼りたくなり、反射的にイグニスに視線を向けるとばちりと目が合う。
その目が静かに伏せられ、頷くところを見るとグラディオラスに従ったほうがよい気がしてきた。

「わか、りました。戻ります」
「おう」

立ち上がり、グラディオラスに小さく会釈する。
続いてノクティスを見たが彼の視線は床に落とされていて目が合う事が無い。
何か怒らせるようなことを言ってしまっていたら謝りたかったのだが、これ以上ノクティスと対話を試みても無駄なような気がした。
足早に集会所を出る。
夕陽がやけに目に眩しかった。

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