小説 | ナノ

「花子さん?ああ、地元一緒なんだよ。だから学校が一緒で知ってるんだ。同じクラスは…なったことないけど。」
「地元…」
「そ。それだけで、正直話したこともほとんどないな。顔と名前くらいはわかるけど、そんなところ。安心した?ほら、わかったなら手消毒しなよ。傷は放っておいちゃいけないんだろ?」

藤内が僕の肩を叩いて笑う。藤内にしてはすこし意地悪さを含んだような、親しみのこもった笑い方だった。ぼんやりしていると腕を引かれ、されるがままに僕の手には絆創膏が貼られた。

「でもまさか、花岡さんが数馬の彼女だとはね。よく言うけどほんっと世間って狭いなー」
「ほんとにね。お陰で無駄に不安になっちゃったよ。」

僕の冗談ぽい本音を聞き、藤内がほっとしたように笑ってみせた。

「安心しろって。俺なんかほとんど接点ないんだ。まあでも、中学の頃は結構花岡さん人気あったかな。気さくでかわいかったし。だからちゃんと離れないように繋いどけよ数馬ー」
「うん。頑張るよ。」

ホールでこちらを呼ぶ声が聞こえた。藤内が緩んでいた顔をすぐに引き締めて、早歩きでテーブルへ向かう。僕はまだ切り替わらない心を連れて、さっきまで藤内のいた空間をぼんやりと見つめた。




←TOP

×