小説2 | ナノ

大好物のレモン味のあめを口に放り投げました。口の中を軽く刺激する、甘酸っぱさがお気に入りです。もともと砂糖の入っていないコーヒーやトウガラシのはいった中華料理は、邪魔なものばかりであまり好きではありません。できれば食べたくないです。そんなところからよく子供っぽいと笑われますが、大人っぽく変に出しゃばるよりはずっといいと思っています。

そうして今日もわたしは世間の渦の中でぐるぐるまわります。名簿に並ぶなまえの中に埋もれます。一方で教室には渦から顔を出して、キラキラしている子の話し声がこだましています。かわいらしくて、とても通る声です。
男の子の声もしたので、わたしは文字から少し這い出て耳をすませました。無意識に三郎次くんの声を探しました。すると探していた笑い声と低い声が本当にしたので驚いて、同時に嬉しくなりました。それとまた同時に、わたしはやるせなさをひとさじふりかけられます。

恋が甘酸っぱい味とは、一体だれがきめたんでしょうか?不思議です、わたしにふりつもる辛さは、決してレモンなんかにかわいらしく例えられそうにありません。
だって三郎次くんから見たわたしは言葉の中にとじこめられたまま消えていくんでしょう?わたしの体は三郎次くんの目にはうつりません。溜め込んだせつなさも見えません。いつかの日に見えないことにほっとしていたわたしには、もはや戻れなくなってしまったようです。日々せつなさだけがいたずらに増すばかりです。
こんな辛さは、誰も教えてくれませんでした。だからこそ恋という言葉に痛みをもたせたがらない世間を、わたしは抱きしめてやりたくなります。本当に、わたしを決して認識しないその綺麗な目でわたしを見つめて、名前をつぶやいてほしいんです。日々は妄想で流れます。現状として全く話すことのない三郎次くん相手に、です。
最近やっと客観的に周りが見えるようになり、わたしは大人になったような気分で、悟りました。偽物みたいな言葉たちが真理になる瞬間を、みんな形にしようと必死だったんですね。わたしはそんなせつなさの海にいて、あいかわらずやるせなさを浴びては泣き出しそうになります。
けれどそのリアルな情景を、三郎次くんが見ることはないのです。
レモン味の飴がわたしの体にあまく優しく溶けていきます。うそみたいにキラキラした世界が、わたしは大好きです。

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