小説2 | ナノ

「は?」

俺はカレンダーを見た。今日は12月14日。世間ではクリスマスソングが流れ、花屋ではポインセチアが立ち並び、LEDライトがくどいくらいに木々を光らせている。苛立つくらいに街が浮かれきっている、そんなクリスマス11日前。

今日は休日だからたまには一人で出かけるのも悪くないと思って出かけてみたショッピング施設のカフェで、俺はなぜか花子と向き合っていた。本を読んでいるところを運悪くもガラス越しに見つかってしまったのだ。
そうして無理やり同じ席に居座ってきた花子が投げてきた全くもってどうでもいい問いに、俺はこれでもかというほど嫌そうな顔をして見せた。既に俺の時間を邪魔しているっていうのに、更に面倒くさいことに巻き込むのは本気で勘弁してほしい。

「だーかーら!クリスマス前なんだけど左近に何をあげたらいいかって話だよ!!!」
「聞こえてるわ!あまりにお前がアホだから呆れてたんだよ!」

既に前言撤回したい。もう面倒くさいことになっている。俺は無意識に眉間に手を当てた。頭痛がする。

「今日は何日だ。」
「14〜」
「そうだ。クリスマスまで秒読みだよな。」
「さすがに秒では読めないよ。」
「おい揚げ足とってごまかしてんじゃねーぞ。お前今まで何やってたんだよ。もう世間のカップルはな、『プレゼント何買ってくれたの?』『内緒に決まってるでしょ///』って話題でもちきりなんだよわかってんのかよ!」
「わたしと左近は世間のカップルの枠に収まらない器なんだよ。」
「そのお前の絶対的自信はどこからくるんだ…」
「ってか三郎次そんな妄想してんの〜〜やだ〜独り身なのに恥ずかし〜。」
「すみませーん店員さん注文せず居座ってる迷惑な客がいるんですけどー」
「ちょちょちょごめんなさいごめんなさい。」

こいつが来てから何度目かになる溜息を吐く。
左近がかわいそうでならない。同情かけるなんて普段ほとんどしない俺が思うんだから相当だ。それ程にこいつがどうしようもないってことだ。きっと見てくれに騙されてうっかり惚れてしまったのだろう。
真っ赤な顔をして花子と付き合うことになったと報告をしにきた左近を見た時の俺の絶望感はすごかった。今でも目を閉じれば思い出せるほどに。

「いや、ね、わたしだって焦ってるんだよ。左近って何が好きなのかよくわからないし、一緒に出掛けても何かにあまり興味示さないし、いったい何をプレゼントしたら喜んでくれるんだろうって、悩んで、悩み過ぎて一回離れようと思って考えないようにしてたら…」

憂いの表情を出したいのか少し下を向いて溜息をついてみせているが無駄だ。要は忘れたんだろ。お前がプレゼント選べなくて、まあいいやって思って後回しにした結果だろ。結局のところお前の怠慢が悪いんだろうが。
そうは思ったが本気で困っているようなので、追い込むのは憚られた。本当に面倒くさい。そう思いながら俺は頭をめぐらす。

「たとえばアクセサリーとか…」
「左近は三郎次と違ってそんなチャラチャラしたものつけない却下。」
「手編みのニット…は無理だな悪い。お前は不器用の境地だった。」
「今の案完全にわたしを馬鹿にするためだけに言ったよね。」
「俺ゲーム機欲しいわ。」
「聞いてない。次。」
「もう現金でいいんじゃね。」
「もうやだこのひとばかなの?」
「お前、アドバイスやってるんだからもうちょっと感謝しろよ。」
「やっぱ最初から久作とか四郎兵衛頼るんだった…」

うーわ、こんだけふりまわしといて俺必要ない扱いかよ。今度こいつが自販機に小銭入れた後お茶のボタン押す前にMAXコーヒーのボタン押してやろう。
密かにそう企んでいると、ひょい、と俺の目の前から伝票が掻っ攫われた。

「おい、なんだよ。」
「いらないアドバイスのお礼。」

そう言って笑って去っていく姿を、俺はコートを抱えて慌てて追いかける。まあこいつのこういうところは、嫌いではないのだ。仕方がないからとりあえず自動販売機では何もしないでやろうと思う。

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