僕が思う僕とは、
不運で、卑屈で、他人の粗を探しては安堵する、臆病者だ。
「紅茶も、ケーキ美味しかったし、いい雰囲気だね、数馬くんのおみせ」
三日ぶりの彼女の笑顔はいつも通りきらきら光っていた。何も変わっちゃいない。そりゃそうだ。僕たちは仲良くやっているし、ここには何も起こってなんかいないんだ。
「どうしたの?」
「え?べつに?」
それならば聞いてしまえばいい。花子ちゃん、藤内のこと知ってたの?と。
それだけのことが聞けない。あんな彼女の表情を見てしまったから。だってあの表情は僕が一番よく知ってる顔だから。熱と羞恥が混じったあの、僕が花子ちゃんに向ける表情。だから僕には聞けない。知らないふりをする勇気さえない。全て不運な僕のせいにして、でも諦めてしまいたくなくて。
「また、店来てくれる?」
「もちろん!」
彼女の即答は、また僕を臆病にさせる。まぶたの裏で、ずうっとあの日の彼女の熱のこもった目がうごめいている。僕はぜんぶ濁すように曖昧に笑った。
「最近調子悪い?」
手を滑らせて割ったシンクのなかのグラスを片していると藤内がこちらをのぞきこんできた。じいっとあの黒目で見つめられて聞かれたもんだから、きまりが悪くてまた、ここのところ癖になっている濁し笑いをした。
「悪い、かも」
「彼女とケンカした?」
「…そういうんじゃないんだけど」
「ふうん、彼女、花岡さんだよね?」
「っ」
集めていたガラスの欠片で指を切った。不運だ。みんな僕の不運のせいなんだ。こんな風に嫌な考えばかり浮かぶのも、花子ちゃんを疑うのも。
「おい大丈夫か?」
肩を掴んで僕の顔を見た藤内が、ぎょっとしたようにたじろいだ。きっとそれだけ僕は酷い顔なのだろう。手がじくじく痛み出してきた。赤い血が、シンクのなかにポタリとたれた。顔はますます歪んで、鼻の奥まで鈍い刺激で痛みだす。
「藤内、花子ちゃんのことなんで知ってるの?」
藤内のまっすぐな目が、すこしだけ開いた。
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