小説 | ナノ

タケノコご飯、タケノコ汁を作っても多すぎるくらいのタケノコを採った。
いくらなんでも多すぎる。
だから団蔵に採りすぎだっていったのに。団蔵がいいからいいから、とかなんとか言って採り続けた結果がこれだ。

「よし、沢山あることだし。花子、きり丸にあげにいこうか。」

にこにこしながら当然みたいに団蔵が言った。

「きり丸くん…って、隣のクラスの子だよね。私話したことないんだけれど。」
「さ!行くぞ!」
「聞けって。」

私の手を引きずって、団蔵はぐいぐい歩きだした。これ、私が付いていく必要はありますか?



インターホンで呼び出して出てきたきり丸くんは、なんだかおかしかった。
団蔵がタケノコを渡すと、少し複雑そうな顔をして団蔵を見て、私を見た。完全に傍観者だった私は少し焦る。
噂通りの、美少年だ。団蔵ならともかく、こんな美少年に見られたらなんだかすごく恥ずかしい。

「…きり丸、この子は花子。」
「はじめまして。きり丸くん。」
「あ、…ああ、うん。はじめまして。」

そこで彼は私に綺麗な顔でにっと笑ってくれた。その笑顔を見てほっとする。

「しっかし、大量に持ってきたなぁ。」
「団蔵がきり丸くんにタケノコあげるってきかなくてさ。」
「…そっか。嬉しいよ。」

話してみるときり丸くんはとてもいい人だった。初対面の私でも会話に困ることなく話ができた。
団蔵とはなんか昔っから仲がいいみたいだ。二人の間の空気には遠慮が全くない。
でも団蔵は私ときり丸くんの会話には何故か混じらず、終始にこにこして聞き役に徹していた。なんだい、自分から行くって言っておいて。





きり丸くんとバイバイしたあと、私たちはゆるゆると歩きだした。
じゃあな、と言ったきり丸くんの顔は眩しかった。モテそうだなあ、きり丸くん。団蔵が同じことやったらネタになっちゃうもんなあ。

大量に抱えていたタケノコがなくなったお陰で、ずいぶん軽くなった両手。
その指同士を重ね合わせて交差させる。

「団蔵、ほら、」
「なにこれ。」
「タケノコ。」
「花子の創造力の乏しさに泣けてくるよ…」
「な…団蔵にバカにされるなんて!」

このバカとう。口を慎めっ。
しかし、団蔵のお陰で私はタケノコを食べることができて美少年と友達になれたのだから。まあ今日のところは許してやろう。うんうん偉いぞ私。

「ま、きり丸くんに免じて許すよ。」
「おお、キャンキャンいつもなら騒ぐのに。どういう風の吹き回しだよ。」
「団蔵は私にとって大事な人脈繋ぎだからね。感謝してるよ。どんどん、友達の輪が広がる広がる。」
「俺は顔が広いからな。」
「あんま調子乗んないでね。」


いつもみたいに言い合って、それぞれの家への分かれ道で私たちは別れた。

明日も明後日も、こんな日常であるわけがないけれど。私は不変を願う。
この帰り道でさえ、ずっと家に到着しないで続けばいい。
そう思ったいつもよりもゆっくりの帰り道。




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