※成長6年
今朝は、かなり冷え込む、と思ったら、霜が降りていた。
冬の朝は寒い。日差しは強いのに、頬を掠める風は氷のようだ。
ほう、と息を吐くと当然の如く視界が白く濁された。
陽は昇りきって、世界を、地面を照らす。
白い世界の中で光り輝く。それ は、まるで、
まるで―――――
* * * * * *
「星だよ、花子。」
「何言ってんの。」
私は確かに、笹山に星が見たいなあと言った。
だって、星は暗闇にひっそりと現れる宝石みたいだから。
それを聞いた笹山が一緒に星を見ようと言ったから、二つ返事で了承したのだ。
そして今、すっかり夜が明けてしまっている景色を前に、笹山は星だ、と言い切る。
「花子には見えないの?この輝き。」
「笹山くんの目が超人的に良いんじゃないかな。」
「どこ見てんのさ。こっちだよ。」
空を仰いでいた私は、眉をひそめて笹山の指の先を辿る。
「地面?」
「綺麗だろ?」
そこに広がっているのは、朝の光をいっぱいに浴びて輝く霜だった。
「きれい…」
思わず感嘆の声をあげると、笹山は満足そうに口角を上げた。
ほらね?とでも言うように。
でも、星じゃないよ、と言いたかったがやめておいた。
そんなこと言うのも野暮であるし、星が暗闇の中だけのものだと決めるのはおかしいと思ったのだ。
「毎年、一緒に星を見よう。」
笹山の呟きに、いいねと頷く。どっちの?なんて聞く必要もない。
そして、確かにその約束は5年間果たされた。
* * * * * *
昔を思い出しているうちに陽は、少し強くなった。
星は輝きを増す。寿命を削りながら。
「花子」
突然呼ばれた名前に驚いて振り向く。
「兵太夫、」
あの頃よりも随分大人びた彼があの頃と変わらない笑顔で立っていた。
「今年も、一緒に見れたね。兵太夫。」
「うん。花子、…まだまだ、一緒に見ようね。」
「うん、」
冬の朝に瞬く霜は
確かに星であった。
その瞬間を、歳月を、あなたと一緒に。
星霜
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