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ストーカーはだあれ?

「私の直後にやって来る男の人に気を付けて下さい。 かつて貴女を付け回していた男の可能性があります」

そう言い残してインカラマッさんは去って行った。結局彼女の名前が本名なのか芸名なのか分からないままだったが、占いの腕は確かだと知っている。色々やり方はあるらしいが、時折まるでお告げの様に浮かぶ言葉が一番精度が高いのだということも。
インカラマッさんは、私がこのルームシェアハウスに訪れて直ぐ仲良くなった人だった。
そんな彼女が退居するというだけでも私には大ダメージだったのに、残されたのが不穏なお告げとあっては気が気でない。
結局顔も分からないままだった謎のストーカーのことをインカラマッさんに打ち明けたことが無いだけに、信憑性が半端ではない。その存在に怯えて私は常に人の目がある上、セキュリティの厳しいこのルームシェアハウスに逃げ込んだ経緯がある。

「でも直後に入居する男の人って言われても…」

このルームシェアハウスは表から見れば同じ敷地内に一軒家が二つ並んでおり、その実それぞれ一棟ずつ男性用女性用に分かれている。二棟を繋ぐ渡り廊下は女性棟の方からのみ施錠出来て、夜ともなればここの鍵がかかっているかを確認するのはそれぞれの義務となっていた。
つまりこのルームシェアハウスは、男女に限っては隔離されているに等しい。
必要な連絡は入居時に案内されたトークアプリによって行うことが出来るが、管理会社のお知らせばかりが並ぶその画面に個人名が見えたことはない。
そう、入退居にあたっての連絡は無いのだ。
だから男性棟の人の出入りを知りたければ直接出向くしかない。虎穴に入らずんば虎子を得ず。

「最近の入居者? 俺以外の二人は先月からの入居だが…丁度俺はひと月出張に出ていて、誰がどの順で入って来たかは知らないんだ。 当人達も自分の引越し作業にかかりきりだったろうから分からないんじゃないか?
しかし何故そんなことを?」

渡り廊下を使い、男性棟を訪ねる。出迎えてくれたのは入居して長い月島さんで、女性棟で男手が必要になると呼ばれるくらいに信頼されている人だ。
真面目で規律正しく、風紀を乱す入居者には時に実力行使も辞さないサラリーマン。
…管理会社からも信頼の篤いこの人にならインカラマッさんのお告げのことを伝えてもいいかと考えて、止める。この人は人の秘密を言い当てるインカラマッさんのことをあまり良く思っていなかった。

「自分が出て行った直後に入居する人に伝えて欲しいことがあるって、インカラマッさんから言伝…というか、警告を預かったんです」
「…あの占い師か。 きみも厄介な…いや、悪く言うつもりはないが…」

私とインカラマッさんが友人だと知っているから言葉を選んでくれる月島さんに怒りはない。そしてこの嘘に納得されてしまうインカラマッさんはすごい。

「…俺が話を聞いてくる。 どちらが先にここへ入居したか、それでも分からなければ諦めてくれ。 言われた方も戸惑うだろうからな」

少しの沈黙の後、月島さんはそう言って立ち上がった。聞けばもうすぐその二人が帰ってくる時刻らしく、それぞれから聞き出した内容は今晩にでも教えてくれると。

「ありがとうございます、月島さん!」

個人的な連絡先を交換して、私は女性棟に戻った。
…忠告してくれたインカラマッさんには悪いけれど、月島さんの言う通り、これで分からなければ私は諦めるつもりだ。元々男性棟とは隔離されているに等しいのだからこれまで通りでいいだろう。
特定出来ればラッキーくらいのつもりで、私は月島さんからの連絡を待った。

「すまない、遅くなった」
「いいえ、お願いしたのはこちらですから」

時刻は午後十時。わざわざ女性棟の呼び鈴を鳴らして私を呼び出した月島さんから成果を聞く。お互い寝巻き同士とあって少し気恥ずかしく、月島さんはどうやらその動揺もあって私と連絡先を交換したことを忘れていたらしい。

「先ず杉元という男だが、俺が出張から戻って一番初めに会ったのがこちらだ。 片付けがひと段落着いたからと台所でカップラーメンを作っているところで、三分待つ間にシンクにあった誰かの洗い物を片付けてやっていたり、出窓に置かれる様になった鉢植えもこいつの物だったり…マメな男の様だと感心したな。
前の家は隣人トラブルで出て行くことになったらしいが詳細は話してくれなかった。 被害者なのにと恨み言を零していたから、まあそういうことなんだろう」

どうやら月島さんは杉元さんに好感を持っているらしいことが言葉の端々から窺える。好い人なのかも知れないとつられそうになりつつ、次の人の話を聞いた。

「次に会ったのは尾形という男だ。 風呂上がりにパンツ一丁で出歩いているのを注意したが…中々ふてぶてしいやつだぞ。 あまりものを持たない主義のようで、ほぼ身一つで来たらしい。 先に話した杉元とは元々顔見知りの様だが、あいつが来ると分かっていたら来なかったとぼやいていたあたり仲は悪いんだろう。 その割に出窓の鉢植えが杉元の物だと直ぐ感づいていたり、妙にお互いに詳しかったが……と言うか、それなら出ていけば良さそうな話だが。 そういう素振りが無いのが不思議だな。 ここの設備がいいというのもあるのかも知れないが」

月島さんからの話を聞き終えて、私は果たしてどちらが最初の入居者なのかを考える。
…月島さんは几帳面な人だ。きっと聞いてきた話をそのまま教えてくれていると思うが、やはり当人に聞き直すべきかもしれない。或いは月島さんに改めて事情を打ち明けて、共にストーカーを見極めてもらうか。
さて、どうしよう。

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