小説 | ナノ

「あースマブラやりてえ。」
「最近やってないね。」
「前はよく3人とかでウチでやったのにな。虎若も最近部活が忙しいらしい。」
「そっか。虎ちゃん大変だ。」
「…俺んち今日親いねーし、ウチ来て2人でやる?」
「うん、いいねそーしよ。今日は団蔵のネスに負けないよ!」
「来んのかよ…」
「え?だって団蔵が来るか聞いたんじゃん。」
「そーだけど。…でもお前と俺で2人っきりだろ、ずっと。」
「今更何言ってんのさ。そんなん全く意識してないし。」
「…」

その会話から。
なんとなく、団蔵がおかしい。あんまりしゃべらないし。団蔵の家に行く途中もいつもより会話が弾まなかった。
困ったなあどうしよう。なんかいつもと違う。
スマブラやり始めれば大丈夫だと思うけれど。
モヤモヤしたまま団蔵の家を目指す。

家に着いて団蔵が鍵を開けると、ドアノブが回らなかった。
「あれ?」と言いながらもう一度開ける。どうも鍵がかかっていなかったらしい。
首をかしげた団蔵は急に何かに気がついて「まさか、」と言った。
そのまま走って自分の部屋に団蔵が走り出す。私も慌てて靴を脱いで、追いかけた。

団蔵の部屋に近づくにつれ、ゴオ、と音が聞こえる。なんだろう。

「伊助!!」

団蔵はそう言って、自分の部屋のドアを勢い良く開けた。

「あ、団蔵。おかえり。」

その部屋の中から、全身ジャージでマスクに三角巾をした男の子が掃除機を鳴らしながらひょっこり顔を見せる。か、家政婦さんかしら。

「また勝手に入って俺の部屋掃除してんのかよ。」
「ちょっとちょっと。感謝して欲しいよ僕は。こんっなに汚い部屋をタダで掃除してあげてるんだから。」

ホコリが舞ったその部屋は空いたペットボトルとか靴下とか様々なものが散乱しているのが見える。うげげ。

「俺はこれから花子とスマブラやるんだよ。」
「え?花子、ちゃん?」

お掃除少年はそこでやっとマスクを取ってこちらを向いた。
その顔に見覚えはない。

「えっとすみません、会ったことありましたっけ。」
「あ、いや…団蔵から話だけ聞いてたんだ。いきなりごめんね。僕は、伊助。団蔵んちの隣に住んでるんだ。」
「もしかして、団蔵の昔っからの友達ですか。」
「…うん、そうだね。」
「やっぱり。」
「そっか、花子ちゃんが来たんだったらさっさと掃除して退散するよ。」
「…サンキュ伊助。」
「私も手伝うよ!」
「えーやめとけよ花子。俺も掃除しなきゃいけなくなるし。」
「団蔵が一番やらなきゃダメじゃん。」
「めんどくさい。」
「花子ちゃん、団蔵は昔っから片付けるのが苦手だからしょうがないよ。」

伊助くんの発した「昔っから」の言葉がなんとなく引っかかった。
彼らの言う昔っていうのは、いったいどのくらい前なのだろう。
いっつも団蔵とか団蔵の友達は昔なんて言うけど、私はその言葉にどうしても違和感を感じずにはいられない。
だって私たちは高校生で、まだそんな昔だなんて呼べる過去はちょっとしか持っていないじゃない。
それなのに皆、昔昔って。なに、そんなに昔がいいの。私はわからないのに。
いいじゃない、今で。だって今の私たちはたった今、生きてるんだよ。




「よっしゃ!大分きれいになったな。伊助ありがと!」
「たまには自分で掃除してよね。」
「へいへい。花子、スマブラやるぞ!」

団蔵はさっきの気まずさなんて忘れたみたいに私に言った。

「あ、団蔵、ごめん。やっぱり今日は帰る。掃除したら疲れちゃった。」

つい嘘をついた。
ほんとう、身勝手だと思ったが今日はもう、団蔵といたくなかった。
ひどく子供っぽい感情が体の中で渦を巻く。


「…そっか。わかったよ。送ってく。」
「いいよ、寄り道していきたいし。じゃあね。」

それだけ言って、私は逃げるように団蔵の部屋を出た。
なんだろう。最近なんかおかしい。ずっと得体のしれない不安感がつきまとっている。
私は訳も分からず、ひたすら走って帰った。




←TOP

×