小説 | ナノ

女の子というのは、とてつもなく奇妙な存在だと思う。
物静かに泣けば優しい言葉をかけてもらえたりするし、例えば今日みたいな良く晴れた日に散歩をして雑草の花なんかに見とれたりして、きれいねなんて言おうものならその姿がよりいっそう可憐に写ったりするのだ。
僕が泣いたって男がすぐに泣くなと怒鳴られるに決まっているし、花がきれいなんて言葉を口にしてもそれがどうした、と一蹴されておしまいだろう。
自分の感情をそのままに表現できる女の子という生き物は、まるで僕らとは別の存在であるかのように思う。

こう言ってしまうと女の子という存在が羨ましくてしょうがないみたいだが、僕はそういうことが言いたいのではなくて、つまり、なんというか。
僕と違う生き物の女の子、ここで言う僕の女の子は花子だけなのだけれど、その花子が僕に花がきれいだとか若と居ると嬉しいとか寂しいからできるだけ帰ってきてとか素直に言ってくることが嬉しくてまぶしくてしょうがないというわけだ。
で僕はそんな花子にああ、うんみたいな曖昧でよくわからないような返事しか返せないわけでそれがまたもどかしいのだけれど、やっぱり僕も男であるわけだし花子は女の子のとっても似合う女の子であるわけだから、こういった関係になるのはある意味仕方のないことなんじゃないかと割りきっているわけだ。
だから、つまりまあ僕は今の関係にそれなりに一応満足していて花子とこのまま、決してへんな意味ではなく男と女の関係を続けていけたらいいなあと考えているわけなのだ。





「若、ねえ、もっとお話聞かせてよ。」

花子の言葉で僕はいきなり現実に戻される。

「ああ、ごめんね花子。ぼうっとしてた。」
「いーよ、ねえ、それでその、喜三太くんはナメクジ集めてどうするの?」
「壺にいれて、飼ってるんだよ。」
「へええ!」

けらけら、花子はおかしそうに笑う。

長期休みになって、僕は実家に帰ってきていた。
今は鍛錬の休憩中で、久しぶりに会った花子と話をしているところだ。

「ねえねえ、若。昨日雨が降ったから、きっとナメクジさんがいるよ。探しに行こう?」
「うん。いいよ。」

やった、と花子が無邪気に声をあげてととたとたと走り出す。



「花子。若に、ご無礼のないように。」

花子をとがめる声が聞こえ、花子はちらりとそちらを見て「はあい、」と口だけのいい返事をする。

花子のお母上はいつも、僕と花子が遊ぶ前に心配する。そしてきっちりと僕に頭を下げるのだ。
その毎回の行為が花子と僕の距離みたいで僕は嫌いだ。幸い花子はそんなこと全然気にしていないみたいだが。

父上は僕と花子が遊ぶのは大歓迎といった様子だし、僕は将来花子と一緒になりたいと密かに思っている。きっと、花子も嬉しくてしかたないといった風に賛同してくれるにちがいない。
きっと僕らはうまいいく。

だから僕の問題はそこじゃない。


「なかなか、いないもんだねえ、ナメクジさん。」
「そんなに見たいの?花子は気持ち悪いものは嫌いじゃないの?」
「きらい。だけど、私がナメクジさんを嫌いなぶん、ナメクジさんもきっと私が嫌いになっちゃうと思うんだよね。だから、今みたいなナメクジさんのお話が出たときくらいはナメクジさんを好きに…なる努力をしようと思うの。」

でも思い立ったときに限って巡り会わなかったりするんだよねぇ、とくすくす。おかしくてたまらない様子で花子は笑う。

そんな花子が隣に居ることが嬉しくて嬉しくてたまらない。
僕はきみが大切で仕方がないのだ。


僕の抱えるいちばんの問題っていうのはきっと、どうしたら君を失わないかということなんだろう。

これがまた、とても難解だ。


照星さんのような火縄銃の名手になったとしても、君を守れると約束できるわけではないのだろうし。実際僕はその問いの答えを出す見通しをつけられないでいる。



「ねえ若、見て。昨日の雨の滴がきらきら光って、とっても綺麗だよ。」
「ああ、本当だね。…綺麗だ。」


それでも僕は、こんな風に花子が僕の隣で女の子で居てくれるために。
佐武の長男として、絶対に君を守ってみせるから。

だから、僕が答えを見つけるその時がきたら花子、僕についてきてほしい。


それをきみにまだ、伝えられないがもどかしいのだけど。
でも必ず見つけてみせるよ。きっと待っていて。


君を守るための、何か
title by DLR


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