小説 | ナノ

きっと私は、生まれた星のしたがすこぶる悪かったのだ。これまではそこそこ一般人として生きられるレベルだったのに、もう持っていた運気を使い果たしてしまったのだろう。
ぐだぐだと垂れ流されている自慢話を聞くのは、慣れてなんてもちろんいなくて、やはりというか当然苦痛だった。だいたい私はこの目の前の男、平滝夜叉丸さんをほとんど知らない。知らなくて興味のないことは聞いていても退屈だ。だが私のやる気のない相槌を見ても彼は一向に話を途切れさせる気配を見せない。

「あの、用事があるのでもう行ってもいいですか?」
「む?大丈夫だ。私は心の広さも持ち合わせている。その用事とやらを待っていてやろうではないか!」
「え…結構です」
「遠慮するな!では行こう」

おおおおお最高にめんどくさい!この人会話通じないよどうしよう…!既にタカ丸さんとの約束の時間過ぎてるっていうのに変なのに捕まるなんてつくづくついてない。

「どこに行くのだ?」
「焔硝蔵ですけど」
「ほお!お前は火薬委員か!タカ丸さんと同じだな!」

そうですよ。あのまっくろくろすけな暗黒微笑をたずさえているタカ丸さんと同じ火薬委員会ですよ私は。だからはやく行きたいんですよ私は。…誰か助けてください。

またぐだぐだと話し続ける滝夜叉丸さんを引き連れ、やっとのこと目的地にたどり着いた時、私は戦慄した。

「ああタカ丸さんではないですか。」

石段にうなだれるように座り込んだ金髪の人は、滝夜叉丸さんの声にゆっくりと顔をあげた。そう、あの黒々とした笑みをはり付けて…ひ…いいいい。

「ああ、滝夜叉丸くん。どうしたの?こんなところで」
「いや、この子にですね、私の魅力をぜひ聞きたいと言われたもので。作業が終わるのを待っていてあげようと思ったんですよ」

顔面蒼白怖すぎて震える私はまるっと無視し、タカ丸さんの注意は滝夜叉丸さんにいったようだ。もう滝夜叉丸さんが言っていることは意味不明だがもうこの際どうだっていい。はやく消えるかタカ丸さんの機嫌を直してください。そう願っているとタカ丸さんがつまらなそうにこっちを見た。アもう私この先デッドエンドしか残されていないんじゃないかな…

「そういえば、滝夜叉丸くんと喋りたいって今日髪切ってあげた女の子たちも言っていたから、花子ちゃんなんかに構っているより色々な子に話しかけてあげたら?」
「本当ですか!タカ丸さん!でもこの滝夜叉丸、約束は守る男です。人気者は辛いですが、女の子たちとは明日話すとして、今日は彼女と語ると約束しましたから」

このときばかりはタカ丸さんにちょっと感謝した私は、妙な責任感を発揮した滝夜叉丸さんにおもわず舌打ちをしてしまいそうになった。

「そっかあ、でもね僕、花子ちゃんとはこの当番のあとも出掛ける約束をしているから。」
「エッ」
「あ、そうでしたか、それでは、また明日、」
「明日もあさってもその次も、花子ちゃんは僕との予定でいっぱいだよ〜ごめんね、滝夜叉丸くん!」
「エッエッ」

さすがの滝夜叉丸さんもタカ丸さんのキラッキラの他人用スマイルにタジタジだ。それにしてもタカ丸さんとの予定でいっぱいとか。ふふ、何言っちゃってるのかなタカ丸さん(震え声)。これは私をかばうための嘘だと思いたい。
タカ丸さんの黒さを感じとったのか、笑いながら滝夜叉丸さんはそそくさと去っていった。

「た、タカ丸さんありがとうございました!私実は滝夜叉丸さんが解放してくれなくて困り果てていたんです助かりました〜」
「花子ちゃん僕、僕の友達に近づかないでって言わなかった?」

タカ丸さんに近づいてへらへらと笑いながら感謝しておいたら、先ほどまでの優しさはスッパリ切り落とされた。容赦なく鋭い刃物を喉元に突きつけられた気分だ。はーい、いつものタカ丸さん、ようこそ〜

「いや、でもあれは仕方がないというか、滝夜叉丸さんが勝手に喋り出したことであって…」
「へえ言い訳かあ花子ちゃん、僕に言い訳するんだ〜」
「すべて私が悪いです。すみませんでした。」

ひどい。同じ人とは思えないこの滝夜叉丸さんとの対応の差。でもそれよりも正直だんだん対応に慣れつつある自分のほうが怖くなってきてるけど。すこし機嫌を直したタカ丸さんがにやりと笑った。ほら、また。こんな意地悪なタカ丸さんなんかの笑顔を見て、ほっとしてるなんて。私、一体どうしちゃったんだろう。




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