それはたぶん一瞬なんだ。一瞬に、僕の存在は消えてしまう。僕が今まで感じてきた感情だとか身につけた知識だとか、一年は組のみんなだとか、花子ちゃんとか僕の大事な人たちがみんな、僕と切り離される。駄目だろ、僕さ、死ぬのが怖いんだ。
一気に、それだけ言葉を吐き出して
金吾くんは口を結んだ。
なかなか寝つけず、思い立って庭に出てみたら真っ暗な木の下に誰かがうずくまっていた。よく見れば、それは金吾くんで。声をかけたのはいいが、どうもいつもと様子が違う。
話の中で、金吾くんが何を指して駄目と言っているのかはわからなかった。私だって、死ぬのは怖い。それは誰だってそうだ。
それでも、考えすぎだよ、と笑い飛ばすことができなかったのは、私と金吾くんが切り離されるという言葉に動揺してしまったからだろうか。
「花子ちゃんと、ずっと一緒にいたいよ。ずっと一緒だって、言いたいよ。」
悲しそうに顔を歪ませて、金吾くんが私を見る。
「うん、私もだよ。」
「…うん。」
金吾くんの左右の手がわたしの二つの手をぎゅっと掴んだ。
私が同意したところで、彼は決して安心していないだろう。力強くわたしの手を握る彼の手は、かすかに震えていた。
いいんだよ、金吾くん。
ずっと一緒だって、言っていいんだよ。
例えそれが、自己満足であっても。いつか突然別れが来ることが分かっていても。
それまでの時間を、あなたと共に過ごしたいと私は思うから。
そのときが来るまで、知らないふりをしてもいいよ。誰もそんなことは責めないよ。
「…ごめん、今日の僕、おかしいね。明日には戻っているから。」
そう言ってわたしの手をそっと離す彼が儚い存在に見えて、消えてしまうのではないかなんて縁起でもないことを考えてしまった。
去り際、花子ちゃん、いなくならないでね、とそっと呟いた彼に、うん、また明日、と返すわたし。
それは彼を安心させるための言葉か、それとも、金吾くんが消えることが怖くなった私の焦りの言葉か。
金吾くんがいなくなって、辺りが余計に静かになった気がした。暗闇の中で、建物は灯りひとつ漏れていない。いま、微かに地面を照らすのは空に瞬く無数の星と、雲に陰り出した細い月だけ。
私は空を仰いで、その微かな灯りを浴びる。
――どうか、
どうかこのやさしいひかりが、
真面目な彼の心を照らしますように。
奥まで染み込んで溶かしますように。
光を感じながら私はゆっくりと目を閉じて、金吾くんを想う。
それが君の答えと言うのならば
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