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nameの朝は早い。
それは慣れない外での時間がかかる朝の支度のためでもあり、ただ単に早起きなだけでもあり、朝食を作るイグニスを手伝うためでもある。
朝日が高い山の背から顔を出し始めた頃、イグニスも目を覚ます。
誂えた自分のテントから外へ出れば同じタイミングだったのか、イグニスも顔を覗かせていて。

おはよう。
ああ、おはよう。

短い挨拶。その後に続けられるのはグラディオラスのいびきがうるさいだのプロンプトの寝言がうるさいだのノクティスの足が飛んでくるだの、イグニスからの様々な小言だ。
彼にしては珍しく赤裸々にする文句等々はname限定で吐き出されるものらしく、本人達へ向けて注意を促すような言い方ではないその口調に、なんだか頼られているような気になったnameは優しく微笑みながら聞いてやるのだ。

小言を聞きながら朝食作りを手伝っていれば、次に起きてくるのはグラディオラスだ。
彼もまた日課である早朝トレーニングのため、朝が早い。
のっそりと捲られるテントの音を聞いてそちらに目を向ける。
大きな欠伸を零しながら首を鳴らすグラディオラスへ朝の挨拶を告げれば、彼も同じく返してくれるのであった。

ぐつぐつと鍋を煮込む音の前で並び立つnameとイグニス。
その後ろでグラディオラスが腕立て伏せを二百数えた頃にプロンプトが起きてくる。
まだ眠気の残る声のとおり、プロンプトの目はしょぼしょぼと開閉を繰り返し、足元も覚束無い。
濡れた冷たいタオルを差し出せば、ありがとぉ、なんて気の抜けた礼を言いながらそれを顔面に当てて目を冷ますのだ。

続いて作るのは野菜たっぷりのサラダ。
レタスの葉を盛り付け彩るための野菜を切るだけであとは事が済むため、ここまでくるとnameは手持ち無沙汰になってしまう。
だが仕事がないわけではない。
グラディオラスの日課が早朝トレーニングならば、nameの日課はノクティスを起こすことである。

ノクティスは大層目覚めが悪い。
機嫌が悪くなる、というベクトルではなく、ただ単純に目を覚ましづらいのだ。
nameと再会してから拍車が掛かった、とため息をつくイグニスの心労をなんとかしてやりたく、nameは自ら率先してその任を引き受けたのだ。
どういうわけか、グラディオラスの筋肉に揺さぶられても、プロンプトがけたたましく呼び起こしても、ノクティスはなかなか目を覚まさない。
nameが起こす時だけノクティスはすんなりと目を開けるのを仲間は周知しているため、ノクティスを起こすことはnameの役目となっていた。

「ノクティス君」

テントの入口を捲りあげ、中の様子を伺う。
乱雑に放置されたトランプや雑誌の数々の中心で横たわるその姿は熟睡していることが見て取れる。
仲間たちの会話を背に、テントの中へと身を滑り込ませたnameは中腰でノクティスの横まで移動し、膝をついた。

「おはよう、ノクティス君、朝だよ」

いくらノクティスがname限定で目を覚ましやすいとはいえ、一言目で起きたことは両手で数える程もない。
起きないだろうな、と思いつつも一言声を掛けてしまうのは癖のようなもので、今朝も昨日と同じように繰り返す。
案の定、やはりと言うべきか当然とも言うべきか、経験則に基づく通りノクティスは唸ることもせずに静かな寝息を立てたまま。

nameが次にとる行動は決まっている。
二言目を発しながらノクティスの肩を叩く。
これもルーチンワークのようなものだ。

「ノクティス君、起き……」

起きて。
その言葉は続かなかった。

ノクティスの肩に触れようとした腕が掴まれ、引き寄せられる。
驚きの声を発することも出来ずに引き倒されて視界がクラクラと回る、回る。
眉を顰めて目を開けると、視界に入り込むのはノクティスの夜色の髪。
それが視界の隅にあること、それから温かな熱に包み込まれていること、微かな重みを感じることからノクティスが覆い被さっていることを数拍も遅れて認識した。

「おはよう、ノクティス君」
「ん、……」

背に回されている腕にぎゅう、と抱き締められる。
胸元に顔を埋めるノクティスはくぐもった返事をするが、その表情を見ることができないため本当に起きているのか否かなのかを確認することができない。
とんとん、と背中を叩くと心地が良いのか、ノクティスの身体から力が抜けてゆき、伸し掛る重みが増す。

「起きて、みんなもう起きてるよ。朝ご飯にしよう」
「ん……」
「今日の朝ご飯は……ひゃっ」

背に回されたノクティスの手が、服の裾からもぞり、と入り込む。
そのままもそもそと探るように手を這わされ、温かな指先が肌を滑る感触にnameは小さく悲鳴を上げた。

「もう、寝ぼけてるの……ん、ほら、起きて」
「うん……」

返事はあるものの依然としてノクティスは動かない。
否、動いてはいるのか。主に手が。それから指が。
腰から背にかけてもぞり、と徐々にその探りは深くなっていく。
小さい頃はこんなに寝起きが悪くなかったのに。
なんて過去を振り返るnameはなんとかノクティスの眠気を払おうと背中を叩き続けた。

「グラディオにご飯全部取られ、ひぁっ、あ、ええと、取られちゃうよ」
「……」
「あとイグニス君とプロンプト君も待ってるから、んんっ、ぁ、あの、えっと、ほんとに寝ぼけてる?」

つつつ……と背筋を撫で上げられて背が反る。
上に乗っているノクティスに身体を押しつけるような姿勢になってしまったことを瞬時に悔いたnameは、慌てて身体を捩らせた。
しかしノクティスはもう子供ではない。
あんなに軽かった小さな身体はもう成人男性のもので。
nameが身を捩ったところでノクティスはびくともしないのだ。

本当にノクティスは眠りと目覚めの境界にいるのだろうか。
ここまで意志を感じる動きをされるとわざとではないかと疑わしく感じてくるのだが、ノクティスが自分に対してこのような行動に出る理由が微塵もない。
そう思い込んでいる、完結させてしまっているnameはノクティスのこの行為を寝ぼけているがゆえのお遊びみたいなものなのだと決めつけている。
nameの胸に顔を埋めたノクティスの怪しく笑う表情になど、気がつくこと無く。

「い、今は私だから笑って許せるけど、んっ、こ、こういう寝ぼけ方は、よ、ぅんっ、よくないと、思うよっ」
「……」
「誰にでもこうなのかな……、もしかしてイグニス君もこんな目に……?」

こんな寝ぼけ方は他人を勘違いさせてしまいかねない。
ノクティスを起こしに来た使用人がこのような目に合うかもしれないし、それに相手がノクティスの行為を勘違いで受け取り、間違いが起こってしまうかもしれない。
きっと、確実にイグニスが阻止するであろうけれど、これはノクティスのためにもこんな癖は早く正してやったほうがよいだろう。
それはイグニスの役目でもあり、今災難に遭っているnameの役目でもあった。

しかし、ノクティスのこのような癖はいつからだっただろうか。
子供の頃は無かったように思う。だとしたらnameが消えてからなのだろうか。
そう仮定するのなら、ずっとノクティスの傍にいたイグニスは既に知っていることだろう。
それからイグニスの身が既に餌食になってしまっていることを想像して、nameは無意識に不安の言葉を漏らした。
それをノクティスが聞き逃す筈も無く。

「あっ!?え、ちょっ……っ」

ノクティスが動いた。身体が。主にその頭部が。
徐に顔を上げたノクティスはnameにその表情を見せる事無くその首筋へ。
身に着けているシャツから覗く鎖骨にそっと舌を這わせられるなんて、nameは想定出来もしなかった。
驚いて、素っ頓狂な声が出る。
なんとかノクティスを引き剥がそうと試みるも、ノクティスにがっしりと抱き締められていてどうにも動くことなど出来はしない。
気がつけば足の間にノクティスの身体が割り込んでいて。
狭いテントの中で鳴る衣擦れの音が、なんだか、とても。

「あああ、あの、あの、ノクティ、っ、ノクティス君!これは、ちょっと、あ、い、いけないっ」
「んー……」

ノクティスの肩を鷲掴む。
それから引き剥がそうとしてみたが、それよりも早くノクティスの片腕がnameの両腕ごとまとめて抱き締めてしまった。
なんて流れるような拘束だ。
感心している暇などないのだが、nameができる抵抗は限られてしまった。
呼びかける。頭突き。蹴り上げる。
ノクティスに暴力を振るうことはしたくない。相手は寝ぼけていることを抜きにしても、nameにとってとてもとても大切な子なのだから。
よってnameは呼びかけることしか出来ず。

「起きてってばぁっ、私だよ、nameだよ、相手が違う……、あんっ」

相手が違う。
その言葉を発した瞬間、ノクティスがnameの耳をぬるりと舐めた。
まるでその言葉を咎めるように、改めるように。
その予期できない刺激に、思わず普段口にすることのない艶めいた声を上げてしまったnameは目を見開き、それからあわあわと慌てふためいた。

「あ、え、えと、ちが、違うの、今のは、えっと、その」
「……かわいい」
「えっ?ノクティ、ひぅっ、あ、やだっ」

唇に耳を寄せたノクティスがぼそりと呟く。
直に入ってくるその掠れた低音はなんだかいつものノクティスのそれとは違っていて。
ぴくり、とnameが身体を跳ねさせたと同時にまた耳に吸い付かれる。
どうしてこんなに身体が跳ねてしまうのか。
自分の身体のことなのに全くわからなくて、混乱と困惑と、それからノクティスにこんなことをされている恥ずかしさから、nameは段々と視界がぼやけてくるのを感じていた。

が、テントの入口をたくし上げる音と射し込む光が、nameのぼやけた視界を照らすようだった。



「おいこら何してやがる」



ずかずかとテントに入りこんできたグラディオラスがむんず、とノクティスの服の襟を掴み上げ、nameから引き剥がす。
途端、身体が急に軽くなり、それから少しだけ肌寒い感覚にnameは慌てて自分の服を正した。

「飯だっつってんだろ、盛るな」
「nameが飯」
「馬鹿言え。順序を踏め順序を」
「お前がそれ言うかな」

摘まみ上げられたノクティスは恨めしげにグラディオラスを見上げて愚痴を漏らす。
その瑠璃色の瞳はちゃんと開かれていて、自分なんかじゃなくてグラディオラスが起こしに来ればよかったのでは、なんてnameは頭の片隅で思った。

グラディオラスはそのままノクティスを放り出すようにテントの外へ追い出し、それからゆっくりと身を起こしたnameを心配してか、そっとその傍らに片膝をついた。

「災難だったな。なんとも無いか?」
「なんとも……う、うん、まあ」

なんともあるけれど、なんともない。
直した筈のシャツがまだ乱れているような気がして、nameはその胸元をそっと押さえながらグラディオラスを見上げた。

「お前もよ、ちゃんと駄目なものは駄目って言い聞かせとけよ。されるがままじゃいつ取って喰われるかわかんねぇぞ」
「でもノクティス君寝ぼけてただけだし」
「……はあ?」

グラディオラスが呆れたような、それでいて何言ってんだこいつ、とでも言いた気な声を上げる。
何か変な事を言っただろうか。
不安に思いながらもnameは自分が思っている事を有りの儘に伝えた。
有りの儘を。

「ノクティス君って昔からああだったの?誰でも彼でも、その、寝ぼけて、あんな……」
「いや、お前、あのよぉ」
「今まで私が起こしたらすんなり起きてくれてたけど、今度からグラディオのほうがいいのかもしれないね」
「はあ……これは……」

グラディオラスは深く、それはそれは深くため息を吐く。
ノクティスの事をよく知っていて大切に思っているくせに、自身に向けられている仄暗く、真っ暗で、重い、重い感情に一つも気がつかない鈍感なname。
そんな彼女を憂いる気持ちはあれど、余計な事をすればその獰猛な牙が自分に向けられてしまうのであまり口を挟めない。

ノクティスとname。ふたりが互いを想い合うその感情の重さとベクトルの方向の違いを知るグラディオラスは頭を抱え、nameはそんな彼を首を傾げて眺めるだけだった。




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■リクエスト内容
@ノクティス
A夢主にべったり、スキンシップが激しい
耳や首をぺろりと舐める 話が読みたいです。

amalet様、この度はリクエストありがとうございました。
ぺろりと舐めるどころかがっつり舐め回していたような気がしましたが、佐森の匙加減ということでお楽しみ頂けたらと思います。
スキンシップが激しいのは今後愛執本編でやらかしそうなので、そちらも含めて楽しみにお待ち頂けたら幸いでございます。
この度はリクエストありがとうございました。




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