小説2 | ナノ


どうしてこうなったか、

私は三郎次を前に、苛々を抑えながら必死に回想する。
もともといつもただひとつに纏めていた髪の毛を、タカ丸さんが結ってくれたことがことの始まりだった。



「うん、とってもかわいいよ。三郎次くんと出かけておいでよ。」

去り際、タカ丸さんにそう言われて私はふむ、と考えた。特別出掛ける用事があったわけでもなかったけど、せっかく綺麗にしてもらったんだし…それもいいかも。
そう思い立って、三郎次に会いに忍たま長屋まで向かうことにしたのだ。すこし、わくわくしながら。そりゃあ私も女の子ですから。

三郎次に会うまでにすれ違った色々な人にいいね、と声をかけてもらえて、単純な私はどんどん気分を良くさせた。
途中偶然出くわした左近は私の髪を見て、変えたんだな、とだけ一言言った。
その時は、あんたねえもっと言うことないの?と思っていたが…言ってくれただけありがたかったということだろうか。

私はもう一度三郎次を見据える。



「…」
「…」



つい先ほど期待に胸を弾ませて恋人の三郎次に自身の姿を見せたのはいいが、返事が全くない。

いくらなんでも無言はないでしょう…ああ、あまりの変わりように固まっているのかもしれない。
そう思った矢先、彼はふいっと私から目線をそらして「ああ。」と一言つぶやいた。

ぴくり、顔がひきつる。ちょっと、ああって…それだけ?
ツンデレなら、ツンデレらしく、顔を真っ赤にして「別に可愛いとか思ってない!」って言ってくれてもいいじゃん。それは無理でもせめて、ツンデレ代表左近よりは一文字でも多く言ってほしかった。あと四字足りない。

(…この海草代表め…)

ちょっと髪型を変えたくらいで、三郎次に期待したのがいけなかったか。ふん。まあいいわ。

「ね、私せっかく髪型変えたし、ちょっとお団子でも食べにいきたいなって。付き合ってよ。」
「ええ?今からか。」
「もちろん。」

そう言うと三郎次はあー、とかんー、とかを繰り返し出した。そんなに私と行きたくないのあんたは。

「…もういい。じゃあしんべヱたち誘って行く。」
「お、おい待てって、行くよ。」

途端に今度は手のひらを返したような態度だ。いきなり態度を変えられたら変えられたで癇に障る。
別に無理してくれなくていいよ?ただ私の機嫌は確かに悪くなるけど。でもご機嫌取りなんてされたら私、さらにへそ曲げるんだからね。








「イヤなら来なくていいのに。」
「別にい、いやじゃねーよ。」

またすこしだけ顔がひきつった。こいつ、重要なところで噛みやがった…腹立つな。

それだけ言うと三郎次はこちらを見ないまま門に向かってさっさと歩きだした。私は無言でその隣を歩き出す。ふたりの間のぎこちない距離感をひしひしと感じる。でもまあ、三郎次となんてしょっちゅう喧嘩してるし慣れっこだからそんなに気になりはしないけど。
そういった風なことを以前友人に何気なく言ってみたことがある。その時は、なんだか悲しくない?と真面目に返されてしまった。うーん…思い出したらなんだか本当に私たちが虚しく思えてきたな。まあイヤイヤとはいえ、三郎次は私のためについてきてくれたから許してやらないこともない、か。


「なあ。」
「なに。」
「ちょっと、もう少し離れて歩いてくれ。」
「は?」
「いや、なんかいつもとお前違うから落ち着かない。頼む。」

…はい?

いやいや、いつもと違うから離れろって、何をぬかしてるんだこのクソワカメは。
もう決めた団子奢らせよ。んでもって今日はずっと拗ねててやる。会話も無ければ速攻で帰ってこれるし三郎次もその方がいいでしょう?
ふん、謝るまで絶対許さないから。ぎこちない距離感で大いに結構。さっきの譲歩なんて忘れた。
私は三郎次に言われたとおり大きく大きく間を空けて歩く。ざまあみろっだ。


「あ、花子ちゃん?」


聞きなれた声が前方から聞こえた。苛々しすぎていたせいか、前から来る集団に気が付けなかったようだ。
前から歩いてきたのは、浦風先輩に、立花先輩、綾部先輩、伝七、兵太夫…

「どうも、作法委員の皆さん、お揃いで。…って、今日委員会でしたっけ…?」
「お前、何委員会サボって出かけようとしてんだ。」

ぴしゃりと立花先輩に冷たく言われる。うそ…忘れてた…
顔面蒼白、とはまさにこのこと。頭からさあっと血の気が引いていく。

「今すぐ着替えて委員会に来い!」
「ヒィイすみません!」
「…と言いたいところだが。」

へ?と立花先輩の様子を伺うと、先輩はニヤリとこちらを見ていた。

「その髪型、似合ってるな。せっかくだから今日のところは許してやる。三郎次とよろしくやってこい。」
「あ、ありがとうございま「ただし、次の委員会で覚悟しとけ。」

私の言葉を遮って、立花先輩は当然のようにそう言い放った。うげげげげ怖い怖い。ま、ままあでも良かったと思わなきゃ、ね。うん、今度の委員会の私、頑張れ。

「それにしても花子ちゃん、本当に似合ってる。かわいいね。」

浦風先輩が優しく私に笑いかけながら、軽くおでこを撫でてくれた。

(何この人優しすぎる…!)

心なしか先輩のまわりがキラキラ輝いて見えてきた。三郎次の反動からか、嬉しさが一気に溢れ出て頬が勝手に緩みだす。…へへ、かわいいなんて照れるなあ。


「…花子。」

そこで後ろから呼ばれ、私は頬の緩みを引っ込ませる。…ああ、三郎次忘れてた。思い出したように振り返ると、少しだけ機嫌が悪そうな彼がこちらを睨んでいた。ちょっと、睨みたいのはこっちよ。あんたが私に何文句あるっていうの!?

「やっぱりお前離れて歩くな。」

へ?

と言う前に突然三郎次に引っ張られたかと思うと、そのまましっかり私は三郎次に支えられた。つまり簡単に言うと抱きかかえられている、ような。…え、

「ちょ、さ、さぶ」
「さっさと行くんだろ。…花子借りてきます。」

そうして私は引き摺られていく。
作法委員のみなさんに「サボってすいませんっお願いしまーす!」と軽く挨拶する暇もなかった。むしろ、顔を見ることすらできなかった。とにかく、ぐいぐいと手を引っ張る彼に必死で付いていくしか。




「さぶろうじ!」

大きな声を張り上げて、やっと彼は足を止め私の手を離した。

「もう、髪の毛崩れちゃう。」
「…悪かった。」
「本当だよ。ああ、すこし傾いたかな。」
「離れろなんて言って悪かった。」

そう言う三郎次は、未だ私の目を見ない。その顔はひどく恥ずかしそうだ。

「その、…似合ってる。恥ずかしくてお前のとこよく見れないんだ。悪い。」

口元を抑えながらそんなことを言う三郎次を見て、怒っていた気持ちはどこかにすっ飛んでしまった。
ずるい、そんなこと言うの。
誰のきれいとかかわいいの言葉よりも、ずっとずっと嬉しくて、ずっとずっとどきどきしてしまうから。

やっぱり私は、憎たらしい海草みたいな髪の毛のツンデレが大好きみたいだ。



「さ、さぶろーじ…なにそれ、凄く嬉しいんだけど…」
「ばっ、か、勘違いすんなよ!べ別に可愛いとか思ってないからな!!」
「!!もう!ツンデレ最高!」
「うっせー黙れ!!」


愛すべきツンとデレ

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1位、池田三郎次で甘です。安定の書きやすさな池田くん。池田アンケ参考にしてみました笑

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