小説2 | ナノ


※崩壊気味注意




チラッ

「…。」

チラチラチラッ

「……あー!!」


ガタン、と音をたて、俺は勢い良く立ち上がった。
賑わっていた食堂は一瞬沈黙し、またすぐに騒がしさを取り戻した。

「おい、作兵衛いきなりどうしたんだ。」
「どうしたもこうしたもねえ!」

三之助の声は無視して、俺はずかずかと少し離れたテーブルに腰掛ける花子の元へと歩いていった。花子はすぐにそんな俺に気がついたのか、慌てて俺から逃れようとその場を去ろうとする。

「おい、花子。待てよ。」
「ひっ、」

ぐいっと手を引くと恐怖からか顔を歪ませた花子が小さく叫び声をあげた。おめえ、そりゃ傷つくぜ。

「最近俺を避けてんだろ。こっちはジロジロ見てくるしよ。なあ、なんでだ?」
「…や、怖い。無理やりしといて…私に近づいてこないでよ!!!」

花子の大きな声が響いたその瞬間、またもや食堂は沈黙に包まれた。しかし先程と違い、今度の沈黙は長い。俺は花子の言葉が理解できずその場に固まる。
ざわりざわり、周りが騒ぎ出しはじめた。俺に向けられる視線がとんでもなく痛い。待ってくれ、俺、何もした覚えはない。つーか俺ができるわけねえだろ!だって俺は花子と話すだけで舞い上がってるくらいなんだ。そんな…花子を無理やりなんて…そんなこと……ヤバイ、想像したら興奮してきた。まずい、ここで鼻血でも出したら完璧に俺はくのたまの抹殺対象になりかねない。…ああ、それにしても俺、知らないうちに花子に嫌われてんじゃんかよ…なんでだ。

花子を連れて、くのたまが皆俺に冷たい視線を投げかけ去っていく。
三之助と左門はニヤニヤしながらこちらにやってきた。

「作兵衛、お前…思い切ったことしたな。」
「大胆だな!」
「ちょ、おめーら勘違いすんな!俺は!断じて!花子に無理やり…なんてしてない!」
「あ、作兵衛鼻血。」
「え。」

なんだよおお俺マジ説得力ねえ…。慌てて鼻を抑えたら三之助にぽん、と肩を叩かれた。なんか腹立つ。本当違うんだって!俺は妄想の中でしか花子とやましいことなんてしてねえ!!
と言い張ったら「作兵衛…気持ち悪いな!」と左門に笑顔でバッサリ言われた。落ち込む…
…だって妄想くらいはいいだろ、別に迷惑かけてねえし。なあ?







俺の命はもって三日か…
そんな風に失意の日々を過ごしていたが、俺の予想に反し一週間程してもくのたま達から何かをけしかけられることはなかった。そのことに安堵はしたが、俺が花子に嫌われていることに変わりはない。
花子、俺は無実だ。信じてくれ。きっと誰かにはめられたんだ。
しかし伝えようにも花子には避けられてばかりで。変わらず絶望の毎日を過ごしていた、ある日。


「作兵衛…」

そのとき俺は綾部先輩の掘った穴を埋めるための土を運んでいた。作業に必死で誰に呼ばれたか考えもせずに俺は呼ばれたほうを振り向いたのだ。

「あ、花子…」

そこにいたのは花子だった。俺は慌てて作業を中断し、そちらへと駆け寄る。

「ど、どうしたんだ。」

あの事件以来花子が俺に話しかけてきたのは初めてだった。俺は不安と嬉しさと緊張とで気持ち悪い汗をかきながら花子の言葉を待つ。花子はすこしうつむいて、ごめん、と呟いた。え?

「食堂で大きい声出しちゃって、作兵衛に迷惑かけちゃった。くのたまの子は作兵衛をえげつない方法で懲らしめる計画まで立ててたし…あ、それはなんとかやめてもらったから。」
「お、お…」

えげつない方法って…なんだ。背筋が途端に寒くなる。

「それより、俺、おめえになんかしたか。突然避けるし、無理やりとか言うし…俺は意味わっかんなくて。」
「だ、だって作兵衛が、むりやりっ私に…」

花子が言いづらそうに言葉を濁した。やっぱり…俺なのか。でも納得いかねえ!だって、だってよ。

「っ俺は妄想の中でしかおめえを無理やり押し倒すとかその先とか…そういうことはしてねーから!だから、それは俺じゃねえ!」




俺の言葉にぽかんと口を開けた花子は「えっ」とか「いやっ」とか言いながら「そういうことじゃなくて、」と突然挙動不審になりはじめた。

「あの、私の夢の中で、作兵衛が私を追い掛け回して、無理やり私の口におまんじゅうを詰め込んで…ほんと苦しくて、…で、あの、そのことがトラウマになって作兵衛が怖くって、…わあああそれだけなのお!!!」

そう言うと真っ赤な顔を抑えて、物凄い速さで花子は何処かに走っていってしまった。

後に残された俺は、こわごわ自身の言動を回顧する。

…あれ、俺、自爆?


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3位、富松作兵衛でギャグでした。
うちの富松くん割と他のひとと比べて(例:池田くん)崩壊していない気がしたもので、すこし突っ走っていただきました。富松くん好きの方、申し訳ありません。

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