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- ナノ -
毎日の日課といえば。
朝。目が覚めて真っ先に自身の周囲を確認し、求める姿が無い現実を突きつけられて温かい布団の中に再び身体を埋めること。
昼。賑やかな教室で側付きの従者が作った弁当をつつきながら窓の外に広がる青空を見上げ、それから校庭のどこかにその姿がないか、あるはずもないのだとわかっていながらも視線を滑らせ落胆する。
夜。冷たい布団の中に身体を滑り込ませて傍のシーツを掻くように掴みながら、愛しいその名を呪いのように呟き続けて意識を落とす。

朝、昼、夜。全ての時の中で思い浮かばない時間など一瞬足りともない。
ノクティスの思考を支配し、常に行動原理としてあり続けるその存在、name。
nameを失い、虚無を抱きながらも幾許か時を重ねたノクティスは中等学校に学び舎を移してから三年の時を経ていた。

ノクティスの日常はほぼnameで構成されている。
傍にいるはずの無いnameがどうやってノクティスの日常に関与できるのか。着目点はそこではなく、ただノクティスの思考の大半がnameのことで占められているだけなのである。
朝起きてnameを想い、昼はnameの姿を探して、夜はnameを求める。
いるはずのない人間を求める奇妙にして奇怪な日課だと、傍から見た人間は思うだろうか。なにを馬鹿なことを、そう言って呆れたように流すだろうか。

ノクティスの中にnameはいる。在り続ける。
たとえ姿形がなくとも、ノクティスの心の中にも、未来のその先にもnameは在り続けるのだ。



◇◆◇



磨き抜かれた美しい窓ガラスから降り注ぐ陽光を浴びる緑達。毎日丁寧に愛され、手入れをされている植物は今日も美しく咲き誇っていた。
足を踏み入れ、ぐるりと当たりを見渡す。
そこにその姿が無いのはわかりきっていた。

室内庭園へと足を運ぶことはノクティスの日課の一つでもある。
nameと初めて出会ったこの場所。
ノクティスの運命を変え、未来すらも塗り替え、そして生涯傍にあるべき存在。
今は隣にいないけれど、この先の未来で必ず何に代えてでも手に入れるnameを思い、ノクティスは毎日此処へ足を運ぶ。

見知らぬ女に命を狙われ、頼りなく縺れる足で駆け込んだ一角。そこでnameと出会った。
nameが座り込んでいた場所。その対面に腰を落とす。
目を瞑れば正面にnameの気配を感じられような、そんな気がして。けれど現実を見た時落胆するのがわかりきっているため、過度な期待をしないよう心がけて。
ゆっくりと下ろした瞼の裏にnameを思い描けば、彼女は変わらぬ姿で微笑んでくれていた。

ゆるりと、芝生を撫でる。
nameがそこに居た温もりなど、とうの昔に無くなってしまっている。
わかっている。
理解もしている。
あの時からずっと傍にない温もりを求めて何かを辿る真似事をするのは、最早ノクティスにとって無意識とも言えることだった。

無意識にnameを求めてすることだった。


「ノクト、やはり此処だったか」

かさり、と植物を鳴らしながら背後から歩み寄って来たのは見慣れた側付き、イグニスだった。
話しかけられる前から気配を感じていた。また、彼がノクティス自身に危害を加えることなど有り得るはずもないのだと、この世界のなにを掛けてでもそう言いきれるだけの信頼があるため背後を許していた。

やはり此処だった、というイグニス言葉通り、ノクティスは此処に居た。
中等学校の授業を終え、部活等放課後の活動が無いノクティスは真っ直ぐにインソムニア城に帰り、そして軽い身支度を整えてからnameと出会った場所に足を踏み入れる。
その習慣を誰に告げるわけでもなかったのだが、やはり幼い頃からの付き合いのせいか、それともイグニスが鋭い観察眼を持ち合わせているのか、はたまたノクティスの行動を余すことなく見ているためか。イグニスにはノクティスの所在がすぐバレてしまうのである。

「また陛下への帰城の報告を怠っただろう。陛下が心配しておられる、早く……」
「なあイグニス」

続くはずのイグニスの言葉を遮った。
父であるレギスへの帰城報告はイグニスなり使用人なり誰でもできる。けれども、ノクティス自身に可能な限り私室へ訪れるよう言い付けるのは、息子との時間を少しでも取りたいというレギスなりのささやかな要望であることも理解している。
ただnameの存在がこの世界の何よりも強い、優先されるべきもの。それだけの話なのだ。

「nameはいつ俺のところに帰ってくる」

nameを取り戻す。この世界に引きずり込む。
それはnameを失い、失意に呑まれ、転機を掴んだあの時から決まったことだった。
nameが今傍にいないのは己に力がないから。
nameが今傍にいないのは己が未熟だから。
たくさんの障害を乗り越え、自身がこの世界を統べるに相応しい力を身につけた時、nameは必ずこの腕の中に戻ってくる。
取り戻してみせる。そうでなくてはならない。決まっていることなのだから。

「ああ、name。なにをしようか、俺のところに戻ってきたら、まず」

一人呟く言葉を、イグニスはただ背後で佇んだまま聞き届ける。
これも、イグニス自身の日課ようなものだった。

「会いたいなあ、name」

天を見上げ、そして目を瞑る。
掠れるように振り絞った声は情けなく緑の上に落ちて。
噛み締めた唇から震える吐息を零せば、イグニスの手がそっと背に触れた。
ノクティスを励ますその仕草。けれど、その本心をお互いに理解している。
イグニス自身もnameに会いたいのだと。
ノクティスを支えているように見えて、実のところイグニスもnameがいない寂しさを分かち合いたいのだろう。

会ったら覚えてろ、name。

nameをどうするか、なんてずっと考え続けていることだ。
今日もそれらを思い描き、床に就く。

積もりに積もる積年の愛情は歪に色も形も変えつつあった。




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■リクエスト内容


@愛執番外編
A愛執主
B愛執主が消えた後の時間軸、愛執主と出会った日に中庭を訪れることが習慣のノクト

こしあん様、この度はリクエストありがとうございました。
愛執主が消えた後の時間軸とのことで、作中に影響しませんが15歳あたりのノクティスで書かせていただきました。
夢主がいない間、ノクティスはどうやって過ごしてきたのか。本編や番外編で少しずつしたためていけたらと思いますので、こしあん様の気が向きましたときにでもご来訪くださいますと嬉しく思います。
リクエスト本当にありがとうございました。




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