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陽が暮れ、辺りが暗くなってきた夕暮れ時。
少しばかり遅くなってしまった買い出しの帰り道。
両腕にパンや調味料が詰まった袋を抱えながら人通りもまばらになってきた裏道を早足で歩いていると、ふと、背後にひとの気配を感じた。
裏道とはいえ、通行人が全くいないというわけではない。
いちいち通るひと、ひとりひとりに気を向けていてはキリがない。
背後に気配を感じながも特に気に掛けることなく、そのまま帰り道を急いでいた。

何かがおかしいと気がついたのは、その背後の足音が増えた時。
それから前方から向かってくる通行人らしき人たちが不自然に足を止め、こちらがその横を通過した後をつけるように再度足を動かし始めた気配を感じた時だった。
つけられている?まさかそんな、どうして。
つけられているなんて自意識過剰にもほどがある。
けれど、偶然にしてはどうしても必然に捉えられてしまうかのような気配、視線、空気の動き。
試しにこちらが足を止めてみれば、その気配は静かになる。
これはもう、そうとしか思えなかった。




どうして、私がいったいなにをしたのか?
背後を振り返る勇気なんてない。背に受ける視線の数を数える余裕すらもない。
ただ、こちらの疑いの気配を感じたのか、前方から向かってくる人たちが足を止め、いよいよ進路を塞いできたのだ。

「あの、ええと、私になにか?」

囲まれていることに気がつかないふりを装い、立ち塞がる男をとぼけたように見上げた。

黒いスーツにサングラス。背が高く、体格もよいこと以外の情報が得られない。
わかることは、空気がとてもよいものではないこと。
背後の気配がざわめき、先程まで静まっていたものから動に変わってゆく。
たったひとつ。たったひとつでも行動を、言葉を違えてしまえば、事態は更に悪い方向へ転げ落ちてしまう予感。
悪い予感を確かに感じつつ、両腕で抱えた袋をぎゅう、と抱き締めた。

「……どちら様ですか」

周囲を囲む男達は六、八……それより少しばかり多いだろうか。
こちらを取り囲む壁は段々と詰め寄って来ていて、逃げ道はもう無くなっていっていた。
壁の隙間から見える辺りには一般人はひとりもいない。通行人すらも見当たらない。
恐らく、こうする目的で人払いをしていたのだろう。
全て仕組まれていた?いったいどうして。

「私、急いでいるので」

ぐ、と眉を顰め、立ち塞がる男の横を何事もなく通り抜けようとした。
しかしすれ違いざまに肩を掴まれ、後ろからは腕を掴まれる。
取り落とした買い物袋が地に落ちて重たい音を奏でる。
焼きたてのバゲットが地面を滑り、瓶詰めのジャムもりんごも、続いて袋から飛び出してゆく。
なんてもったいのない。
拾いに行きたいが、男達がそれを許してはくれない。

「離してください、なんですか急に」

身体を背け腕を振り払おうとするも、女と男の力の差は歴然だ。
掴み上げられて振り払えもしない。
抵抗を示す度にその力は強まっていき、痛みを感じるほど。

「共に来てもらおうか」
「お断りします、離してください」
「社長がお前をお求めだ。従って貰う」
「え、社長って」

ここ、ミッドガルでいうところの"社長"を示す人物はルーファウス新羅、ただひとりだ。
プレジデント新羅亡き後、父の死を悼む間もなくその座に就いた彼はnameと顔見知りであった。
顔見知りというよりも少しばかり特殊な出会いを経ただけであってルーファウスにとって取るに足らないこであったはずなのに、いつまでもその時のことを引き合いに出してよくnameの前に姿を現わすのだ。
こんな強引なやり方が彼の指示だとでもいうのか。彼ならば飄々と会いにに来そうなものを。
と、知ったようなこと言うが、name自身彼のことを深く知りはしないのだ。

「あなたたちのことを信用できませんし、社長からの指示であれこんな強引なやり方があっていいはずありません」

大人しく彼らに従ったとして、連れて行かれる場所は本当にルーファウスの所なのだろうか。
そんな疑問がふつふつと湧いてきて疑いに変われば、もうこの男達について行くことなどできるはずもない。
例え断る事が危険な目に遭う結果になったとしても、すごすごと従うわけにはいかないのだ。

「黙ってついて来い」
「やだ、離してくださっ」

ぐい、と手を引かれて前につんのめる。バランスを崩すも、力強く腕を引かれて痛みに眉を顰めた。
大柄な男性相手のため恐ろしさはあるけれどここで退いてはいけない。
逆らうように身体を背ける。四方を固められているため無意味に終わることだとわかってはいるのだけれど、それでも。
抵抗し続けるnameに痺れを切らしたのか、やがてひとりの男が拳を振り上げた。
おい、と傍にいた男が静止の言葉を投げかけるがそれよりも早くその拳はnameの頬へ吸い込まれたのだ。

「!」

頬を殴られた反動で身体が投げ出されそうになる。が、拘束されているため衝撃を受け流すこともできずに蹈鞴を踏むだけ。
目の前がちかちかと光る。張られた頬の痛みよりも脳が揺さぶられる感覚のほうが気分が悪かった。

「傷つけるなと社長から言われただろう」
「社長をお待たせしているんだぞ、ぐずぐずしている暇は」



黒服同士の言い合いが始まったと思ったら不自然に言葉が途切れた。それから静寂。
何が起こったのだろうか。瞳をぎゅ、と一度強く瞑ってから視線を持ち上げた。


男の胸から剣が生えている。


銀色の刃が赤く濡れて、てかてかと光っていて。
これは、どういうことだろう。どういうことなのだろう。
口を開けて呆然とその光景を見つめる。どこか現実のものではないような気がして、まるでひとつの絵を見ているかのような気がして。
恐れ、悲しみ。そのいずれも違う。ただ感情が追いついてこないだけだった。


「nameに触ったな」


耳心地のよい男の声が聞こえたと同時に、ずちゅ、と音が鳴る。粘着質な水の音。それから、錆びた鉄の香り。
目の前の巨体がふらりと揺れたかと思うと、そのまま横に倒れ伏した。
開けた視界の先には金色の髪に澄んだ水色の瞳を持った男が立っている。片手に持った身の丈ほどに大きな剣の先は赤色に染まっており。
あ、彼が刺したんだな。クラウドが。
知り合い、顔見知り。そんな名前の関係が当て嵌まるクラウドは、虚ろな瞳を丸く開けて定まらぬ焦点をこちらに向けていた。

「汚いなぁ、汚い」

ぶん、と風を感じた。そして生温かい水が頬に跳ね当たる感触。降り注いだその先を視線で辿ると、あるはずの黒服の頭がそこにはなくて。
囲んでいた男達がどんどん倒れてゆく。そのおかげで視界が広がってゆくけれど。
あれ、これ、もしかして、いとも容易く殺人が行なわれている?
ようやく事態を理解したnameは悲鳴を上げるより泣くより助けを求めるより、噎せ返りそうな血の臭いを吸い込んでしまって口元を覆った。
食道を逆流した胃酸が喉を焼く感覚。
殴られたときよりずっと視界はぐわんぐわんと揺れていて、ぺたりと尻餅をついてしまえば立ち上がることなどできそうにもなかった。

「応戦しろ……ぐ、あ」
「汚い奴がnameに触れるなんてあっていいはずがない」

ぶん、ぶん。クラウド軽々と剣を振るう度に血しぶきがあがる。
黒服の男達が武器を構えるけれど、それ以上に速く、強い力に圧倒されている。
瞬く間の死。そのような言葉が相応しいだろうか。

「nameはきれいでなくてはならないんだきれいなnameを穢す奴はみんな死ねよ」

きれい、とは。
容姿がきれい、肌がきれい、瞳がきれい、心がきれい、言葉がきれい。
身体、内面のみならず自己を形成するものにもその形容詞が使われる。
クラウドが言っている"きれい"の意味とは。

"きれいなname"

男達の返り血を頭から被り、髪も顔も服も靴までも血で濡れたこの姿を指すのだろうか。


「ああ、name」


ぬちゃ、ぬちゃ。血の沼を一歩ずつ踏みしめる音。
辺りは水の音しかしなくて。あれだけ居た男達は皆血を出しながら絶命していた。
口元を押さえて吐き気を堪えるnameの前に跪く男。
そっと頬に手を当てられて導かれるがままに顔を持ち上げると、澄んだ、濁った瞳が弧を描いている。

「大丈夫、nameはきれいなままだよ。汚い奴はみんな殺した。nameはきれいだよ」

血に塗れたこの姿をきれいだという。みんな殺したと、彼は言う。
理解ができない。言動もその微笑みも死体の山も血の臭いも。
夢だ、夢であれ夢でなくてはなんだという。
いっそ気でも失えたらいいのに、クラウドの手のあたたかさと血の生あたたかさ、焼ける喉の痛みが現実だということを突きつける。

「name、見て、俺、血に濡れて汚いだろう」

男の返り血を浴びたクラウドの姿はきれいとは言えない。明るい金色の髪はどろどろと塗れて、服だって赤黒い。
頬に触れる手袋だって血で汚れているのだ。

「汚い俺がnameに触れた。なあ、name、次はnameが俺を殺す番だな?」

このひとはあたまがおかしいのだろう。

にこにこと美しい造形の顔を微笑ませて、形の良い唇を持ち上げて。
目の前の男の言っている意味も思考回路もなにもかも理解できず。
うぇ、と嘔吐したnameを見て嬉しそうに頬を綻ばせたクラウドは、その優しい手つきでnameの頭をなで続けた。



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■リクエスト内容

○○しないと出られない部屋の設定でタークスなど神羅側に捕われた(あるいは捕われそうになる)ヒロインをバチギレながら取り返そうとするクラウド



花鹿様、この度はリクエストありがとうございました。
クラウドがバチギレしたら無自覚殺戮マシーンなってしまいそうで、名のあるタークスキャラを出すと確実に血みどろの殴り合いが始まるからモブに生け贄になってもらいました。
弊サイトのクラウドは精神的に不安定でねじが五本くらい抜け落ちたような発言や行動が多い子となっておりますので花鹿様のお口に合えば幸いです。
リクエスト本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。




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