「まだ、熱高いね。ゆっくり休むんだよ。」
「はい…ありがとうございます。伊作先輩。」
風邪をひいた。始めの頃は心配してくれた三郎次達も、頻繁に僕が風邪をひくものだから今じゃ「またか」と言う始末。僕だって好きで風邪をひいてるわけではない。風邪が僕を選んでいるのだからしょうがないじゃないか。
伊作先輩に愚痴ると、「体質だからねぇ。」と眉を下げて言われる。はあ。不運体質に病弱だなんて自分でも呆れてしまう。
「おや?」
伊作先輩のその言葉に、どうしたんですかと返そうとした時、ドタドタと足音が聞こえるのがわかった。その足音は保健室の前で止まった。
ずず、と効果音がつきそうなほどゆっくり開いた扉から現れたのは―
「左近ー!」
大きな声が頭に響く。
「花子か…」
うんざり顔の僕を気にも留めず、にこにこ笑う花子だった。
「やあ、花子ちゃん。また来てくれたんだね。」
「はい!左近がまた風邪になったと聞いて、いてもたってもいられず。」
「お前、どうでもいいけどもっと声のトーン落とせよ。頭痛い。」
「はっごめんね!左近!頭?頭痛いの?大丈夫??」
「だから!もっと優しくしゃべれって!」
まずい、自分で大きな声を出したら余計に頭が痛くなった。「左近静かにしなきゃ」って。お前のせいだ馬鹿。
「あれ、花子ちゃんそのお鍋は?」
「あ、コレですか?実は、左近のためにお粥を作ってきたのです!!」
「そうなんだ!ありがとう。良かったね左近。」
お、コイツ、お粥作ってくれるなんてなかなか可愛いところがあるな…って、何言ってんだ僕は。別に、女の子らしさを感じたとか、キュンとしたなんてことない!だいたい、お粥なんて誰でも作れるし、僕だって得意だし。でも、わざわざ僕のためにってことは…って!いけないいけない。ちょっと熱に浮かされているな。
「左近、熱酷いんだね。顔真っ赤。」
「お、おお。」
「はい、食べさせてあげる。あーん。」
「ばっ!!自分で食べる!」
そう言って花子から鍋をひったくる。
伊作先輩が照れてるんだよ、と言っているが、断じて照れてなんてない!惜しかったなんて思ってない!
そのままお粥を一口すする。
…
…
「花子、」
「なに?どう?おいしい?」
「お前、これどうやって作ったんだよ!これお粥じゃねえだろーが!!」
「どうって、余ったご飯にお湯入れた。」
「それじゃお湯と米だろーが!!!いいか、お粥ってのはだな、病人が食べるのだから、気管に入らないようにどろどろになるまで煮込まなきゃ駄目だ!それにどうせなら生米から煮てゴホゴホゴホッ!!!」
「ああ!左近!興奮しないで!悪化する!悪化!」
誰のせいだ!誰の!!
「左近よく知ってるね。お粥得意なんだね。」
「そうだね。左近のお粥は美味しいよ。」
伊作先輩がそう言うと、花子は目を輝かす。
「左近!私のお嫁になって!」
「はっ!?ばばば馬鹿、よ嫁なんて、お前何言ってんだっ……て、何、僕が、嫁?」
「うん。」
「普通逆だろ!逆!!って、違うぞ!別に僕はお前に嫁に来てほしいとかじゃ…ってうわぁああ!!」
わけもわからず頭を抱える。おかしい。おかしい。風邪のせいだ風邪の。
僕が慌てている間に花子はすっと立ち上がった。
「ごめんね、左近。じゃあ、とりあえずこれ作り直してくる…」
「待て!くく、食うよ。も、もったいないし。腹減ってたし!お粥くらい、覚えろよなっゲホ!」
そう言うと、あいつは嬉しそうに笑う。
「うん!次はがんばるね。」
「左近、何も腹に入れたくないんじゃなかったの?」
花子が帰ったあと、伊作先輩が聞いてきた。
「…気が変わったんです。」
「そっか。熱悪化していない?大丈夫?」
「大丈夫です!」
「そっか。」
ああもう、さっきより熱い体も、伊作先輩の意味ありげな笑顔も、みんなみんな花子のせいだ!
お嫁にください
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