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「まだ、僕のことを子供だと思えますか」

間近で揺れる薄青の丸い瞳。けれどその輪郭は記憶の中のものよりも切れ長で、大人びていて。
色も眼差しも、昔のまま優しくて。真っ直ぐ成長してくれたんだな、という喜ばしさはあるけれど、この体勢は些か頂けなかった。
瞬きをすれば長い睫の動きが肌で感じられてしまうくらいに身も、顔も寄せ合っているこの状況。
男にソファへ押し倒されて組み敷かれている場面を思い浮かべるとなんとも甘い空気を漂わせていると思われることだろうけれど、そのような甘さは一切ないのだと声を大きくして言いたかった。

「あの、ホープ君、ちょっと近いから、その」

あまりにも、顔が近い。
言葉を紡ぐことで動く唇がいつ彼のものを掠めてしまうかわからず、声は耳を澄まさなければ聞こえないのではないかと思う程に小さく尻すぼみになってしまう。
だがそれをこの至近距離で聞き逃すのは難しいことだ。いくらぼそぼそと音にしても、これだけ近くにいれば自ずと耳に入るはずなのだ。

「近いから、なんです?」

けれど、依然としてホープはその身を退けようとはしなかった。
それどころか、ソファに投げ出されたnameの脚を、その長い自身の脚で絡めて動けないようにしてしまうことをやってのけた。
非常にいけない状況だった。
端から見ると恋人同士の触れ合いと捉えられかねない。
nameとホープは決して恋人同士でもなければこのような過剰な触れ合いをする仲ではない。
仲間であり、運命共同体であり、隣人であり、よき友としてずっと関係を築き、保ち続けていたのだ。
つい、先程までは。


原因は何だっただろう。
ホープを訪ねてアカデミーを訪れたところまではいい。いつも職務に追われる彼の心休めにでもなればと、市場で見掛けた茶葉を持ってきたのだ。
彼はnameの訪問をいたく喜んだ。
詳細は割愛するが、nameとホープの付き合いは長い。共に旅をし、時間を越えたその先、今でもこうして関係は続いている。
繰り返すが、恋人だとかいう括りではない。友として、仲間としての付き合いだ。
長く共にいたのは彼が十四歳の頃だったのだけれど、諸々の事情があり、今目の前にいるのはあれから十ほど歳を重ねた姿の彼だ。
その手足も体躯も見違えるように成長し、元々整っていた容姿も更に魅力的になった。

持ち込んだ茶葉を自ら淹れると言っても聞かず、我を通される形でホープに淹れてもらった茶器を運ぶその手。
その手を見て言ったことが原因だったようにも思う。

子供の頃の手とは違い、大きく、骨張った手。
デスクワークとフィールドワークを連日こなす彼の手のひらと自分の手の平を重ね比べて、その成長を改めて喜んだ。
大きくなったね、昔はあんなにも小さかったのに。
この一言が引き金になったのだろうか。
あっという間に腰かけていたソファに押し倒されてしまったのだ。

nameとしてはなんの深い意味もない、どちらかと言うと親戚の子に成長の喜びを伝えるような気持ちだったのだ。
だが彼からしてみると面白く無い言葉だったのだろう。
だからこうして、このような状況になってしまっている。
nameから言われたことに腹を立てたのならそう言ってくれればよいものを、ホープはその怒りを口にしない。
それどころか、慈しむような眼差しで接近してきて、囁きかけてくる。
いったいこの子は何がしたいのだ。何を考えているのか。
自問自答したところで明確な返答など得られるわけがないのである。



「あの、怒らせるようなことを言ったのだったら謝らせてほしい」
「怒らせるような?いったいどのようなことです」
「昔と比べるような、子供扱いするような、こと」

nameがホープと話したことといったらこれくらいだ。
正確には最近のアカデミーの様子だとか仲間達のことだとかを話したのだけれど、そのどれをもホープは楽しそうに聞いてくれていた。
様子が変わったのは茶器を持ち運んで来てくれてからだ。
nameがホープに対して抱いた心象の言葉が彼を怒らせてしまったのだと、そう思ったのだが。

「怒っていませんよ」

す、とホープの手のひらがnameの頬を滑る。
両手で包み込まれてしまえばnameが顔ごと視線を逸らすことは不可能になってしまったわけで。
両目を横に滑らせて視線を彷徨わせるくらいしかできることがないのだ。

「nameさんのなかで僕はいつまで子供のままなのだろう、って情けなくなっただけですよ」

ホープは立派に成長した。
世の中の不条理に腹を立てる少年から、自分の目標を真っ直ぐに持てる心の成長を経て、そして今、多くのひとに希望をもたらす存在としてここに在る。
外見的にも、内面的にも大きく、逞しくなったのだ。
けれどどうしてもちらついてしまうのは過去の少年だった時の姿や言動で。
懐かしむようにその記憶と今の彼を照らし合わせてしまうことはもはやnameのなかで親心からくる反射的なものだったのだ。

「ごめんなさい、嫌だったのなら謝らせて」

両手を包み込むホープの腕に手を添える。
謝るから解放してくれ。そんな意味を込めたわけではないのだけれど、ホープなら察して退けてくれるものだと淡い期待を抱いていた。
が、無駄だったようで。

「nameさんが謝る必要なんてありませんよ」
「ひぇ」

ちゅ、とその形のよい唇が頬に落とされる。
啄むような、優しい触れ方だ。けれどもこのような行為を彼から受けるのは初めてで、突然のことにnameは目を白黒させた。
無意識に上げた情けないnameの声を聞いて、ホープがくすり、と吐息を漏らす。
その感触ですら、鋭敏に拾い上げてしまうほどに距離が近い。

「あなたのなかで僕がまだ子供のままなのは、悔しいけれど仕方が無い」
「あの、ホープく」
「けれどあなたが僕を子供だと思った分、僕は今の僕自身をあなたに刻みつけますよ」

ホープの片手が、するりとnameの太ももを滑る。
どうして、そこに触れる。なぜ、なぞる。
一度だってホープにそのようなことを、そのような触り方をされたことがなくて。
混乱するnameが怪しく動く男の手をそれ以上進ませまいと握り締めても、ホープからはやめる気配が微塵も感じられなかった。

「なに、なにを、しようと」
「なに?あなたのなかの幼い僕が、あなたに対してできなかったことを大人の僕がするだけ、ですよ」

今度は首筋に唇が落ちる。
今日に限ってどうして首元が開いた衣服を身に着けて来てしまったのだろう。今朝の自分のファッションセンスがこんなにも憎たらしい。
鎖骨は隠れているとはいえ、首筋が晒されていればそれはホープにとって格好の的だというのに。
いや、そもそもこのような事になるなんて誰が予想できただろう。予想できたとしたのなら、タートルネックでも着て来たのだろうか。
今朝の自分を恨み、数刻ほど前の自分を憎む。
そんなことをしたところで事態は変わりやしないというのに。

再び、薄青と目が合う。
その形がゆっくりと笑うように細められて。
あ、これは、まずい。
そう思ったときには既に何もかも遅く。
無防備な唇が奪われてからnameはようやく事の重大さを思い知らされたのだ。



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■リクエスト内容

・FF13のホープ(大人でも子どもでも)
・設定はお任せ

匿名様、この度はリクエストをありがとうございました。
大人でも子供でも、とのことでしたので大人ホープで書かせて頂きました。
明確な子供扱いはされないけれど、ふとしたときの夢主の発言にやきもきしてしまうホープ青年。
たぶんホープは慎重に丁寧に事を運ぶ性格なのでしょうけれど、今回ばかりはいけいけになってもらいました。
夢主が何を思い知らされるのか想像して頂けたらと思います。
リクエストありがとうございました。また弊サイトへ足を運んでくださいますと嬉しく思います。



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