小説 | ナノ

やるよ、と差し出された缶はあったかい緑茶だった。

「え?」

反射的に受け取ってから、三郎次とお茶を二三度目で追って確認する。確認してもお茶はお茶だし三郎次は当たり前だが三郎次である。確かに今日は首もとが妙にさむくて、大げさに体を縮こまらせてはいたけども。これは、予想外すぎる。
戸惑う私に対し、口を不自然にひん曲げて三郎次が睨んできた。

「なんだよ。」
「こっちのセリフよ。何でくれるのコレ、なんか気持ち悪いんだけど。」
「うるせーな。黙ってもらっとけ。」
「えええ…だってさ、あの三郎次が人にモノをあげるなんて、しかもわたしのために暖かいお茶を?その時点でどう考えてもおかしいじゃん。」
「いらねーなら返せ。ひとがせっかく買ってやったのに。」
「そんなことは言ってませーん。貰ったものはもうわたしのもの〜です〜」

そう言って、プルタブに爪をかけた。そっと中身を口に含めば、温い苦みが広がる。ふいに横目で三郎次を見ると、何かいいたそうに口を開きかけて結局また黙った。…なに、気持ち悪っ。

「あのさ言いたいことあるなら早く言ってよ。私に何してほしいの?」
「は?言っとくけど別にそれ、賄賂とかじゃないからな。」
「違うの?えー…なんかますます気持ち悪いんだけど…」
「お前!ひとが心配してんのに…、」
「え?なにを?」

しまった、というようにきまりわるく苦い顔をして、三郎次がぶすっと下を向く。
心配?三郎次が私を心配、そんなのレアすぎて、…うんやっぱりどう考えても気持ち悪いな。

「いきなり髪の毛バッサリ切りやがって。」
「…あ、コレ?」

耳元の短い髪の毛をつまみ上げてみる。
胸元まであった髪の毛をバッサリと切ったのは昨日のこと。今は顔回りにまとわりつくものが何もないショートカットだ。風に吹かれるとひんやり寒くなる頭の感触にはまだ慣れない。
今さらなんなの。友だちはこの髪型に何かしら反応を見せてくれたけど、三郎次は特に何も言ってくれなかったじゃんか。

「…なんか、その、あったかなと思ってさ。…ま、まあお前は神経も体も太いし大丈夫だとは思ったけど、な!」
「喧嘩売ってんの?」

三郎次の照れ隠しと優しさがくすぐったいせいでついつい可愛くない言葉を口にしてしまう。
三郎次のあほ。誰のせいでこうしたかわかってんの?

「その…元気出せよ。」
「え?」
「そいつとは縁がなかったんだよ。お前、性格が問題アリだけど、でも、まあ、か、可愛くなくもないしな、ほら、もっとお前をわかってるやつだったらうまくいくんじゃないか?」
「あの、三郎次くんわたし別にフラれて髪切ったわけじゃないよ?」
「は?」
「ちょっと思うところあって?ノリで?的な?」

私の言葉を受けまばたきを繰り返した三郎次は、暫くすると突然私の持っていた緑茶をひったくりだした。

「あー私のお茶!」
「返せ!」
「なんで!?わたしのものなのに!あー!飲むな!」
「もとは俺の買った茶だ!あーそーだったそーだったお前はそんな話とは無縁のやつだった忘れてた。」
「最っ悪!ウザロウジ…!」
「なんか言ったか?」
「イラダウザロウジ…!」
「おまえ…!さらに付け加えんな…!」

ふん、と鼻を鳴らして三郎次から顔をそむける。
ほんっとなんにも知らないくせに好きなことばっかり言うんだから。

「ま…似合ってなくもない、か。」
「え?なんてった?」
「なんでもねーよ。」
「ね?似合ってるって、ほ、ほんと?」
「聞こえてんじゃねーか!なくもないって言ったろ!似合ってるだけ鵜呑みにすんな!」
「っな!!」


(三郎次がショートカット好きだって小耳に挟んだから切ったのに!ほんっと鈍感でひねくれててウザロウジ!)
(いきなり髪切って慌てさせんなよな、ったく寿命縮んだぞばか女。…かわいいなんて絶対言わねー!)

そうですやさしさです

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