小説 | ナノ

ずらりと並ぶ名前たち。その列の下半分の、だいたいちょうど真ん中くらいに私の名前はあった。

「やった、団蔵に勝った!」
「うわ、負けた…」
「アイス奢りね。」
「めっちゃ悔しい…」
「ハーゲンダッツね。」
「チッ。」
「ドルチェシリーズね。」
「ホント容赦ねえな。遠慮って言葉知ってるか。」
「もちろん。」

ふふん。5点差だって勝ちは勝ちだ。
私は先日行なった数学のテストの順位結果表の前でもう一度自分と団蔵の点数を比べる。私の名前は団蔵よりも確かに上にある。やった。
この間は負けたんだよなあ、僅差で。これで7勝5敗。よしよしリード広げたぞ。
ニンマリ顔でそのまま視線を上に上げていくと、同じテストとは思えない点数の方々が並んでいた。

「うわ、一位満点だよ。これどういうこと。同じ人間かな。」
「そいつ、俺の友達だよ。」
「えっ!?団蔵どうやって友達になったの?」
「おい。」
「ふーん。黒木、しょうざえもん、くん。」
「何かな?」

何気なく読み上げたその名前に反応した声があった。
驚いて振り返ると、まん丸の目に凛々しい眉の真面目そうな男の子が立っていた。

「よっ庄左ヱ門。」
「ああ、団蔵…と、花子さ、じゃない花岡さん。」

わざわざ苗字に言い換えて、いかにも頭の良さそうな風情の黒木くんは私のことを呼んだ。あれ、また私の名前知られている。なんでだろう。
本当にもしかしたら団蔵の言うとおり私は声が大きいことで有名なのかもしれない。そうだとしたらとんでもなく恥ずかしい。気をつけよう。

「いいよ、花子で。黒木くん、頭良いね。すごい。」
「いや、凄くなんてないよ。」
「すごいよ。私なんて勉強してもちんぷんかんぷんだもの。」
「はは。…花子さん、もし分からないところあるんだったら、僕が教えようか。」
「え、本当?」

ただの友達の友達の私にそんな申し出をしてくれるなんて。
頭が良い上に良い人だなんて間完璧じゃないですか黒木くん。なんで団蔵と友達なんだろうホント。

「でも、私でもわかるかなあ。」
「大丈夫だよ。花岡さんはやれば出来る人だから。絶対、理解できるから。」

黒木くんは「絶対」を強調させて言った。絶対だなんて、そこまで言ってくれなくてもいいのに。それにやれば出来るだなんて…まるで前に教えて理解させたことがあるみたいだ。

「…ありがとう、また今度よろしくね。」

私はそう言って会話を終わらせる。
また、なんてズルい言葉。本当は教えて欲しいところ、たくさんあるけれど。なんとなく言い出せなくて私は誤魔化して笑った。
黒木くんもそれ以上私に何も言わず、笑ってくれていた。
団蔵だけがじっとこちらを見ていた気がしたけれどそちらを向くのも怖くて、気がついていないふりをした。




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