小説 | ナノ

私ばかりが動揺している。私は机に突っ伏して目を閉じる。
団蔵が、いよいよわからなくなってきた。団蔵は私が、好きなのだろうか。
わからないのは、それだけじゃない。
きり丸くんだって金吾くんだってしんべヱくんだって伊助くんだって庄左ヱ門くんだって喜三太くんだって、よくわからない。
みんなが私の知らないところで何かを思っている。
ねえ教えてくれないの?私が「昔」の友達じゃないからいけないの?

「花岡さん。」

その声に慌てて顔をあげる。
ニコニコした同じクラスの夢前くんが、私にプリントを渡してきた。

「はい、コレ落ちてたよ。」
「あ、ごめんね。ありがとう。」

同じクラスの天使、夢前くんに私のプリントを拾わせてしまった。間近で見るとまさに天使だなあ夢前くん。

「何か疲れてない?花岡さん。大丈夫?」
「うん、なんか悩み事が多くて。」
「花岡さんが知りたいのなら、教えてあげるけど。」

夢前くんは表情を崩さずに、突然私にそう言った。


…そっか。夢前くんも「昔」を知っているんだ。
そういえば団蔵は夢前くんとも仲が良かったな。私の心はまた重くなる。

「…ダメなのかな、夢前くん。私は、それを知らなきゃいけないのかな。今のことばかり考えちゃいけないのかな。」

それは、私が団蔵にすら言ったことのない愚痴だった。夢前くんは困ったように眉を下げる。

「僕は、知らなくても別にいいと思う。でもね、多分知って欲しい人は沢山いるんだ。そいつらが花岡さんにその思いを押し付けるのは違うとも思うんだけど、僕はその気持ちもわかるから―」

一瞬ためらって、
夢前くんは、なんとも言えないよ、と言った。花岡さんが自分で決めるしかない、とも。

天使だって、当たり前だけど未来は予測できない。

「でも悲しい顔は花子ちゃんには似合わないよ。団蔵も心配するから、考えすぎないで。僕は君がどっちの結論を出しても受け入れるからさ。」

ね、と最後に笑って夢前くんは自分の席に帰っていった。
夢前くん、気がついてなかったみたいだけど、今私の名前はじめて呼んだね。

「花子!自販行こ自販!」

そこへタイミング良く団蔵が走ってきた。息を切らせながら。

「喉乾いちゃってさ。もうカラカラ。」
「今走らなければもうちょっと潤ってたんじゃない?」
「それだけ俺が水分を欲してるんだよ。さ、行こ行こ!」

しょうがないなあ、と席を立って教室を出ようとした時に夢前くんと目があった。彼は、微笑を浮かべていた。私はちょっとだけ頷いてみせる。

本当は私のなかで、夢前くんに聞く前から結論なんてもう出ていたのかもしれない。


「はーやーくー!花子!はーやーくー!」
「子供かっ!」




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