小説 | ナノ

「穴堀ですか。」
「穴堀です、花子さんは、」
「察しの通りいつもの鬼ごっこです。」
「仲がよろしいようで。」
「ええ残念ながら。そこであやべさん、」
「絶対いや。」
「まだ何も言ってません。」

それきり彼は私に興味をなくし、穴堀作業を再開してしまった。なんて薄情な。こないだ私たち友だちになったみたいな雰囲気だったじゃないですか。あれは嘘ですかそうですか。泣きたい。

「お願いしますよお、ちょっとだけかくまってください!」
「えーやだー」
「お願いです!」
「なんのお願い?」
「タカ丸さんに追われている私をどうかその穴にかくまってくれっていうわあああああ!」

いつの間に追いついたのだろう。笑顔のタカ丸さんが私の肩に手を置いていた。ガクガクと手足が震えだす。ちょうこわいです。だって目が笑っていないから。

「逃げることないのに〜」
「本能で危険を察知したもので…」
「しかも綾部くんに助けを求めるなんて迷惑きわまりないでしょう?今度花子ちゃんが綾部くんに近づいたら丸刈りだよ?」

うわあ冗談みたいなこと言ってるけど絶対本気のボイスだよ…ハサミかちかち鳴らしてるし…私はタカ丸さんのオトモダチにすら近づいてはいけないらしい。なんなんだよもう…この人…

「綾部くん、何かされなかった?」
「いえ特に。ほとんど喋っていないので。」

うん。私ね予想してました。その綾部さんの塩対応はわかってましたよ。だから辛くなんて、ちょこっとしか、ないです。てか何かされたかって、タカ丸さんは私を痴女かなにかだと思っているのだろうか、心外だ。


「さて花子ちゃん。今度の休日のことだけど。」

綾部さんと別れ、タカ丸さんに手首をつかまれたまま仕方なく私は歩きだす。休日のこと、と言われぎくりと冷や汗が垂れた。それこそ私がこんなにも必死になってタカ丸さんから逃げていた理由。忘れてるかと思いきやちゃんと蒸し返された。

「いいじゃん暇なんだから〜僕の荷物持ち兼暇潰し兼盾になってよ。」
「えっ最後の何ですか盾ってなんですかこわいんですけど。」
「盾も知らないの?身代わりっていうかね、」
「アッそういうボケいいです。いらないです。」

やっぱり、今回も結局承諾するしかないのだ。わたしは所詮タカ丸さまの奴隷であるのだから。深く考えてはだめだ深く考えると泣けてくる。こうしてわたしの貴重な貴重な休日が、またひとつ星になって消えるのだ。

後日、出先でほんとうに大量の荷物を私に持たせたタカ丸さんは、炎天下であっつい甘酒をごちそうしてくれました。




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