小説 | ナノ

僕が思うに、甘党の人間とは。
こちらが嫌になるほどに甘味を摂取する、砂糖中毒者である。
そんなことを彼女の手に握られた乳酸菌混じりの白濁液を見ながらぼんやりと思った。少しのタバコの匂いとほの暗さが、それを怪しく光らせている。午前中のカラオケボックスに足を踏み入れたのははじめてで、そこは夜よりはいくらか爽やかなようだった。とはいってもカラオケボックスには数えるほどしか来たことはないのだが。

「今更だけど、数馬くんドリンクバーでよかった?」

彼女はおもい出したように聞いてくる。僕は笑いながら頷き返した。その遅れた気遣いが可愛かったから、彼女が既にストローを啜っていることには何も言わないことにする。

硬めのソファにもたれたままウーロン茶に口をつけ、隣の横顔をのぞいた。彼女のまつげの上で、控えめに置かれたラメが光っている。その見慣れた俯いた表情にさえ胸が震えて、おもわず花子ちゃん、小さく声をかけると唸るような返事が返ってきた。彼女のほうはどうやら手にもったフードメニューに夢中らしい。


「お腹すいてるの?」
「うーん」

見慣れないベージュのスカートをはいている彼女の隣にするする近寄って、メニューを覗き込んだ。やはりデザートメニューだった。絶対そうだと思った。

「?また甘いもの食べるのかって?」
「うーん当たらずも遠からず」

そう言えば恨めしそうにじろりとにらむくせに、すぐに受話器を取ってパフェを頼みはじめるんだから参る。受話器をおいてイタズラっぽく振り向く花子ちゃんを咄嗟にぎゅうと腕にまるめこんだ。タバコの匂いなんてもう気にならなくて、ただだいすきな匂いがした。ふたりでじゃれてクスクスと笑った。



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