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回想・転

かなみを見失って少し、土方歳三の用心棒になることで腰を落ち着ける場所を得た尾形は、もう一度彼女を浚い出そうと企てていた。
彼女が自分を殺すであろうとはもう考えていない。けれど未だ気になること、確かめたいことがある。その為には手元に戻ってもらう必要があった。
花沢家嫡男の妻たる彼女の姉が、妹の失踪という更なる憂き目に遭ったことですっかり心を壊したことは既に知っている。旭川の病院で療養しているとも調べはついており、ならばかなみもそこで姉に付き添っているはずだと確信していた。
しかし。結論から言えば、彼女は花沢の家に帰っていなかった。今以て行方不明として、第七師団総出でその行方を捜していると言う。
尾形の脳裏を最悪の想像が頭を過る。
既に生きていないという仮説は捜索にあたる第七師団の中でも実しやかに囁かれている様で、女の死体が上がったと聞けば彼女の写真を片手にすかさず駆けつけ、違うと分かれば帰りの足で女衒を当たっているらしい。
だと言うのにその捜査の網に引っ掛からない彼女を、鶴見と、彼に連なる二十七聯隊の連中が探す様子は見られない。
つまり行方を知っているのだと、尾形は確信した。
鶴見側近の月島が夕張で別行動をしているという情報を得たのはその直後だ。
迷う事無く夕張へ向かった尾形はついてきた牛山を置き去りに、月島らが出入りしているという剥製の製作所を単独で見張った。出来れば月島を尋問にかけたかったが、自分が得意とする狙撃は必殺のものであり、生け捕りには向いていない。何より月島は尋問に屈しないだろうという確信が、尾形の銃口を前山に向けさせることとなった。
前山の死体を検める。情報将校に従えられているだけあり重要な情報を分かり易い形で持ち歩いてはいなかったが、取るに足らない情報ばかりを書き連ねた手帳から一枚の写真を得た。恐らく捜索の為に配布されたのであろう、花沢かなみの写真。清楚な洋装に身を包んだ彼女は、姉と義兄に挟まれてぎこちない笑みを浮かべていた。緊張とは違う、強張った笑顔だ。

「ひでえ顔」

用済みの手帳を前山の死体の脇に放り投げる。接収した写真は懐に仕舞い込み、代わりに銃を片手に邸内を用心深く探ろうとして───月島の予期せぬ帰還に予定を崩された。奇襲にしてもまさか引き金の隙間に銃剣を差し込んでくるとは誰が予想出来るだろう。生々しい剥製を盾にして、珍しくも感情に任せた月島の怒号を聞く。

「尾形、貴様何故無関係のかなみ嬢を狙った!!?」

かなみ嬢。そう、彼女はそう呼ばれていた。養子であれど花沢の御令嬢に対しては当然の敬称である。尾形とて彼女をそう呼んでいた。
あの日、彼女を浚い出すまでは。

「気晴らしに連れ出してやったまでですよ。 あんな墓場みたいな家に居たら、遅かれ早かれ彼女も精神をやられていたでしょう」

その返答を月島が聞いていたかは分からない。銃撃の気配が無いことに感付いた尾形が剥製の影から這い出た時、月島は既に外へ飛び出した後だった。
そうしてやって来た杉元らを嗾け、追った先での一悶着後。
炭鉱から命からがら脱出した尾形は、目の前の光景に感動するあまり身震いしてしまった。出来ることならもっと身綺麗な格好で再会したかったが仕方あるまい。

「お久し振りですね。 かなみ嬢」

垂れた前髪を煤で汚れた手で掻き上げる。目を丸くして言葉を失くしている彼女の少し短くなった髪が、ガスくさい風に煽られて尾形の方に靡いた。