小説2 | ナノ

今日のつきは、とってもきれい。ねえ、暗い海にぽっかり浮かんだ黄色い船は、どこに行くんだろうね。散らばった星を朝までに集めてまわって、またどこかに漕ぎだして行くのかな。ねえ。「夜は真っ暗闇だ」なんて、そんなのわざわざ言葉にしなくたって、わかるよ。「居心地がいいのは、苦手」?居心地がいいなら何も考えず浸ってよ。
もっと伝えなきゃ。きれいだね、って伝えなきゃ。綺麗なもの、きり丸も好きだよね。わたしは好きだよ。これから一緒に集めてこうよ。星なんて、ロマンチックなこと言わないから、小銭でいいから。
だから、ねえ。きり丸、わたしを傍においてよ。

きり丸の瞳がすっ、と細くなる。いつもの柔らかさと、小馬鹿にしたような親しみはそこに見当たらない。震えるわたしに、さらに追い討ちをかけるようにゆっくり首をふった。
さっきから何度も繰り返している。どちらかが頷くのを待つやり取り。泣いたら、負けてしまうことはわかっている。それでも見えてしまう。わかってしまう。想像のふねが形を変えて漕ぎだしていくこと。沢山の想いを並べても、あとちょっとが届かないで距離が離れていく。視界が少しずつ、ぼやけていく。

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