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※書き手がDisk3の冒頭までしか進めていないため見切り発車
※未クリア
※相変わらずキャラの性格捏造




炊きたての米のほのかな匂い。
焼き魚の香ばしい匂いと味噌汁のそれも合わされば腹は減らずとも食欲が芽を出すというもの。
新鮮な野菜は鮮度十分。考案したオリジナルドレッシングの人気もうなぎ登り。
食後のデザートが眠るのは硝子張りの冷蔵庫。外から見える色とりどりのデザートは宝石のように美しい。
そんな食の宝庫である厨房。
憩いの場であるホールから吹き抜けになっている造りのそこは、昼時、さながら戦場のように忙しなかった。

「おねえさーん、B定食ひとつー!」
「はーい、番号札105でお呼びします」

カウンターで金銭を受け取り、番号札を手渡す。
厨房内に貼り付けてある注文票のB定食の欄にチェックを付け、急いで火元に戻ってフライパンを左手にフライ返しを右手に握り、フライパンの中の野菜を慣れた手つきで炒めるname。
隣ではふくよかな女性が肉を炒めており、近場のグリル内の魚の焼き具合も同時に監視していた。

「ごめんねnameちゃん、注文とこっち、大変でしょう」
「いえ、大丈夫です。皆さんの手助けもあってだんだん慣れてきました」
「そうかいそうかい、nameちゃんはいい子さねぇ」

とん、と野菜炒めを宙で一回転させる。
程よく炒められたことを確認し、定食用の定型皿に移し入れる。
狐色に焼けたタマネギとピーマン、それからキャベツが香ばしい。
その皿を横に流せばふくよかな女性が焼けた肉を盛り付ける。
そして次のレーンへ、なんて工場のような作業ではあるが、nameはやりがいを感じていた。
さて、次だ。
nameは傍らのボウルの中に入っている切られた野菜をフライパンの中へ投入した。




nameが次に訪れた世界は魔法や召喚獣のようなものが使役されている世界だった。
前の前の世界では魔法が特定の人物しか使用できなかったのに対し、ここでは少々特殊ではあるが広く使われているらしい。
そして召喚獣。これまた前の前の世界では神の力を借りるという特別な能力であり、前の世界ではつながりを力とする少年がその稀有な能力を発揮していたのに対してこの世界では装備という括りで扱われている。
ガーディアン・フォース、という小難しい名に頭を悩ませたことは今は置いておこう。
つまるところ、nameはまた異世界に飛ばされたのだ。

こう同じことが二度、三度重なると慣れが生じてくるもので。残してきたひと達を思うことはあれどきっとまた会える、という確信染みた感覚がnameを常に前へ進ませるのである。
今現在nameが身を置いているのは兵士養成学校であるバラムガーデンという場所。
ガーデン所属特殊部隊SeeDという兵士を育成する場であり、その堅苦しそうな名称から軍のように規律の厳しい所かと思い最初は不運を嘆いたが、想定していたものよりもずっとnameに馴染み深かった。
いわゆる学校に近いのだ。
座学と運動、それから試験。それらを支える教師なる存在もいる。
それは元の世界でnameが過ごしてきた学生時代に酷似していた。

けれど決定的に違うことがある。
年若い子供達がSeeDという兵士になるために勉学に励み、戦闘訓練をこなす日々。
将来ある子供達が戦のために学び、身体を動かすことに心を痛めはしたのだがこれがこの世界での秩序というものなのだろう。
こういうものなのだ、と納得して受け入れることも、異世界旅行でnameが得た心得だ。
そんなバラムガーデンに落とされたnameは当然行き場の無い身。
無一文であり身分証明もできない。
二度ほど経験してもこの最初から何も無い状況というのは不安でしかない。
本当はバラムガーデンに辿り着く前に短期間ではあるが、教会のような施設で過ごしていたのだがここではその話は片隅に置いておこう。
諸々あり、不安に駆られているnameを拾ってくれたのがバラムガーデンの食堂に勤務している女性だった。

ガーデンには大勢の生徒がいる。寮制度があり、ほとんどの生徒が寮を利用していることから導きだされる結論としては、その食生活を支えるひと達が必要だということ。
朝昼晩。育ち盛りの若者から教鞭を振るう教師まで。その胃袋を満たす料理人はたったの四人だという。
唖然とした。作り置きすらない常に出来たての料理を提供し続けることが、たった四人で可能なのかと。
本人達はやりがいを感じ、子供達の喜んでくれる顔が何より嬉しいと笑みを零すが、正直なところもう少し人手が欲しいらしかった。
給与は十分、住み込み可。それから少しばかり料理の腕には自信がついてきたnameにとって、生きる場所とそのための手段を得られる提案に首を縦に振ることは息をするのと同じくらいに当然のことだった。

かくして三つめの異世界に渡ってしまったnameは此処、バラムガーデンにて住処と職を得て生活しているのである。




「番号札105から113でお待ちの方どうぞー!」

カウンター横の配膳棚に料理を並べ、番号の書かれたポップアップを立てる。
拡張器や呼び出しの電光掲示板など備え付けられていないため、声を張り上げて番号札を持つ生徒を呼び出すしかないのだ。
途端、わらわらと集まり出す若者達。
その様子を横目にサラダにドレッシングをかけ、若者達の波が引いた後に棚に置かれた番号札とポップアップを回収。
それらを「配膳済」と書かれたボックスに投げ入れるように放り込み、次の作業に取りかかる。

「手際がよくなってきたわねぇ」
「ありがとうございます、そう言って頂けると嬉しいです」

片手で炒飯の入ったフライパンを操り、もう片方の手で器用に野菜炒めを作る細身の女性がnameに笑いかける。
その常人離れした職人のような手つきを見せられると先程の褒め言葉が皮肉なように聞こえなくもないのだが、細身の女性の言葉にはそんな意図はない。
最初の頃よりも動けるようになったことを素直に褒められている。だからnameも素直にその言葉を受け止め、次に生かせるように努力するのだ。

nameは注文の受付を担っている。
注文を受けつつ食事も作らなくてはいけないため大変かと思われたのだが、周りで休むこと無く動き続ける四人の女性に囲まれると大変の「た」の字も出せない。
nameよりも四人の方が作業が早い。そのため新人のnameが注文を受けつつ流すように料理を作る方が効率がよい。
適材適所。まさにこれだ。
実際に四人からはnameちゃんがきてから楽になったわ、なんてお言葉を頂戴できているものだから、これまたnameのやる気も上げるわけで。
忙しいことに変わりはないが、充実した毎日を送れている。
元の世界に、それから以前いた世界を訪れるための確定的な手段を早く見つけないと、と思いつつも現状満足してるnameなのである。

激戦に激戦を重ねること小一時間。
押し寄せる生徒の波は少なくなり、洗い物に勤しむnameの傍へひとりの女性が近づいてくる。

「ピークは過ぎたかしらね。nameちゃん、先にお昼休憩入って頂戴」
「わかりました。お先にお昼失礼します」
「今日の賄いは焼き魚定食よ。今日は一段とがんばってくれたから、卵焼きを一個オマケしといたわ」
「わあ、嬉しいです。ありがとうございます」

小柄な女性が指さす先には賄いとしてnameのために用意してくれた焼き魚定食。
ほくほくと美味しそうな湯気を立てる米と魚と味噌汁、そして傍らのおかずに忙しさの余り忘れかけていた空腹を意識せざるを得ない。
まだ作業をしている他の従業員に頭を下げながら定食が乗ったトレイを手にホールへ出る。
先程まで座る余裕などないくらいに生徒や教師達で埋め尽くされていたのだが、今は随分と空席が目立つくらいになっていた。
日当たりのいい窓際、それからホールの一番隅である席にnameは腰を落ち着ける。
窓の外では若者達が広々とした校庭で身体を動かしており、昼食を入れたばかりの胃袋の負担が気に掛かりつつも、若さゆえの輝きを目にしたnameは笑みをこぼす。

「name」

ふと、向かいから声をかけられる。
窓の外へ向けていた視線をそちらに滑らせればひとりの男。
深い茶色の髪に切れ長の瞳。シャープな輪郭に整った薄い唇。いかにも西洋風の顔立ちで男女問わず見惚れてしまいそうになるほどのこの男は、最近よく見るようになった顔だった。

「こんにちは、スコール」

にこり、と笑いかければスコールは僅かに目元を伏せる。
その表情は不機嫌のようにもとれるのだが、ここ数ヶ月で彼と話すようになったnameにとってその態度は決して負の感情からくるものではないのだと知っていた。

「ここ、いいか」

ここ、と長い指が指すのはnameの向かいの席。
他にも空いている席はいくらでもあるのだが、わざわざ尋ねてくるのだからnameに用があるというもの。
訊くだけ野暮だ。どうぞ、と促せばスコールは静かに腰を落ち着けた。

「今から休憩か」
「うん、そうだよ」
「今日も忙しそうだったな」
「ん、そうだねぇ。でもやりがいあるし、楽しいよ。私に向いてるのかも」
「あれがか?」
「ふふ、うん。スコールもどう?フライパン握ってみる?」
「……俺は武器で十分だ」

つん、と拗ねたようにそっぽを向いて目を伏せるスコール。
大人びた外見と口調の彼が見せる歳相応の姿に、nameは小さく笑いながら手元の料理に手を付けた。


◇◆◇


スコール・レオンハート。SeeDを目指すバラムガーデンの男子生徒。
そんな彼とnameとの出会いはそれはそれは単純で記憶にも残らないかのようなものだった。
けれどスコールがこうして事あるごとに、いいや事無くとも話しかけてくるあたり、彼にとっては印象に残ったことだったのかもしれない。

ある雨の日のことだった。
その日は記録的な豪雨であったらしく、バラムガーデンの敷地内には小さな湖ができてしまうほどだった。
朝から晩まで雨は収まらず、深夜を回っても尚降り続けていた。
バラムガーデンを訪れ、職を得たnameは同時に居住も与えられていた。
生徒寮から建物をひとつ、ふたつ挟んだ所にある教師寮の一角。
増設された比較的新しい教師寮の一世代前の物。つまるところ旧教師寮。そこがnameのこの世界での住処だった。
生徒寮やガーデン内の施設とは違いやや古い作りであるそこは豪雨に晒されれば耳に障る音楽を奏でる。
屋根はけたたましく騒ぎ出し、窓硝子を挟んでいる筈なのに土に打ち付ける雨音はこれでもかという程に室内まで聞こえてくる。
そんな環境でnameが目を覚まさない筈が無く、ようやく寝付けたかと思ったのに強制的に覚醒させられてはうんざりするというもの。
今晩は寝られないかもしれない。浅いため息をついたnameはそれでもなんとか眠りにつきたい一心で、気分転換にホットミルクでも胃に入れようかと思案し部屋を出た。

旧教師寮にキッチンが無かった。
そのため使用したくばガーデン本棟の食堂に行くか教師寮で借りるしかない。
此処を尋ねて日の浅いなか、夜中に敷地内をうろうろするのは躊躇われたのだがそれでも足は進んでしまう。
残念なことに教師寮には鍵がかけられており、そちらのキッチンを借りることは叶いそうもなかった。
残すは本棟の厨房のみ。
渡り通路の外は遮る物が何もなく、上からも左右からも聞こえる雨の音と濃い土の臭いが今のnameにとって勘弁してほしいと思わせるようなものだった。
雨のせいで気温も低い。温かい季節とはいえ羽織を持ってきてよかった、そう思いながらnameは肩にかけた布を握りしめた。

真っ暗な厨房を進み、コップにミルクを注いでレンジで数分温める。
温まったコップを両手で持ち、手のひらから伝わる熱をじんわりと享受する。
そんな帰り道をゆくnameが目にしたのは、渡り廊下と建物の影になったところでぼんやりと佇む人影のようなもの。
本棟に向かう時には完全に死角になっていた。
こんな時間にどうしたというのだろう。
自分のことは棚に上げ、nameは遠目からその姿をまじまじと見つめた。

夜であるため顔が判別できないが、身長や体格からしておそらく男。
渡り廊下の柱に背を預け、ぼんやりと激しく打ち付ける雨に視線を向けたまま微動だにしていなかった。
誰だろう。ガーデンの関係者であることは間違いないだろう。生徒か教師か、どちらかだ。
判別は難しいのだが、それでもこんな時間に、しかも冷えた場所にただ突っ立っているだけなのは身体に障る。

あの、風邪をひきますよ。

五歩ほど離れた位置から抑えた声音で呼びかける。
激しい雨の音で向こうに届かないかと思ったのだが、一拍の間ののち、男はゆっくりとこちらを向いた。
容姿の整った若い男。
その表情は迷子のような、遠い思い出をひたすら追いかけているような、そんな切ない色をしていた。
言葉は無い。鬱陶しそうにするでもなく、不信感を露わにするでもなく、男はただnameを見ているだけだった。
その顔色はなんだか血色が悪い。暗い中でも唇の色が健康な色をしていないことがわかるほど。

部屋に戻らないのですか?

早く部屋に戻って布団に潜り暖をとるべきだ。
暗にそう伝えたつもりだったのだが、男は動こうとはしない。
それから言葉のひとつも無く視線を外されてはnameが続けられる言葉は無かった。
無視することだってできた。無理矢理にでも口を割らせることは難しいが、粘り強く話しかければ言葉を引き出せたかもしれない。
けれどそれは正しくないような気がした。
初対面だから彼の名も何も知るはずが無いのだが、なんだかそれだけは直感できたのだ。

これどうぞ。

俯いた彼の目の前にホットミルクが注がれたコップを差し出す。
ぱちぱち、と長い睫が上下して、再びnameと絡む視線。
近くで見ると更に容姿が整っている。切れ長の瞳は今は薄く見開かれていた。
男の手にコップを押しつけ、それから自分の羽織を男の肩に強引に被せる。

あまり長居しないでくださいね。此処は冷えますから。

外套が無くなった身体には冷たい空気が貼り付く。
ぶるり、と小さく身震いしたnameは男に小さく会釈をして、それから自室までの道のりを小走りで駆け抜けた。
道中、余計なことをしたのかもしれない、迷惑だったかもしれない、と後悔と反省の念に苛まれて結局寝付けなかったのは自分自身のせいなのだ。

後日。比較的穏やかな昼の時間を過ごしていたnameの日常に新しい景色が増えた。
昼休憩をとっていたnameの前に現れたのは先日、夜中に一方的な邂逅を遂げた男。
手元にはnameが押しつけた羽織と、綺麗に洗われたコップがあった。
男の方から名を訊かれ、それから食堂で働いていることやつい最近此処で世話になるようになったことなど根堀葉堀尋ねられた。
それから度々nameのもとを訪れるようになった男、名をスコール。
そんなやりとりが続いて早数ヶ月が経とうとしていた。


◇◆◇


「スコール、また食堂に来なかったね。お昼どうしているの?」
「パンがあるだろ」
「え、パン?それだけ?栄養バランス偏るよ」

若いうちからちゃんと健康に気を使わなきゃ。
諭すように伝えても彼は「別に」とそっぽを向く。

数ヶ月の付き合いの中で彼についてわかったことがある。
まずひとつがあまり口数が多くないということ。
たまたまスコールが他人と会話をしている場面に出くわしたことがある。
立ち聞きではないのだが、本当にたまたま耳と目に入ってしまうような状況だった。
それを見聞きして得た情報が、スコールは言葉が少ないのだということ。
「ああ」「そうか」「悪かったな」「別に」
これだけとは言わないが、ほぼほぼ相手が一方的に話しているようなものだった。会話のドッヂボールとはこのことか。
スコールが話しかけてくれるときは彼から話題を振ってくれたり、こちらの会話に相づちを打ってくれてコミュニケーションがとれていた。
だから気にしてもいなかったしすることもなかったのだが、スコールがここまで口下手だったとは思わなかったのだ。

ふたつめ。スコールがいろいろと考えているということ。
これについてはわかった、というよりも勘であるためわかったなどと大口を叩けないのが本当のところなのである。
スコールの言葉は直球で端的。ただ口から出る言葉とその目とで感情が一致していないことがあるのだ。
これは先程呟かれた「別に」という言葉でもそう。
どの短い言葉の中に潜ませた感情や考えがある気がしてならない。
スコールを口下手だと評価したが、それはこれが起因しているのかもしれない。
本当は多くを伝えたいのに押しとどめているか、相手に伝えても仕方のないことだから、と最初から放棄しているか。
それとも自分の感情や考えを相手に知られたくないからか。
スコール自身に尋ねたことはないのだが、おそらくそんな複雑な感情が彼の言葉を少なくさせているのだろう。
彼は十七歳。多感で多くのことを吸収する時期だ。
そんな彼の成長を陰から支えるのも大人の役目というもの。それとなく肩の力を抜かせ、吐き出させてやるのも大人の努め。
だからnameは尋ねるのだ

「もしよかったら教えてほしいな。スコールの考えてること、思っていること」
「……」
「隠したいこととか知られたくないことじゃなかったら、どんどん言ってほしい。スコールのこと、もっと知りたいから」

なんだかんだで話しかけてもらえるというのは嬉しいものだ。
身寄りも無ければ友もいない異世界。そんななか自分のことを気に掛けてくれる人物というものはnameにとってとてもありがたい存在なのだ。
スコールにとってどうかはわからないが、nameからしてみればスコールは知人の域から一歩だけ足を踏み出している。
友達、だなんて言い出せはしないのだが、スコールにとって辛いときや苦しいときは少しでも頼れるような存在になれたなら、なんて小さな願望を抱えている。

スコールはじっとnameを見つめ続ける。
言葉の本心を探られているような気がして、後ろめたい意図などないのだということを知って欲しくてにっこり笑ってみせた。
するとスコールは唸るように咳払いをして、それから長い人差し指で額をとん、とんと叩き、それから深いため息を吐いた。
よくわからない行動だ。彼の癖のようなものなのだろうか。
うろうろと視線を彷徨わせていたスコールが俯いたまま、またため息をついた。

「大変だろ」
「ん?」
「見てたらわかる。どれだけ忙しいか。あまり……話しかけない方がいい気がした」

途切れ途切れの言葉。
耳から入ってくる言葉を脳内で繋ぎ合わせてスコールの心を探る。
大変、忙しい。これはnameや他の従業員の昼時の様子を表すだろう。
つまりスコールは手間をとらせない購買の方がname達の負担を減らせると思っているのだろうか。

「気を使ってくれているの?」
「いや、そんな……つもりじゃないんだが……、……」

やがてまた黙り込んでしまうスコール。
けれどまだ言葉を聞かせてくれそうな間と、雰囲気。
箸を置いていたnameは黙ってスコールの言葉を待つ。

「nameと話したら、多分もっと話したくなる……から、邪魔になるだろ」

ああ、やっぱりスコールはいろいろ考えていた。
nameの負担になるからと、わざわざ購買を利用していたのだ。
なんていじらしい。なんてかわいらしい。
その整えられた髪をわしゃわしゃと撫で回したい衝動に駆られたが、それは流石に怒られる、とnameの理性が押しとどめた。

「ふふふっ」

代わりに零れるのは小さな笑い声。
nameの笑い声を聞いたスコールが不機嫌そうに眉を顰めて顔を上げた。

「笑うな」
「ごめんね、嬉しくて」
「……」
「気を使ってくれたんだね、ありがとう」
「……別に」
「それから、聞かせてくれてありがとう」
「……」

むす、と噤んだ唇。
ほんのりと色づく頬が彼の感情を素直に表しているようで、微笑ましいことこのうえない。
スコールは優しい子だ。他人を思いやれる心根をもつ、優しい子。
そんな子がいろいろ小難しいことを考えて言葉を閉ざしてしまうことはとても勿体のないこと。
少しずつ心を吐き出させてやれるように背を押してやりたい。それがnameのスコールに対する率直な気持ちだった。

「確かに昼時は忙しいね。でもいつもこうしてスコールとお話しているでしょう?」
「……」
「明日もきっとこの時間帯にお昼休憩貰えると思うの。だからその時間に合わせて来てくれる?」
「え」
「一緒にお昼ご飯食べようか。スコールへのおすすめはね、カツカレー定食かな。ボリュームあるよ」

麺類もあるよ。スコールはどんな食べ物が好きなの?
なんて笑いかければスコールは呆けた顔で数度瞬きをしたのち、ゆっくりと破顔した。
その表情がとても綺麗で、なんだか子供のようで。
正確には彼はまだ子供なのだけれど、それでもひとつ、彼の感情を引き出せたような気がしてnameは嬉しさを感じたのだ。

「nameと同じものが食べたい」
「ん?いいの?賄いに合わせて私が作ることになっちゃうよ」
「なんだ、願ってもないな。それでいい、……いや、それがいいな」

テーブルに肘をつき、満足げに目を細めるスコール。
そしてやがて閉じられた瞼。伏せた睫が薄い頬に影を落とす。

明日は楽しい昼時になりそう。
nameの胸は明日への期待で満たされたのだった。


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