小説2 | ナノ

兵ちゃんが好きだ。その想いを表現しようと繰り返し伝えた愛の告白は、兵ちゃんの中で徐々に安心で薄められて、いつしか慣れに流されていっていたのだろう。もうわかったから繰り返すな。たまに兵ちゃんは本気で怒ってわたしにそう言う。そうやって兵ちゃんに怒られると気持ちがしぼんでしまうけど、そんなときに兵ちゃんが睨み付けながらも傍に居てくれたりして、わたしはまた 急に浮上するのだ。
兵ちゃん。兵ちゃん。兵ちゃんが、好き。ずっと好き。言葉にしないと、好きにつぶされて何も手につかなくなりそうだった。好き。誰よりも好き。痛覚が麻痺して、切り傷の痛みもわからないくらい感覚が鈍くなっていた。好き。好意がわたしを遮断していたのだ。

「ひとの話、聞いてる?」

苛立った兵ちゃんの声がする。同時に、兵ちゃんのフキゲンがわたしの体を刺した。

「ごめんね兵ちゃん、聞いてる。」

その痛みが頭を刺激する。うすぼんやりとしていた景色を明瞭にさせ、冷たい空気が流れこんでくる。もう、麻薬は切れてしまったのだ。

困ったように笑ったわたしを見れば、兵ちゃんは完全に怒ってそっぽをむいてしまった。のろまのぐず。そんな兵ちゃんのわたしを罵倒する声が聞こえた気がした。

あの頃の言葉も気持ちもぜんぶ嘘じゃなかった。伝えた愛の言葉も確かに本当だから、嘘にしたくない。お願いだからわたしを冷静にさせないで。兵ちゃんを好きでいさせて。わたしは兵ちゃんが好き。兵ちゃんが好き。ずっと兵ちゃんが、好き。だったはずなの。

兵ちゃんは、きっと気がついてる。わたしの気持ちの変化に。おそらく薄まって流されたわたしの好きを掬い上げたいのに、何も言えずにわたしの横で無言の訴えを続けている。のろまのぐずのくせに、僕の横から居なくなるなよ。そんな声がまた聞こえた気がした。浮かぶのはごめんねの言葉ばかりで、わたしはただ泣くのを堪えている。

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