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「ザックスの髪型ってどうなってるの?このツンツンってセットしてるの?ねえねえ」

背伸びをしてこちらに手を伸ばし、無遠慮に髪の毛に触れてくる少女に上体を傾けて好き勝手に髪の毛を触らせてやる。
少女は飽きもせず、つんつんつんつんと人差し指で毛先をいじくり倒す。それはもう放っておいたら飽くことなく延々と。
髪の毛は今朝セットしているのだという事を告げると彼女は、――nameはほうほう、と頷き、それから「風で崩れない?めちゃくちゃいいワックスでも使ってるの?」などと口が休まることなく訊ねてくる。
出会ったときから変わらない。くるくると回る舌も、ころころと変わる表情も。

ジョシコウセイだ、などと自分の身分を語るnameとの出会いはこの花の教会から始まった。
この場所で同じ時を過ごしている花のように柔らかい雰囲気を持つ少女に会うべく訪れたところ、nameがそこに立っていたのだ。
茶色がかった髪に、少女の体格、背丈。待ち人を仄かに彷彿とさせるような後ろ姿だけれど、振り向いた容姿はまったく異なっていた。
彼女のように緑の瞳では無く、髪と同じ、落ち着いた深い茶色の瞳。服装だってそうだ。淡い水色のワンピースではなく、どこかの隊服のような造りのそれ。
それから話し方も、仕草も違っていた。
ふんわりとした話し方ではなくnameははきはきと話す。おしゃべり、口が回る、とも違うのだけれど、次々とテンポよく紡がれる言葉の羅列はあの緑の瞳の少女からは聞くことが滅多に無い。
ちょっとは似てるところがあるのかも、なんて思ったのは随分と最初の頃だけだ。



「このツンツン頭、凍ったら蜜柑が刺さりそう」
「みかん?なんだあそりゃ」
「蜜柑。ああ、オレンジのほうがわかりやすいかも?」

私の所では蜜柑とも言うんだよ、なんて威張るように教えてくるnameは尚も髪の毛をいじくり続ける。
この子の発想にはいつも驚かされてばかりだ。
背負ったバスターソードを見て「大きなまな板が必要だねぇ」ととぼけたように言ったり、マテリアを使って炎の魔法を使ってみせれば「すごい手品!」だなんてはしゃいで見せたりしてきた。
天然なのだろうか。いや、そもそもそのような考えが真っ先に思いつくような環境に身を置いていたのだろう。そうでなければ平和的思考に行き着くわけがない。

「ああそうだザックス見て、新しいお花の芽が出たんだよ」

髪の毛に触れていた指を離して向こうを指すname。数歩先へと足を進める彼女の小さな背を追い、それから倣って屈み込む。
若葉だ。浅い緑色をした葉が彼女の指先につつかれている。

「なんのお花かな。咲くのが楽しみだね」
「そのためには毎日水遣って手入れしないとな」
「まあそれくらいなら私にも……あ、ねえねえザックス、いつになったら紹介してくれるの」

ふと思い出したようにnameが顔を上げて食い気味に問い詰めてきた。
顔が近い。ため息をひとつ吐いてnameの額に手を当てて押し返す。
ふぎゃ、なんて間抜けな声が聞こえたけれど、急に距離を詰めてくるnameもnameだ。

「紹介って?」
「いつもお話してくれる女の子。私と同い年だって言ってた。気が合うかも知れないから紹介してやる、って」
「ああ、エアリスのことか」
「そうエアリス」

nameに話すことといえば。今日はなに食べた、だとか今日は何していた、だとか任務で行った町がどうだった、だとかそのくらいだ。
ましてやその中で"女の子"の話題なんて限られている。なんにしろザックス自身、女性との付き合いが少ないのだから。
nameによく話す"女の子"の事。思い出せる限りではエアリスしかいない。
nameと同じくこの教会で出会う女の子。栗色の髪の毛を三つ編みにした、緑の瞳の少女。
彼女達は活動区域を同じくしているというのに、まだ出会ったことが無いらしい。よって、お互いの情報共有はザックスを通じて行なわれているのだ。
エアリスは花が好きで、それから背格好はnameと同じくらいで、空色のワンピースを好んで着ていて。
ザックスから聞かされるエアリスという少女像は、nameの期待を高めさせるだけだった。

「この教会の花の手入れをしに毎日来てる、とは言うけど、一回も見たことないんだよね」

本当に不思議なことなのだ。
エアリスは毎日教会を訪れる。時間帯は決まっておらず不定期ではあるのだけれど、本人に訊ねたところ夜間に訪れたことはないらしい。
スラム街の夜は物騒だ。加えて、このようなひとの少ない教会は余計に。だからエアリスの母親は出歩くことを良しとしないのだ。
ああ、それだ。ザックスはようやく合点がいった。

「name、おまえ暗いうちに教会来てるだろ」

ザックスは任務終わりに教会へ訪れる。朝早いうちから出立して、帰り夜遅くに教会に立ち寄ることが多くある。
任務の出立が昼くらいになる時は先に教会へ訪れることもあり、その時にエアリスとの時間を過ごすのだ。
nameはといえばどうだろう。
ミッドガルのスラム街の構造上、太陽の光がほとんど射さないのだけれどザックスが持ち歩く時計は夜遅くを指し示す。
nameと出会うのは夜がほとんどだ。
初めて会ったときも、そういえば。だなんて記憶を振り返っていると、nameがむくれたようにこちらを見上げてきていた。

「仕方ないじゃん、寝泊まりするのここくらいしかないんだから」
「は?!」

自分でも驚くくらい素っ頓狂な声が出た。
この少女はなんと言っただろうか。ここで寝泊まりしている、と言ったのか。
そういえばnameと教会でよく出会うこと、それからジョシコウセイであること以外の情報がない。
会えば食べ物の話だとか、今日の天気の話だとか、それから任務の話を聞いてもらったり、そのくらいだ。
nameがどのように生活しているかなど、知りもしないし聞きもしなかった。

「おま、え、ここで?この教会で寝泊まりしてるのか?」
「うん。寝るための小部屋があるし、横になるにはじゅうぶんだよ」

雨風凌げればいいしね、なんてけらけらと笑うnameを見てザックスはため息を吐いた。
エアリスと同じ、年頃の女の子だ。そんな子がこの廃れた教会で長い夜を送っている?しかも眠るという無防備な状態で?
nameはなんてことのないようにへらへらと笑う。自分が身を置いている状況がどれだけ危険と隣合わせかということに気がついているのだろうか。

「……今日もここで寝るのか?」
「うん」
「ここがどれだけ危険な場所かわかってるのか」
「え、危険?今までそんなことなかったし……」
「今まではそうでも、これからそうだとは限らないだろ」
「た、確かに……?」

妙な気迫に押されたのか、nameが気まずそうに肩を竦めてみせた。
これまで無事でいたとしても、これからどうなるかなんてわからない。急に暴漢が教会に押し入ってくるかもわからないのだ。
思うが早いか、ザックスはnameの手を取り、教会からの出口扉を目指す。

「え、何処行くの。私もう眠たいんだけど」

ぶつぶつと文句を言うnameの問いに答えず無言でずるずると引き摺る。
新羅カンパニー社内の清掃係だったら即時雇ってもらえるだろうか。先週、辞めていったひとがいて空きがあると噂に聞いた。
雑務、事務などはどうだろうか。彼女の職歴はわからないのだけれど、できることならば衣食住が保証できる部署がいい。
nameの手を握りしめながら前を行くザックスの表情は見る者が見ると、悪いものでも食べたのではないかと疑われるくらいに真剣な顔つきをしていたのだった。



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■リクエスト内容

@作品、お相手キャラクター
ザックス

A夢主傾向
ヒロインは女子高生

B内容
ほのぼのとした甘夢


アリシア様、この度はリクエストありがとうございました。
女子高生ヒロインとのことで溌剌としつつもおとぼけたような、日本の平和さに慣れきった女の子にしてみました。
ザックスはクラウドの面倒をあれだけ見ていたので、世話焼きな面があると思ってます。きっと夢主のことも面倒をみてくれることでしょう、なんて期待を込めて書きました。
リクエストありがとうございました。お時間のある時にまた遊びにいらしてくださいね。





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