小説 | ナノ

「それで、」

ソウコちゃんがラーメン(×4)のスープに浮くネギをレンゲで掬いながらそう言いかけて、私を見た。

「受け入れたってわけですね。」
「…まあ。」
「悩み事はなくなって素敵な彼氏もできて、良かったじゃないですか。わたしの言ったアドバイス通りでしたね!」
「ん…まあそういうことにしとくわ…」
「いいなあ、次屋先輩ってイケメンだし羨ましいです。流石センパイ!」

とうとうネギを掬い終わったのか、ソウコちゃんは丼を抱えてスープを飲み始めた。瞬く間に空の丼が重なっていく。最後の一滴まで飲み干して、満足そうに彼女は言った。

「あーおいしかった!じゃあセンパイ、次はパフェ食べに行きましょ!」
「…ずっと思ってたけど食べ過ぎだろ!」
「あ、突っ込まれた。」



* * *



「それで?」

チョコレートだらけの口元など全く意に介さず。左門は大きな目をぐぐっと開いて楽しそうに俺に問いかけてきた。身を乗り出している左門の横では、作兵衛が間抜けな顔で固まっている。

「おにぎりくって、花子の家から帰ってる途中で作兵衛に連行された。」
「ええ!?そこで家に上がりこまなかったのか?三之助が?」
「んーなんつーか本気な俺を見てほしかったっつーか…。で、まあそれから花子と付き合って今に至る感じか。」
「へええ、それが三之助の女タラシ卒業の真実かあ。意外とフツーなんだな!な。作兵衛!」

左門が楽しそうに作兵衛の背中をバシバシと叩く。そこでようやく我に返ったように作兵衛は顔を上げて俺を見た。

「おま、三之助、あんとき花岡さんと付き合ってるって俺に嘘ついただろ!」
「いや?俺は何も言ってないぜ。あの時は作兵衛が勝手に俺たちの仲を勘違いしたんだろ?」
「マジかよ…俺結構花岡さんのとこ本気だったのに…」
「ま、相手が悪かったってことで。」
「なあなあこれがサンカクカンケイってやつか!?がんばれ作兵衛!」
「頑張らねーよ!」

賑やかな部屋のなかに、その時ドアが開く音が小さく響いた。つぎにひょっこりと花子がドアの隙間から顔を出す。もう見慣れたしかめっ面で。

「ちょっと三之助、さっきからみんなになに話してんの。」
「俺と花子の感動的馴れ初め。」
「ば、バカなこと話してないで!それよりもお昼なに食べるか早く教えてって言ったでしょ、もう取り掛かりたいんだから!」

乱暴な調子でそう叫んで、あからさまに狼狽えて照れ隠しする花子がそっぽを向いた。そのすきに、両腕で花子をすっぽり包みこむ。じたばたあばれだす腕の中、そっと耳元にくちびるを近づけて囁く。

「お昼は花子がいいなあ。」

視界の端っこでは左門が間抜けにぽかんと口を開け、作兵衛が口をぱくぱくとさせ震えている。そして、すぐ横に頬を赤く染めた花子。

「…ばっこんなとこで…!う、飢えてのたれ死ね!…お昼なんかもう作ってやらないから!」
「そりゃ困る。俺死ぬときは花子のメシ腹いっぱい食った後がいいからな。」
「…っふん!」

すましたように取り繕ってキッチンに戻っていく花子は、あんなこと言いながらもきっととびきりの料理を用意してくれるに違いない。
なに食べたいかなんて決まってるだろ、俺が食べたいのは、花子が俺のために作ってくれたもの。それ以上に望むことなんてない。俺はそれを喜んで食べるんだ。

ご注文をどうぞ


「おーい。」
「…」
「おーいどーした作兵衛おきろー!」

fin.


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