前方に、久しぶりに見る、そして待ち望んだ恋人の姿が見えた。
わたしは、嬉しくて駆け出す。
左近も、走ってくるわたしに気がついて、ゆっくりとした動作で腰を上げた。
「花子。」
ああ、左近の声だ。やっと会えた。
すぐに言葉を返そうにも、ようやく左近の元にたどり着いたわたしの口は酸素ばかり求めて愛しの恋人への言葉を繋げられないでいる。
「さ、こんっ、…はぁ、…さしっぶり!」
「落ち着けって。何やってんだよ。まだ時間にはだいぶ早いんだから、そんな急がなくてもよかったのに。」
久しぶりに見る左近の眉間のしわと、左近の優しいけど、ぶっきらぼうな言葉。
わたしは息を整えながら幸せをじんわり感じる。
「だって、早く左近に会いたかったんだもの。」
そのままわたしの気持ちを言うと、左近は顔を赤くさせて、「あ、アホかっ」なんて言った。
もう、久しぶりに会ったときくらい俺もだよって言ってくれてもいいじゃない。
それでもわたしの顔は緩みっぱなしだ。
「好きだよ!左近!」
「うわっ!」
わたしがガバりと左近の細い腰に抱きつくと、左近は大慌てでわたしを離そうとする。
「ばっ!、花子、やめろ!」
「えー」
「人が来るだろっ!」
あまりにも左近がぐいぐいわたしを剥がそうとするので、わたしはしぶしぶ左近を解放する。
「ひどいなあ。恋人とのスキンシップを拒否するなんて。そんなに嫌いかい。」
ぶうぶう口を尖らせてわたしは先に歩き出す。
いいけどね、いいけどね。
左近はツンデレだって。わかってるから。
でも久しぶりだったからさ。つい抱きついちゃったのよ。
じゃあ左近の部屋まで、がまんすることにしよう。
「き、嫌いなわけないだろ!」
「へ?」
振り返ると相変わらず顔は真っ赤なままの左近。
あれ、いつもの左近ちゃんならさっきのわたしの発言なんて、すぐに流してしまいそうな気がするけど。
「嫌いな奴だったら、僕は約束の半刻も前に来たりしない!」
ぽかん、とわたしは口をあける。
「え、左近、半刻も前からここにいたの?」
「あ、ままあ、いたけど…!でも、他に用事もあって早く家出たんだ!それが早く終わっただけだから!」
目を合わせずに慌てて言う左近。
なに、これ不意打ち。
わたしも顔が真っ赤になる。
「ありがと、嬉しい。」
そっぽを向いた彼の頬はまだ赤い。
「手繋いでいい…?」
「…勝手にしろ。」
手だって、外じゃめったに繋いでくれないのに。
わたしの表情はでろでろにだらしなく緩む。
「…すげー顔してるぞ。」
「いつもよりも、左近がデレてくれるから。ついね。」
「久しぶりに会ったんだ。…僕だって、そんな気分の時もある。」
聞き取れないほどの小さな声で言われた言葉。
わたしは完全に照れてしまって、言葉を失った。
「お前…なんか言えよ!余計に恥ずかしいだろ…!」
「照れすぎて、無理っ!」
顔の火照りが全く収まらないままに、
わたしたちは学園の門を仲良くくぐった。
今学期もよろしくね左近。
「新学期早々なにしてんだよ、茹でダコ夫婦。」
「別に、き気まぐれだよ。」
「三郎次!ワカメよりはタコのほうが高等なんだから!だまらっしゃい!」
久しさから享受
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