「今日もおめえだけだな。」
「どういう、意味。」
「別に意味なんかねえけどさ。」
「左門と三之助ならたぶんあの子のところだよー。」
「知ってるよ。さっき一緒に居るとこ見た。」
「あーそう。」
今日も作兵衛だけはちゃんと私を迎えに来た。
「さくべ。」
「なんだよ。」
「トランプしよーよ。大富豪。」
「ふたりでかよ…」
「だって、待っても左門も三之助も、来ないんだもの。」
今日もずっと待っていたんだけどな。さいきんは二人にふられてばっかりだよ。
前まではこうやってひとり教室に残って座ってればだいたい左門と三之助がひょっこりここに迷い込んできてくれたんだけど。「なんで花子がここにいるんだ?」なんて言ってさ。そんで三人でウノとかトランプやって、私が大貧民から抜け出せなくなったくらいでいつも作兵衛が「やっぱここか!おめーらもう帰っぞ!」って迎えにきてくれてみんなで帰るのが普通だったんだけど。
今日もわたしと、作兵衛だけで帰るのか。
「ほら、今日はもう帰るぞ。」
「…なにこの手。迷子ふたりがいないから、手つなぐ必要はないんだよ。」
「だっておめえが寂しそうだからさ。」
そう言われて流れで繋いでしまった手だけど、繋いだ意味を見つけられないせいで繋ぎ方がぎこちなくなる。汗が手のひらを湿らせた。
寂しそうって。みんなして私を子供扱いするんだから。確かに子供だし否定はしないけど。でも私だって結構色々知ってたり考えたりしてるんだから。
明日の天気は、どうなるかな作兵衛。
わたし、明日は曇りになるといいと思うの。そうしたら誰も悲しまないんだよ、それにね。もしかしたらあの子のことからちょっと頭が離れて、ふたりが頼りないわたしのこと思い出してくれるかなーなんて、ね。ふふふ、そんなわけないのに、ばかみたい。
「あーした、てんきに、なーるなっ、」
おもいきり振り上げた足と、飛んでいった私の靴。ころころ転がって、ぴたり、側面を上に向けて止まった。ほっとした。
「なんだよそれ。」
「あーした雨にもなーるなっ」
「おめえ前からおかしいけどさ。どうした。」
「曇りに、なーれ、」
明日たくさんの雲が作られてこの空が薄暗く染まるはずだ。
その未来の景色に向けて、わたしは陽気なふりをしながら、作兵衛の手をぎゅっと握って、ただ祈った。一番に欲しいものはまだ決められない。
曇り空にこそ歌声を
→スノーブルース
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