小説2 | ナノ

「…で、左近。一応聞くが誤解は解けてるんだよな?」
「ああそこは大丈夫。花子の相手、お疲れさん三郎次。」

大げさに溜息を吐き出して、三郎次はわかりやすくうなだれた。本当にお疲れらしい。それは、普段の彼女の行動を考えても…心中察する。

そしておもむろに、あんなやつのどこがいいんだ、って三郎次が真剣な顔で言うから。僕は少し下をむきながら笑った。
曰く、約束には絶対に遅刻するし、手先は壊滅的に不器用で、あと方向音痴、あと決めたら変えない頑固者。あと猫舌、あとうるさい、せわしない、気まぐれ、足遅い、その他もろもろ。
最後の方はもうただの悪口になってしまっているが、確かに当たってはいる。だがいくらなんでも言い過ぎだ。それ以上に花子は優しいし、明るいし、思いやりもあるし、行動的で受け身な僕を引っ張ってってくれるし…贔屓目満載なのは認める。でも贔屓目なんてのは彼氏として当たり前というかむしろ責務だと思う。
なんて今でこそこんなことを偉そうに言ってる僕だけど、大事なことを素直に誰かに発信することの大切さを教えてくれたのは、他でもない花子なんだ。

「いいとこも、まあ、あるだろ。」
「いやー左近がそこまで入れ込む理由がわかんねー」
「そんなこと言って、」

なんだかんだ、そっちだって気にしてるくせに。
それを口にできないのが、きっと僕の余裕のなさで、不安のしるし。僕のいない彼女の時間の三郎次を、疑わずにはいられないことと、素直に伝えられない弱さのしるし。

「まさかとは思うけど、疑うなよ。」
「う、うたがって、なんて」
「あーやっぱりな…」

わかりやすく動揺して噛み噛みになった。三郎次が馬鹿にしたように笑うから、僕は口を閉ざす。
だって、そのお前の馬鹿にしたような笑顔に、何が含まれててもおかしくないって思うから。大切を貫くのにも躊躇するよ。素直になるのも初心者なんだから。
花子に教わったことをを実践しようにも、今度は何が大事で何を伝えたらいいのかに迷って二の足を踏んでばかりいるんだ。

口下手なのは、結局いつまでも変わらないんだよな。

「知ってのとおり僕は花子が好きだ。それは三郎次も、だろ。」
「左近のとなりで笑ってて、俺に生意気にたてついてくる花子は、まあ嫌いじゃないな。」
「…ふうん。」
「俺は女の趣味はもっといい。自分をリボンで巻こうとする女はごめんだ。だからな。俺は俺の役割をやる。素直になるのはお前がやればいいんだよ。もともと立っている場所が違うんだから、そうやっていけばいいだろ。」
「…そうか。」
「なんだよ。」
「いや、なんか。」

あまりの気恥ずかしさに視線をそらしたくなる。何も、言えなくなってしまう。だって、多分いま三郎次の見ていることが僕にも見えて、どうしようもなく嬉しいんだ。

「あのさあ僕、三郎次がよくする悪そうな笑顔あるだろ、あれ割と好きなんだ。」
「なんだよ突然お前、でもそれ褒めてねえだろ。ふざけんなよ。」

花子にちょっかいかける意地悪な表情だって、本当のところきっと好きなんだ。

これは、今日の僕らだけしか知らない話。

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