小説2 | ナノ


くるりくるり、綺麗なピンク色の爪にからまって滑らかな毛先がよく回る。

「なあ、毛先いじってて楽しいか?」
「んー?」

あまりにもずっと回っているので思わず問い掛けてしまった。しかし俺の言葉など耳に入っていないのだろう、花子は携帯画面を見つめたままだ。こちらに意識を向ける気は毛頭ないらしい。返事になってない返事を返されてむっとしなくもなかったが、そんなことで怒ってもなにも生まれないのは長い付き合いでよくわかっている。俺がそんなことを考えている間も休むことなく花子の指はよく回る。その動きを止めるべく、自身の手でその指先を掴んでみた。

「おーい聞いてるか。」
「わっ…!」

そうしてやっとこ花子の黒目は俺をとらえた。全く、せっかく会ってるんだからこっちくらい見ろってんだ。目の前の大きく開いた目が少し細くなって、口元が弧を描く。

「作兵衛くん、構ってあげなくて寂しくなっちゃった?」
「そんなわけねえだろ。」
「あっそう。」
「おめえこそ、髪の毛弄ってばっかで。なんだ、寂しいのか?」
「そんなんじゃないもん。ただの癖なの。」
「へえ。」

花子の右手がまた髪の毛に引き寄せられて、髪の毛を絡めとる。指に遊ばれたセミロングの毛が規則正しく踊りだした。見ようによってはだらしなく見えるけど、弄る仕草は女っぽくてちょっと可愛い。から嫌じゃねえんだけど、な。

「なんか髪の毛には寂しさを吸い寄せる不思議な力がある気がするんだよ作兵衛くん。」
「っつーことはやっぱ寂しいんじゃないんですかね、花子さん。」
「あれ、確かに。」
「ならこういうのどうだ。」

毛に絡まった指先をほどかせて、俺の左手で絡めとる。白くて細い花子の指が自分に重なる。異なる体温と視界に映る手が、わずかに俺の体温を上げた。

「そうだね…理にかなってる、かも。」

はにかむ花子が重なった指をなぞって、きゅっとひとまわり大きな俺の手を包んだ。俺の表情もそれによって緩んでいく。

きっと今俺たちはカフェのカウンターのテーブルの下で寂しさから手を繋ぐ、所謂よくいるカップルだけど。でも本当のところ不器用な俺らを繋ぐものなら、寂しさが言い訳でも嘘っぱちでもなんでもいいのかもしれない。


つないでる


(作兵衛!こないだ駅前のカフェでいちゃついてたな!)
(は!左門なんでお前それを…!)
(こういうのどうだ、と彼女の指をとるのはなかなかクサかったよな。)
(うわあああ三之助おめえ…!!)

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