小説2 | ナノ

朝から雨が降っている。電気を暗くして、お気に入りの毛布をかぶって壁にもたれた。温かいココアだって用意した。きちんと寂しいわたしは、沈んだ気持ちを抱えて、期待しながら彼の声を待っている。ふとコール音が途切れてぼそぼそと声が聞こえた。

「三郎次?あの、ね。話聞いてくれる?」

ぼそぼそと何か三郎次が喋った。わたしは毛布を引き寄せた。微かに流れる雨音と暗闇を感じて、辛い気持ちを引き立てる。

「誰かに追われるたびに、ぞくぞくする、でもそれが終わるとただくるしいし虚しいの。」
「ホントどうしようもないね。ナニやってるんだろうね」

わたしの声を無言で聞いていた三郎次がぼそぼそと喋る。「はやいとこやめとけよ」溜めつくしたような深い息が受話器を通して伝わる。うっとおしくて仕方がないというようなそれに、わたしの心がぱきりと軽い音をたてる。
ナニやってるんだろうね。

「ね、会えない?」

ぼそぼそと三郎次は難色を示した。ああ、とかん、とか。あからさまに突きつけてくる答えは残酷だけど、それですぐに諦められないくらいにわたしは貪欲になってしまっていて、三郎次の望む答えを伝えてあげられない。雨とか夜とか、並べられた先延ばしの理由じゃ嫌だ。どうしても今ここに来ると言ってほしい。わたしを連れ出して。作りあげたこの寂しさを壊して。

わかったよ、と最後に早口で告げて、何か言う暇もなく電話は切られた。切った後に舌打ちでもしたかもしれない。苛立って、携帯をベッドになげたかもしれない。それでも三郎次は無意味な優しさをぶら下げ、ここに来るだろう。あからさまに苛立って来るかもしれない。思いきり低い不機嫌な声でわたしの名前を呼ぶかもしれない。そのたびにきっとわたしの心臓はぱきりと音を立て、強く音を刻むだろう。それでも彼はわたしの寂しさを砕くために雨のなかここを目指している。想像すると楽しみで気がおかしくなりそうになる。そんな自分がたまにすこし歪んでいるような気もする。
でも仕方ないんだ。だってわたしは三郎次が一番すきだけど、三郎次はわたしのこと、普通以上にはしてくれないんだもの。

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