小説2 | ナノ

夕方から会うってきめていたから、わたしは軽い足取りで左近の家までやってきた。

「暗いだろうし寒いからお前の家に僕が行く。」
「いやだ!左近の家に行く!わたし左近の家好きだもん!左近の匂いするしおいしいお茶もあるし!それに左近冷え症でしょ!ハイもう決まり!」
「はあ!?匂いとか気持ち悪いからやめろよ!」

とかいう押し問答の結果、わたしが左近の家まで行くことになったのだ。だって左近の家、ほんといい匂いするんだもん。汚いものをみる目つきで罵られようがもうぜんぜん気にしないよ!
見慣れたドアのノブをにぎりしめ、おもいきり開け放つと、見慣れたいとしい彼氏さまの姿があった。

「ヤッホー左近!着いたよ〜〜」
「窓から見えたよ。」

呆れたように息を吐いた左近。そんな顔をしているけど、チラチラわたしが来るのを気にしていてくれたから気が付いたんだよね。知ってる〜わたし知ってるよ〜〜!言ったら怒るから言わないけど、そんなバレバレのデレデレが愛しくてしかたないんだから。

「さこんっ」
「ストップ!」
「あっ」

あふれる愛しさを今すぐ伝えるために抱き着こうと伸ばした両手を、両手でつかまれる。エッ!なんで拒否られてんのわたし!ちょっと傷つく!
左近がゆっくりとわたしの手を押し戻し、開けっ放しだった後ろのドアを閉めた。

「寒いんだから早く入れよ。あったかい紅茶、淹れてあるから。…ほら、雪もはらって。」
「左近…」
「なに?」
「なんで左近はそんなにかわいくてかっこよくて素敵なの?わたしをキュン死にさせにかかってるの?」
「なに言ってんのお前…」

左近の愛であふれたやさしさと、この憐みと蔑みをもった視線をいただいて、わたしはいつもながら幸せいっぱいである。ふやけた顔をだらしなくゆるませていると、突然左近がわたしの手をつかみ、ぐっと引き寄せてきた。エエッ左近ちゃん、そんな!二人きりになった途端…!大胆…!

「…おまえ…手、冷たすぎ。手袋してきてないな…!」
「ぎく!」
「それにこの間耳当てだってあげただろ!?こんな寒いのになんでしてこないんだよ!それに、なんでそんな足だして、薄手のストッキングはいてるんだ!」
「それは左近に破ってもらおうと思って…ア、すみませんすみません痛いんで頬つねるのはひゃめてくははひ!!」
「体冷やすなってあれほど言ったのに…どうしてわからないんだよ!」
「だっておしゃれなレストランへ出かけるのにもこもこに着込んだ格好で行けるわけないでしょ!」

そうなのだ。だって女子として生きるためには、おしゃれのために体をはらなきゃならないのだ。一生懸命伝えてみるけれど、こちらを睨んできた左近は一向に睨むのをやめない。「冷えは万病のもとなのに言うこと聞かない」とか「下半身は特に冷やしちゃいけないのに」とか「これから母体に影響が出たら」とかぶつぶつつぶやいている。いやいやいや左近さん、ふだん気持ち悪いわたしでも思うけど、それはマジで気が早いから冷静になってほしい。たまに左近は過保護すぎたり飛躍しすぎたりすることがあるんだよな〜だいじょぶかな〜。ひとしきり悩み終わったのか、左近が大きく溜息をついた。かと思うとごそごそと紙袋を漁りだし、わたしに綺麗な包みを手渡した。わたしはわけもわからずそれを受け取る。

「え?」
「開けて、着替えろ。」
「え?」
「はやく。」

声に急かされるように包みを開く。光沢のあるシックなロングワンピースに、ファーの上着が収まっていた。

「はやいけど、僕からのクリスマスプレゼント。少なくともお前が今来てるのよりはあったかいと思うから、それ着てディナーに行くぞ。」
「エ…!!」

先ほどから「エ」しか言えていない貧相な表現力のわたしの間抜け顔とあわてっぷりがツボに入ったのか、左近は少し顔をそむけて笑い出した。あ、笑った。わたしの大好きな左近が笑った。わたしはもらったドレスを抱きしめる。ふと左近の、わたしへの「大好き」を感じた。

「すぐ着替えてくる!」
「はいはい。」
「左近、」
「ん?」
「ありがとう。わたし左近が大好き。」

みるみるうちに顔を赤くしていく左近を見るのが楽しくて、笑顔で次の照れ隠しのツンツン怒号を待っていたら、左近は諦めたように笑ってわたしを見る。あれ、いつもと違う?

「でも、きっと僕のほうが花子が好きだ。」

気持ち悪いほど左近が大好きなわたしが、そのあまりの愛しさから鼻水と涙をこすりつけるように左近に抱き着いたのは言うまでもない。でもこれは、素敵な彼氏さまが悪いから仕方ない。



*



「見てみて三郎次〜左近からかわいいワンピースもらったの〜わたしかわいいでしょ〜最高のクリスマスだった!」
「あーウン、俺は不本意な疑いかけられて散々のボッチクリスマスだったけどな。」
「左近もわたしのこと好きってわかったし、本当に幸せいっぱいで、暫くもうなにもいらない…」
「あーヨカッタネ。俺は言いたいことがたくさんあるけどな。」
「でお前結局なにあげたの。」
「腕時計。久作を信じてよかった。」
「ふつうかっ!」
「本気でわたしをあげる〜とかやるわけないでしょ。冗談だよ冗談!」
「おいお前、今度自販機で。覚えてろよ。」
「エ?」

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