小説 | ナノ

「えっそば買うの?三郎次そばとか好きだっけ?」
「年越しには年越しそば食うもんだろ。」
「ふーん三郎次が慣習に沿うなんて意外。じゃカップそばでいい?」
「えー茹でてくんねーの?」
「じゃこの乾麺そばね。」
「あっ待ってこれ旨そう。やっぱこれがいい。」
「それわたしにはカップラーメンに見えるんだけど気のせい?」
「麺ならなんでもいいわ。」
「もうやだこの人言ってることメチャクチャ。」
「俺このあごだし麺にする。お前は?」
「んー...塩とんこつかな。」
「だと思った。お前とんこつ好きそうな顔だもんな〜」
「一言多いワカメは魚と煮込まれてろ。」
「うわっひでえ彼氏に向かって。」

なんかブツブツ聞こえるけど、毎度ひとことふたこと多い三郎次に酷いとか言われたくない。それに三郎次に好きだよ、とか一緒にいると安心する、とか本音そのまま並べたら「お前大丈夫か?」か「何言ってんだよ。」とかまたそっけないこと言って流すくせに。

こーやってわたしも意地になって何も言えてないけどさ。実家に帰らないわたしを気遣って、こうして隣に居てくれていることは本当に嬉しいと思ってるんだよ。今目の前で鏡餅を掴んで
「この餅も買おうぜ、鏡餅!」と犬みたいにはしゃいでいるのを見るのも楽しくて仕方がないよ。
意地にまみれた言葉を介さず、この気持ちだけ三郎次に伝えられたらいいのにな。

「鏡餅ってわたし食べたことないんだけど、どうやって料理するの?」
「さあ、煮るんじゃね?」
「オッケーグーグル〜餅料理して〜」
「お前グーグル先生に仕事させすぎだから。真面目にいうと裏に食べ方書いてあるけど。」
「うわ驚きのマジレス。」
「茶番乙。」
「三郎次おたくくさい!」
「どう見ても五十歩百歩だろ。ちなみにお前が百歩な。」

弄るときは良く回る口だ。得意げな三郎次の発言はとりあえず無視しておく。けれど代わりに人ごみの中でさり気なく三郎次の腕に手をひっかけてみる。

今日の朝年末デートしようぜって言われたときは、この時期何の計画もなしに出かけられる場所はほぼないでしょって、思ってた。
結果としてオシャレさの欠片もない近所のスーパーに、防寒バッチリの格好でいるわけだけれど。でも口を尖らせながら買物カゴと荷物を持つ三郎次が見れて、つまんないやりとりをして触れ合うのがすごく嬉しくて。なんていうか、色々とひねくれていたわたしが恥ずかしく思えてきたよ。

「カップ麺にー餅にーお菓子に、アイス...待って買物カゴが残念すぎる。年始まで本当にこれで暮らせるかな?」
「足りなかったら一年のはじまりの景気付けにステーキ食いに行こうぜ。」
「たぶん店開いてないよ。」
「そうか?」
「みんな三郎次じゃないんだから。」

三郎次が口をまた尖らせて、「なんか今日俺に冷たくね?」と言っている。そうそう、わたし今日は特に行動と想いがちぐはぐで、矛盾ばっかりみたい。自覚してるけど、もう少しだけきびしくしていようかなって考えてる、ごめんね。そのぶん家に帰ったらストーブをつけて年末番組をつけて、とがったその唇にキスをして、「大好きだよありがとう。」って言うからね。

スーパーマーケットロマンス

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