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鶴見山荘事件

私の目の前には、毒を盛られて朦朧とする鶴見さんの姿がある。私をこの山荘に招いてくれた、遠縁ながら親身に接してくれる大好きな小父さんがどうしてこんなことに。

「やはり、彼奴だけは呼んではいけなかった…」

きみは逃げなさいと言葉を残して、小父さんは意識を無くした。まだ脈はある。救助は要請したけれど間に合ってくれるだろうか。
…小父さんはきっと、自分に毒を盛った人間が誰か分かっている。犯人もそれに感づいていたら、救助が来るより早く逃げてしまうのではないか。
私は山荘に居合わせた人達をロビーに呼び集めて、熊が出たからここで全員固まって対処する様にしようと呼びかけた。無線が不調で繋がらないが、小父さんが救助要請の為に下山したからそれまでだと嘘をついて。
幸い異を唱える人は居らず、台所と御手洗に立以外はロビーで過ごしてくれている。私はその離席時間を利用して、一人一人からそれとなく話を聞いた。
…この中にいる誰かが、小父さんに毒を盛った犯人だ。絶対に逃がせない。

「俺が来た時にはもう三人いたけどな。 管理人さんに言われてドアに鍵とチェーンをかけたから、後から入れる人間は居なかったはずだぜ」

杉元さんはロビーに呼び集めた人間が五人であることに関して最初から不思議がっていた。その態度からして嘘じゃないと思いたいけれど、信じきれない。
…そういえば小父さんの部屋にカップやペットボトルの類は無かった。けれど珈琲の香りが残っていて、咄嗟に吐き出したのであろう吐瀉物は茶色だった。犯人が毒入りの珈琲を処分したのなら、やはり台所が焦点になるか。

「先に誰がとか何人いたかなんて一々確認してねえよ。 来て直ぐに台所で何か飲もうと思ったら月島が珈琲淹れてたから、少なくとも俺より先に月島はいたんだろうな。
…そういや冷蔵庫からミネラルウォーターを貰った時、半分くらいに減ったジュースのペットボトルが入ってた。 じゃあもう一人、誰かいたんだろ」

尾形さんの証言を信じるなら、杉元さんが指した「自分より先に来ていた三人」は尾形さんと月島さんと、私になる。でも私はジュースなんて飲んでいない。小父さんはここの管理人だから出入りは杉元さん達と別のところからしている。私は杉元さん達と同じ玄関からしているから、杉元さんの指した三人には小父さんは含まれず、私は数えられるはずだ。
…どういうことだろう。

「俺より先に誰か珈琲を淹れていたみたいだぞ。 コーヒーメーカーはまだ温かった。
…尾形? ああ、来たな。 冷蔵庫からペットボトルを一本持って直ぐに出ていったから、なにも話はしていないが…そう言えば後でカップを片付けに来た時も誰かが直前まで台所を使っていた様だったな。 水切りに濡れたカップがあった」

月島さんは言いながら珈琲を啜る。
今のところ、気になるところは無い。言うなら尾形さんの証言の裏付けがささやかながら取れたことだろうか。

「私はジュースを貰って自室に戻ろうとしたんだが、杉元にご飯前に飲みすぎちゃいけないと言われて戻しに行った。 珈琲の匂いが好きじゃないから直ぐ出ていったから、何があったかとかは全く見ていないが…うん? 台所では誰とも会わなかったぞ?」

…アシリパちゃんの証言が嘘じゃないなら、時系列が大体判明する。
台所に入った順番はアシリパちゃん、月島さん、尾形さんの順だ。
月島さんの前に珈琲を淹れていた人物の存在が、アシリパちゃんの証言で裏付けされた。
これで尾形さんの証言が嘘だったら…尾形さん、月島さん、アシリパちゃんの順になる。
月島さんに先んじてコーヒーメーカーを使った尾形さんは一度台所を出てからまた舞い戻り、小父さんに毒を飲ませて、証拠隠滅の為に台所へ戻ったけれど月島さんが居たからミネラルウォーターを貰って誤魔化した。そして月島さんが出て行った頃を見計らってカップを片付けに来て、そこでアシリパちゃんが戻したジュースを見たのかもしれない。
…でも月島さんの証言が嘘だとしたら。
本当は月島さんの前にコーヒーメーカーを使っていた人なんかいなくて、濡れたカップを見たというのも嘘だったなら、犯人は月島さんになる。
この状況の中、嘘を吐く必要があるのは犯人だけだ。
…まだ断定する前に確認したいこともあるけれど、私はほぼ誰が犯人であるかを確信していた。
でも、どうしよう。


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