小説 | ナノ

「花子、タケノコ好きか。」

朝のホームルームが始まる5分前。鞄の整理をしていたら団蔵に突然声をかけられた。おいおい、おはようの挨拶が抜けてるよ団蔵くん。

「おはよう。好きか嫌いかで言えば…好きだけど。何、急に。」
「よし、じゃあタケノコ狩りにいこう!俺んちの近くにな、大量に生えてんだよ。」
「は、え?ちょっと、いつもながら唐突すぎ…!」

団蔵はじゃあ土曜よろしく!と言い残し自分の席に走り去っていった。
いやいや土曜よろしく、じゃないし。勝手に決めないでよ。女の子の休みの日っていったら、だいたい予定で埋まっているもんなのよ。…まあ、土曜はたまたま、空いているけど。むしろ言ってしまえば日曜も暇だけど。あれ…私女の子…?
とりあえず!予定がもしあったら行けないのに勝手に決めるのはどうかって話で!別に私が暇だってのは関係ない!
ほんと、団蔵はしょうがないやつだ。女心が全くわからないやつの代表とも言える。この間なんて団蔵のところを好いてくれている貴重な貴重な隣のクラスの女の子がくれた手作りのお菓子を人にあげやがったし。
本当、お前は何様なのだと言いたい。いや実際に言った。そうしたら団蔵は俺の勝手だろ、なんて言った。なんともけしからんやつだ。
それでもこんなぶつくさと文句を言いつつ私が団蔵とつるんでいるのは、団蔵がいいやつだとわかっているからで。
結局私はそんな団蔵の提案につきあうのだ。
私は鞄からスケジュール帳を取り出して、今週の土曜日の欄にタケノコの絵を描いた。




タケノコ狩りなんて17年間一度もしたことはない。どうせ狩るなら果物が良いと言ってみると、団蔵がそれじゃあダメなんだと言った。そうかそうか。そんなに団蔵はタケノコが好きだったのか知らなかった。これでまたひとつ要らない情報を知ってしまった。
そして今、私と団蔵のふたりは黙々とタケノコ生息地をめざして歩いている。

「そんな服着て、汚れるぞ。」
「いーの。洗うし。」
「花子は絶対に転ぶんだからジャージ着てこなきゃダメなのに。」
「なんで転ぶ前提なのよ…って、わっ!」

団蔵に言い返そうとして振り返った際、踏み出した足がつるりと滑った。あ、転ぶ。
そう思って、次に来る痛みに耐えようとぎゅっと目を閉じる。
しかし私が感じたのは硬い地面との衝撃ではなく柔らかな暖かさだった。

「…っおまえさ、言ってるそばから転ぶなよ。焦るだろ。」

すぐ耳元で聞こえた声に驚いて目を開ければ団蔵の肩に私は寄りかかっていた。

「うわぁっ!ごめん!」

飛び退いた私にいつもみたいに歯を見せて団蔵が笑う。全然いいけど、なんて言いながら。
私は団蔵の言う通り転んでしまった自分がひどく情けなくて恥ずかしくて何も言えず歩き出す。
しかし、なんでこいつの言うことは当たるのだろう。私の行動がわかりきってるみたいなことを、よく団蔵は言う。私はそんなにわかりやすい人間だろうか。

「ねえ、なんで団蔵は私の行動が読めるのよ。」
「凄いだろ、俺エスパーなんだよ。」
「やだなぁ冗談は顔だけにしてよ。」
「ちょ…さすがに傷つく。…まあ、いいじゃんそんなこと。」

まあ確かに。別にそこまで追及することでもないかなと感じて私はうん、と言っておいた。

「よし!タケノコ!掘るぞ!」
「よっしゃー!」

目の前に見えたタケノコたちに向かって私たちは走り出す。今日の夕御飯はタケノコご飯かタケノコ汁だ!



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