小説 | ナノ

「あー、えーっと今日はいい天気だな花子。」
「久々知先輩、これはどこにしまいましょうか?」

にこにこと笑う花子が、俺の絞り出した雑談をガン無視して先輩の方へ歩いていく。久々知先輩は花子の質問に丁寧に答えつつ、俺に気遣わしげな視線をよこしている。一年は組の伊助は俺に憐み全開のまなざしを向けてくるし。

「あれ〜?三郎次くんと花子ちゃんケンカしたの?あれあれ三郎次くん無視されてるじゃん!あれ〜?どうしたのー?」

タカ丸さんは気遣う気もなく花子に質問してくるし。ホントこの人の空気の読めなさ、どうにかしてほしい。

「えー?いつも仲良くなんてないですよお〜気のせいです〜」
「へええそうだったんだね!めもめも!」

くっそ花子のやつこっちに聞こえる声で好き放題言いやがって…おいこら伊助、俺を見て顔を背けて笑うな。

「三郎次…」

そして久々知先輩、そんなかわいそうな目で俺を見ないでください。居辛い。
ちらっと花子に視線を向ければばっちり目があって、にっこりと微笑まれた。お、やっと機嫌直ったか?そう思っているうちに弧を描いていた唇が何か言葉を紡ぐ。こっち、みないで、…はあ!?勝手に煎餅食ったこと、まだ怒ってんのかよ。たかだか煎餅数枚の話だろ。そりゃ悪いとは思ってるけどさ。こっちが下手にでてんだからあんなあからさまな態度とんなよなーケッかわいくねー。
…とはいえ、このままなにもしないのはまずい。まあここは俺がひとつ大人になって歩み寄ってやろうじゃないか。

「なあ花子、ちょっと「あそーーだ伊助くん、これから暇?良かったらわたしとお煎餅買いにいかない?おごってあげる!どっかの誰かさんのせいでくのいちのみんなと食べるお煎餅がなくなっちゃって困ってるの。」
「ええ?いいんですかあ〜行きます行きます!ありがとうございます花子さんぐふぇ!」
「な、なにすんのよ三郎次!」
「腹立ったから突き飛ばした。」

はあ?ととんでもなく可愛くない顔をして俺を睨みつけてくる花子の態度がぐさぐさ俺に刺さるけど、そんな痛みは知らないフリだ。おうおう睨め睨め。俺はお前が知ってる通り身勝手なやつなんだからな。

「ほらよ!」
「なに。」
「煎餅だよ!」
「え?」
「返すつってんの!お前がうるせーから!」

むずむずする背中を仰け反らせながらずっと隠し持っていた包みをおしつけた。嫌そうな左近たちを引っ張ってあわてて買いに行った、食べたものと同じ煎餅。たかが煎餅にあんなに並んだのは初めてだ。ありがたく受けとれ。きょとんとした花子はがさりがさりと包みを揺らし、突然ころりと機嫌を直したように俺を見た。

「もしかして買ってきたてくれたの?」
「食い意地はってるやつの恨みは買いたくないしな」
「ふーん」

意味深に頷いた花子が、わざわざ俺の流した視線を拾いに顔を寄せてくる。さらにはきまりの悪さを見透かされたように鼻先まで顔を合わせ、にんまりと笑った。

「ありがとう三郎次くん!わざわざ悪かったですね!」
「そう思うなら煎餅ごときでいちいち騒ぐなよ」
「あれあれ〜今のは社交辞令ですよ三郎次くん。実際悪いのは誰ですか?」
「…」
「そんな不器用さが好きだけどねー」
「黙れ。」

うぜえ。毎度の如くペース乱されまくりなのにこの一言で安心して嬉しくなってる俺って。情けないような気もするけど、まあいいか、が本音なんだから。とりあえずは、現状維持できたことの安心感に浸ることにするのだ。

できごと

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