小説2 | ナノ

加藤はぜんぜんスマートなやつじゃないし、見ていてあきれちゃうくらい子供っぽいところがある。口からでる言葉はサッカーの話とダルいウザいの言葉だけだし、がさつで適当だから机のなかはいつも汚くて、配られる大事なプリントはみんな引き出しの奥に押し込めてぐちゃぐちゃにしちゃうし。
もうちょっと、ちゃんとできないの?って言ってみればうるせーなあ、なんてめんどくさそうにしぶい顔で返される。なによそんな顔、他の女の子の前ではへらへらして見せないくせに。
そんなことよりお前アレ聞いた?、と加藤は最近ハマっているらしいバンドの新曲について話しだす。あのベースがさ、最高なんだよ、ああ俺も軽音部に入ればよかったかも。

「じゃあサッカー部やめたら?」
「それとこれとは、話が別だ。」

一緒じゃん。そういうことじゃん。

なあマック行こうぜ、って加藤が言う。俺いまめっちゃ腹減ってんだ。
加藤の心はいまとても穏やかだ。わたしとの間に作られた慣れと安心に全身浸かりきっている。そこに覚えていた幼馴染みとしての優越感が、消え去ってしまったのはいつだったろう。

「マック行くだろ?」

今日はちょっとおしゃれなご飯やさんに行こうよ、とか。今度一緒にそのバンドのライブ連れてってとか。平気な顔して言えたらいいのに。わたしは加藤の表情から安堵が消えるのがこの上なく恐ろしい。

「うん行くよ、わたし今クーポン持ってるし!」

いつか訪れてしまういつか、にただおびえて、今日もわたしは加藤の横を歩く。

机のなかで潰されている加藤のプリントを想像しながら、ぐちゃぐちゃに潰されていくわたしの気持ちを想った。

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