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佐森さんには「少しだけ期待していた」で始まり、「ハッピーエンドはまだ遠そうだ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以上でお願いします。



少しだけ期待していた。三つ葉のクローバーの中にひとつだけある四つ葉を見つけられるとか、そんな小さな希望を抱いていた。

ある日、無人のセブンスヘブンから叫び声を上げることも助けを求めることも出来ずに唐突に連れ去られた私は、現在黒服の男三人と行動を共にさせられている。
黒服に銀色の髪、それから緑の瞳。三人の特徴は同じで、それでいてあの銀色の彼を彷彿とさせるような容姿。まさかな、とは思いつつ熟考できないのは私の現在の状況がとてもとても、それはとても芳しくないものだからだ。
手足を縛られ目隠しをつけられ、それから声を出せないように猿轡を噛まされている。おわかり頂けるだろうか、これは立派な誘拐即ち犯罪である。
どうして私がこんな目に合うのか。ただ買い物に出かけたティファに代わって店番をしていただけなのに。本当に星の巡り合わせが悪い。
そんな私は四肢の自由も複数の五感も奪われた状態で大きな袋に入れられている。
かろうじて聞こえる音や立ちこめる煙の臭い、それから身体に響く振動から、おそらくバイクや車のような何かに乗せられているであろうことが予想できる。生憎とそれを確かめられる状況では無いのだが。

度々挟む休憩らしき時間では、私は一時的に袋から出される。二酸化炭素ばかりの息苦しい袋から開放されて美味しい酸素をいっぱい吸い込みたいのだが猿轡がそれを邪魔することがしばしば。
そんな猿轡も、視界を遮る目隠しも外してくれるのはいつも決まったひとだ。
銀色の短髪。いかつい体格。路地裏でいけない取引をしているか危ない店の用心棒が似合いそうな男性。
こうして悪い印象ばかり挙げるのは、彼らが私にしていることが犯罪すれすれどころか犯罪そのものだから。

「私を解放してください」

私の第一声はいつもこれだ。
反抗的だと殴られるかもしれない、殺されるかもしれない。けれどそれでも私の中には恐れは無かった。嘘だ、少しだけ怖い。
けれどいつだったか、銀色の彼の怒りを買ってしまいベッドに縫い付けられながら延々と呪詛のような愛の言葉を一晩中吐かれ続けて私の精神をごりごりと削ったあの恐ろしさよりかはずっとマシだ。
犯罪とあの一件とでは比較対象も場所も状況も丸っきり違うのだけれども。
命の危険に晒されているのは今の状況なのにおかしいな、なんて自分自身でも疑問に思うけれど常にあの一件がちらつくのだから仕方がない。

「離したくないんだ、ごめんな」

私を解放してください。その言葉のあとに続く彼の言葉は決まってこれだ。
謝るくらいには悪いことをしているという認識があると受け取ってよいのだろうか。そもそも謝るのならこんな凶行に及ばないでほしいものだ。
形のよい眉を下げながら謝罪されたところでちっとも許す気になんてなれない。いくら銀色の彼と容姿がどことなく似ているとはいえ、別人かつ他人なのだから。

「ロッズ、勝手なことをするとカダージュが拗ねるぞ」

ひょい、と私の視界に入り込んできたのは長い銀色の髪を美しく靡かせた男性。
おそらく、きっと、男性。女性のような妖艶さを醸し出しているけれど、声も体つきも、私の頬を撫でる手も男のひとのものだ。
この体格のよい男性の名はロッズというのだろうか。
彼らは三人組。他二名のうちひとりの名はカダージュ。これは長い銀の髪のこの男性の名では無さそうだ。

「顔見てぇんだよ。おまえだってそうだろ、ヤズー」
「当たり前だろう。でもそれはアジトに着いてからでもじっくり出来るじゃないか」

ヤズー、と呼ばれた彼はくすくすと微笑むが私個人としてはちっとも面白く無いし同調もできない。なんだアジトとは。私はこの三人組のアジトに連れて行かれるのか。
もうこれは所詮詰みというやつでは。この先私に待ち受けるのはストレス発散用のサンドバッグになる運命。もしくは人身売買。
こんなの買い手がつくはずもない。見る目が無い人達だ、なんて内心強気に出てみるも、思い描く未来に冷や汗が流れるのは仕方のないこと。
ああ、買い物から帰ってきたティファが異変に気がついてはくれないものだろうか。洗い物も夜の開店に向けて食材の下準備は終えている。ただ私がいないという事実をいち早く認識してほしいものだ。
しかしPHSは店に置きっぱなし、加えてこの三人はバイクで移動。おまけに私自身がどの辺りに連れ去られているのかわからない。連絡手段も、自分の位置すらもわからないのでは助けを求めようがないのだ。
困った、困っている。それはもうとても。
この先の打開策がまったく思いつかない私は目の前のふたりに解放を訴えることしかできないのだが、もうひとりが横から介入してきた。

「いいこと思いついたよ、ヤズー、ロッズ」

彼はきっとカダージュ。銀色の彼の幼い面影を一番強く感じる男のひと。
弧を描く口元が彼の機嫌がいかによろしいかを表しているのだが、所詮私には関係のないことだ。

「兄さんの目の前でnameと遊ぼうよ」

が、私の名前が出されては話が別だ。
遊ぶ、とは。積み木遊びか?鬼ごっこか?そのようなほのぼのとした遊びではなく、子供がするような遊びではないことが容易に察することができる。
銃に一発だけ弾を込めるデスロシアンルーレットとか実物の剣を使った黒髭危機一髪とか。
その対象は勿論私だ。私しかいない。これならサンドバッグのほうが、いや、嫌だ。どちらも嫌だ。

「兄さんは仲間に入れないのかい?」
「駄目だよ、だって兄さんは裏切り者だから。兄さんのだぁいすきなnameが目の前で僕らに遊ばれるんだ。きっと、すっごく悔しい思いをするだろうね」
「お、それいいな。nameと遊べるなら絶対に楽しい」

そもそも兄さんとは誰のことだろう。彼らは兄弟で、その上にまだ兄弟がいるのだろうか。
カダージュの口振りからすると、その"兄さん"とやらは私に対して友好的らしいのだが、如何せん彼らの兄らしき知り合いはいない。
一瞬思い浮かんだのは銀色の彼だけれど、彼はもうこの世にはいないのだ。生命の循環に導かれるがまま、安らかに眠ってくれているはず。

「どうやって遊ぼうか?僕としては兄さんを動けないくらい痛めつけてから目の前で遊びたいんだけど」
「趣味悪いなカダージュは。でもまあ、俺もそのほうが興奮する」
「おまえも充分趣味悪いぞ、ヤズー」

興奮とか言った。興奮とか言ったこのひと。
綺麗な容姿なのにひとを痛めつけて興奮する危ないタイプの人種だったのだ。
どうしよう、本当に命の危機が迫って来ている。サンドバッグでもデスロシアンルーレットでも黒髭危機一髪でも私が危険に遭うことは確定だ。

誰か助けて欲しい。このままでは私はズタボロのボロ雑巾のようにされてしまう。そんな運命は御免だ。
脳裏を過ぎるのは金髪のツンツン頭の彼。無愛想に見えて実はよく笑うし感情を表に出すようになったひと。
ストライフデリバリーサービスという運送の仕事を始めてから会う機会は減ってしまったけれど、それでも二日に一回は顔を合わせているし連絡もとっている。
彼の仕事範囲はミッドガルの外にも及ぶ。なんでも運ぶし何処まででも運ぶ。それがストライフデリバリーサービスの売り文句だ。
なんでも、何処までも、は現実問題として無理なのだけれど、その売り文句に惹かれたのか利用者はそこそこ増えてきたらしい。
と、いうのは置いておいて。そんなミッドガルの外にまで活動が及ぶ彼が運良く私を見つけ出してくれたりはしないものだろうか。それかティファから連絡を受けて探してくれたりしないだろうか。
そして無事に私を助け出してくれて、お前何してるんだ、とお叱りを受けてティファからもお説教。
言いふらす必要なんてないのにシドさんやユフィにナナキ、果てにはリーブさんとヴィンセントにまで連絡がいったりして親しんだ仲間のひとりひとりからお小言をもらうのだ。
それがいい。そんな未来なら、喜んで受け入れる。
またみんなといっしょにいたい。ティファお手製のお酒と美味しい料理を、みんなで囲みたい。
nameは犯罪に巻き込まれたけれど無事でした、めでたしめでたし。なんて簡潔なエンドロールでも誰も文句なんて言いやしないだろう。平和が一番。ハッピーエンド。バッドエンドより何倍もいい。
ああ、でも。


「楽しみだね、name。気が狂うほどに可愛がってあげるよ」


ハッピーエンドはまだ遠そうだ。



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