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※FF14。「蒼天のイシュガルド」のネタバレがあります。未クリアの方は閲覧を控えることをオススメ致します。




会いたい。
ただその思いだけが突き動かす身体。
衝動のままに部屋を抜け出して、縺れる足を必死に前へ前へ動かして。
屋敷の出入り口の段差に気をつけろよ。そう何度も言われた言葉を、躓いて転んでから思い出した。
優しい彼の言葉が脳内を反芻する。
あの声が、聞きたい。聞きたかった。
でも今は、ただ、会いたい。それだけ。たったひとつ、それだけ。


皇都イシュガルドを望む高台。夜の帳が深く、深く落ちたその場所は、薄暗い月明かりに照らされてひっそりと、静かにそこにあった。
吹き付ける雪が肌に刺さる。
耳元に直接叩き付ける雪と風の音が、なんだかひとの悲鳴のように聞こえてきて。
ただ、それすらも今は気になんてならなかった。
視線の先には石造りお墓。傍らには一輪の花と、彼が身に着けていた盾が置かれている。
盾には風穴が空いていて、風がその穴を通り抜けるたびに悲しげな音を奏でていた。

降り積もった雪の上に跪く。
墓標に手を添えて、人差し指を滑らせた。
冷たい。
冷たくて、静かで、なんのあたたかさも感じない。無機質なただの"もの"。

いいや、"もの"じゃない。彼は、ここにいる。いてくれている。

この、下に。

石を撫でていた腕を、突き立てる。
雪の下、深く、深く、抉るように。片腕だけではなく両腕もねじ込んで、左右に割るように掘り進める。
割って、割って、掘って。
何もかも邪魔だった。雪も、土も。
手が、指がかじかむ。冷たくて、冷たくて、感触が無い。感覚が、なくなってきた。
硬い土を握って、左右に投げ捨てる。
一面白かった辺りは、今では土色が混ざっていて、酷く汚くなっていた。
その色の中に混ざっている赤は、きっと、無我夢中で土を握りしめているがために傷ついた手によるもので。
剥がれ掛けの爪など、気にもかけていられないのだ。

やがて、感覚が無くなった指が叩いたのは、木造りの何か。

見つけた。

彼はとても身長が高いひとだった。
首が痛くなってしまうほど見上げながら話していれば、気配り上手なそのひとはこちらに気を遣わせないよう、自然に椅子を勧めてくれた。
覗き込むようにして語りかけてくれもした。
近くにあるその空色の瞳に自分の姿が映り込むたび、不思議と胸が高鳴った。
その高鳴りの意味でさえ、あの時はよくわかっていなくて。理解もできていなくて。
彼が冷たい雪の下で眠りについてから、いや、悲しいほど美しいあの夕焼け色の中でその空色を閉じた時になってようやく気がついた。

彼の体躯に合わせたベッドはとても大きい。
雪の下に埋められる前、皇都内のフォルタン邸にて最期の挨拶をするために厳かな室内にて安置されているその様子を、扉の外からぼんやりと眺めていた。
なんて大きなベッドだろう、と。私自身がすっぽり収まるのではないのか、とも思った。

その一部が、やっと。

身体を起こして、近場に突き立てていた槍の柄を握りしめる。
道中必ず魔物に遭遇するだろうから、と、愛用の長槍を持ってきていたのだ。
本当は武器のことなんて頭になかったのだけれど、身に染みついた習慣というか、もはや手足とも言うべきなのか。なくてはならないものとしてこの長槍といつも傍にいた。

雪と土を、槍を振るって払い退ける。
スコップやシャベルのような削雪道具ではないから、端から見るととても歪な光景であることだろう。
けれど今はそんな視線も何もない。

ここにいるのは私と、彼だけだ。

槍の風圧で吹き飛んだ土と雪が広い範囲に散布する。
武器の本来の用途ではないのに、我ながらよく使いこなせているものだと感心してしまう。
ただ、無茶な扱いをしているうえに素手で土を掘っていたから指も手もぼろぼろだった。
槍を握る柄が血で滑る。それから冷たくて冷たくてどうしようもなくて、感覚なんてもうとうの昔に無くなっていた。
身体が重い。寒くて、冷たくて、吸い込む息が肺を刺す。
それでも一心不乱に、何かに取り憑かれたように同じ行動を繰り返していればいつかは終わりが見えてくるもので。

彼が眠る大きなベッドの全貌がようやく見えたとき、その傍らに力無く膝をついた。

槍が滑り落ちる。
愛槍はこんなにも赤かったかな、なんて気にもしていられない。
柔らかい土の上に落ちた槍を適当に転がして、彼がいるベッドに手を掛けた。
縁に指を掛けて、持ち上げる。

ぎぃ。

木製のベッドが静かに鳴き声を上げた。
重い蓋を開ける。
違う、鳴き声ではなく、産声だったのかもしれない。


土の壁に蓋を立てかけた。
静かで冷たい雪の下で眠っている彼。その顔を、久しぶりに見たような気がした。
唇が震える。
それは寒さからくるものではない。また会えた、歓喜からくるものだった。

いつも身に纏っていた鎧を外し、白くて柔らかい軽装に身を包んだ彼。
私の髪を撫でてくれた指は腹の上で組まれていて、それから、私を真っ直ぐに見つめてくれた瞳は今は静かに閉じられていた。

いつだっておまえの力になるぞ。
寒くは無いか?これを使うといい。
今日の戦いでの出来事を聞かせてくれないか。

優しい声色で紡がれる彼の言葉は、聞こえない。
薄く、整った唇は閉じられていて、ぴくりとも動かない。
血の色を失ったその唇を一筋撫でると、赤く色づいた。
色づかせたものは爪が剥がれかけた自分の指。彼の美しい寝顔に酷く不釣り合いで、そっと手を引っ込めた。

本当に、眠っているだけのようだ。今にもその瞼を開けて、おはよう、と優しく微笑んでくれそうな予感さえしてくる。

組まれた手に、自分の手のひらを重ねた。
とても、冷たい。
それは自分の手が冷たいからでもあり、彼の手がもうあたたかさを宿さないからでもあって。

その冷たい指を一本一本解いて、左手の薬指をそっと撫でた。
それから、宝物を扱うように手の平に乗せて。


傍らに落ちていた槍を握りしめて、薬指の付け根に突き立てた。


日々の戦闘に備えて槍の矛先を手入れして整えているため、切れ味はとても良い。
甲羅や鱗を纏った魔物でも、この槍は貫くことができるのだ。
そんな槍が、人間の、薬指で切れ味を落とすことなんてない。
一振り、二振り。
僅かな血が流れ初めて、三振り目で指が落ちた。

槍を傍らに突き立てて、両手で指を拾い上げる。
彼の指は長く、そしてしなやかだ。
小瓶にい入れてネックレスとして首からぶら下げるのには、少々どころかとても入りきらない。
第一関節と第二関節とを分けたほうがいいな、なんて思いながら指を包み込んだ。

エオルゼアは土葬の風潮が根強い。
エオルゼアの外の世界では火葬や水葬なんていう方法で死者を送り出すそうだけれど、そのどれもが見たことも触れたこともないものだ。
土葬は、埋められる。狭い箱に閉じ込められて、光が届かない土の中で、ひとり寂しく朽ち果てるだけ。
彼もそうなるから、そうなってしまうから。せめて、彼の一部だけでも傍においておきたかった。

傍においておきたかった?

いいえ、私が、傍にいたかっただけ。


その指に静かに唇を寄せて、頬ずりをして。
眠る彼の頬にも口づけをして。
このまま彼の身体ごと共に家に帰ろうか、なんてふざけたことを考えてもしまう。
それか、このまま私自身もここで眠りにつくか。

見上げた空は薄らと明るく、土の中から見上げた世界はとてもとても小さかった。




――――――――

◇aggさん宅のヒカセンの設定メモ
オルシュファンといい仲だったけれど両片思い。周りはみんな察していて、早くくっつけと思っていた。
教皇庁後、オルシュファンに抱いていた気持ちが恋だと知った。
「やはりおまえは笑顔がイイ」という言葉が呪いとなって彼女を縛り続ける。だってそれが彼の思い描く私なのだから。
割とaggさん闇を抱えている。仲間。


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