×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
佐森さんには「こんな世界は嫌いです」で始まり、「秘密を分け合った」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。



「こんな世界は嫌いです」

穏やかな午後の時間。誰もいない閑散とした墓地にてひとつの墓標の前にしゃがみ込み、手を合わせていたnameが静かに呟く。
クラサメはnameから数歩離れた後ろでその小さな背を見つめ、彼女が続けるであろう次の言葉を待った。

「死者の記憶が消えるなんて、そんなこと誰が望むというのでしょうか」

朱雀領ルブルムにて保有しているクリスタルは生者から死者の記憶を奪う。
それは死者の記憶が生者の足枷とならぬよう、生者が何の憂いも無く前へ進み続けられるようにと、クリスタルから与えられる恩恵だ。
現に立て続けに起こる戦争という争いで朱雀の兵や魔導院の生徒は命を落としている。
命を落とした者達の友人、身内、近親者。その全てがその者のことを忘れ、空虚を抱きながら歩き続けている。
クラサメ自身も多くの友人や知人を無くして此処に居る。
けれどその記憶はクリスタルの恩恵により遠くへ忘れ去られ、顔すらも、存在すらも名前すらも思い出すことができない。

「それでいい、それがいいって言うひともきっといるんだってわかっています。でも私は、そうですね、だなんて受け入れたくない」

nameの手が墓標を滑る。
刻まれた名前はクラサメにとって見覚えの無いものだ。いや、本当は親しい者だったのかもしれないし知人だったのかもしれない。
中身のない無数の墓標が並ぶこの墓地で、彼らの、彼女らの記憶や思い出を抱く人間などこの世界にはひとりたりとて居はしない。
この墓地の片隅に、自分の墓標が立つ日が来るかもしれない。
人知れず、存在を思い出してももらえず、ひっそりと石だけとなって並ぶのだろうか。
その時、nameは。

「私が死しても、私のことを覚えていてほしい」

はっ、として口を噤む。無意識だった。完全に意識せずに心の内を言葉にしてしまった。
生者は前に進み続ける。戦場でクラサメが命を落としても、nameはこの世界で生き続ける。
クラサメ・スサヤという存在を忘れて。ただぼんやりと、その名だけを過去に残して。
それを想像した時、酷い虚しさに襲われた。
他の何に忘れ去られてもいい。仕方が無いと、理解しているのだから。けれど彼女にだけは、覚えていてほしかった。
共に過ごした時間も、会話も、思い出も。全て忘れてほしくなかった。
それはnameにとって重荷以外の何物でもないはずだ。死者の記憶は足枷になる。
出来もしないのに自分の存在を背負わせることを望むだなんて、なんて欲張りになってしまったのだろう、とクラサメは自分の言葉を否定するように静かに首を横に振った。

「すまない、忘れてくれ」
「覚えていますよ」

普段あまり聞くことの無い強気なnameの声が真っ向からぶつけられる。
いつの間にか立ち上がり真正面からクラサメを見つめていたnameは、もう一度同じ言葉を繰り返した。

「絶対に忘れないです、クラサメさんのこと。絶対に」

絶対なんて有り得ない。クリスタルの恩恵からは逃げられることなんて出来ない。
彼女もそれをわかっている筈なのに、その自信は何処からくるのか。
彼女は忘れる。クラサメ自身のことを、思い出を、記憶を。

「それは、不可能だろう」
「できます。私は、忘れない」

その前に、死ぬだなんて言わないでください。
強気から一転、弱々しく告げたnameは悲しそうに肩を落とす。
彼女はいつもそうだ。生きて欲しいと、傷だらけでもなんでもいいから必ず帰ってきて欲しいと毎日願う。
いつの日か、そんな彼女の居場所が自分の帰る場所となっていた。
彼女の隣に、傍に。必ず帰って来ようと思うようになった。

「忘れないでいて、くれるのか」
「だから死ぬ前提で話を進めないでくださいよ、もう」
「もう一度、聞かせてくれ」
「……あなたのこと、クラサメさんのこと、私はずっと覚えています。忘れません、絶対に」

なんなら指切りして約束しましょう。私、誓えますよ、忘れないって。
小指を差し出す彼女が悲しそうに微笑む。
それはクラサメの死を意識してのことか、それとも忘却することへの恐れか。
それでもnameの宣誓は今までかけられてきたどの言葉よりも心を打ち、嬉しく感じるもので。
彼女からこんなにも熱い想いを受け取ったと知れば0組の候補生達や魔導局の長、それから他の組の候補生達がなんと言うだろうか。

「name、この事は他言するなよ」
「え、どうしてですか」
「おまえの事を気にかけているのは、私だけではないということだ」

黒い鉄のマスクの下、ひっそりと口角を上げたクラサメはnameの小指に自身の指を絡ませて秘密を分け合った。


1903文字


back